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「無知に気づければ、本質的な気づきに出会える」インスピラボ研究員 宮入 麻紀子

インスピラボは、富士通のデザインセンターでサービスデザインに携わるデザイナーたちが、未来を発想するための「インスピレーション」を探索するために始動したプロジェクトです。

「#好奇心をドライブしよう」をコンセプトに、発想のきっかけとなる情報や体験の機会を提供し(インプット)、未来に向けた提案をつくりだす力(アウトプット)につないでいます。

この記事では、インスピラボ研究員の宮入 麻紀子(みやいり まきこ)さんを紹介します。

インスピラボ研究員 宮入 麻紀子

<プロフィール>
些細なことにでも気づける感度とそれを探しに行く柔軟なフットワークを大切に、よりよい未来へと導くためのリサーチとデザインを目指す。



リサーチと問いは、アイデアを「クールダウン」させてくれる存在

——— 宮入さんはインスピラボを立ち上げる前から、リサーチと問いの重要さを語っていましたよね。どんな点からそれらが重要だと感じたのでしょうか?
 
宮入: 私は元々UI/UXをやりつつ、お客様先への出向を経て、サービスデザインへと移っていきました。その中で「アイデアが、現在の延長線上になりやすいな」と感じていました。

延長線上ではないアイデアを出すには、アイデアを考える初期段階から思考を飛躍させ、誰もアプローチしていない・具体化してない部分にアクセスすることが大切です。そのために、リサーチってすごく重要だなと思っていました。

そして、楽観的とも言えるユートピアな未来ばかりではなく、テクノロジーが悪い方へと寄与してしまうような視点も持ち合わせ、「どうしたら私たちが生きたい・つくりたいと思える未来になるのか」を見定めていく必要があります。そうした冷静な視点を得るための手段が、リサーチだと思っています。

未来を考えるには、様々な方向性を描くことが大事


——— そうした「冷静な視点」を持つようになったのは、何かきっかけがあるのでしょうか?

宮入:  会社にデザイン思考ブームがやってきて、ワークショップでどんどんアイデアは出るけれど結局何も実現しない「アイデアの大量生産・大量消費」が発生したんですよね。それで、虚しくなってしまい・・・(笑)

そこから、アイデアを考える前のフェーズで、丁寧に時間をかけて「本当にこれって求められているんだっけ?」「他に同じようなアイデアやサービスってないんだっけ?」という「問う時間」もしっかり持ちたいと強く思うようになりました。

アイデア出しは「それ、いいかも」「あったらいいよね」とワイワイ楽しくやるのも大事です。けれどその前に、「リサーチ」と「問う時間」を持ち、私たちの「アイデア出したい欲」を一旦クールダウンさせると、もっと良いアイデアに出会えると感じています。

「変わらない価値観」から捉えた人間の本質

——— ここまでの会話をワークショップ形式で体験できるようにしたものが「ふヘンなみらい」かな、と思っています。こちらについて詳しく教えていただけますか?
 
宮入: 「ふヘンなみらい」は、ショートショートの創作という手法を用いて、深い対話や自由な発想の機会を生み出すワークショップです。


ありきたりなワークショップをやっても、ありきたりなアイデアしかでない。だからこそ発想をジャンプさせ、そのアイデアをショートショートというストーリーにすることで、これまで対話できていなかった部分に焦点を当てることができると感じています。

また、人は「変わる価値観」や「新しいもの」を日々追いかけていますが、「変わらない価値観」にも焦点を当てたことも大きな特徴です。

ふヘンな未来のコンセプト


——— 「変わらない価値観」に焦点を当てた理由は、どんな点からでしょうか?

 
宮入:  「変わらない価値観」には、人間の本質が現れると思ったからです。時間の経過で、人も社会も変わっていくとは思います。けれど、変わらないものがあるのだとしたらそれは本質なんだろうな、と。

——— その中で、「あ、これ人間の本質だな」と見えてきたものってどんなものですか?

宮入:  「ふヘン(普遍/不変) な視点」として8つの事項を挙げています。その中で私自身が気に入っているのは、古代中国で生まれた「陰陽論」の視点ですね。

ふヘンな視点
ふヘンな視点の一つ、「陰陽」

景気の波とか、人生の波、感情の波。
二元論でパキッと分かれるのではなく、波やグラデーションがあるという捉え方です。

私たちはデジタルで解決できるサービスを扱うことが多いですが、世界のすべてが01(ゼロイチ)で構成されているわけじゃない。けれど、効率や合理性を追及していくと、どうしても01や二元論の思考になりがちだな、と。

例えば、議論の場における「多数決で決める方法」なども一種の二元論の現れだと感じています。

しかし、実際私たちが生きている世界はデジタルではなくアナログで。
だからこそ、白黒はっきりできない部分や実は多くありますよね。

いつか、陰陽のマインドセットを活かしたままに、デジタルサービスに落とし込める日がくるのかなぁと妄想しています。

「知らないことさえ知らないこと」に、自ら出会っていく

——— 少し未来のことについても聞かせてください。今後インスピラボでやってみたいことはどのようなことでしょうか?
 

宮入:  改めて、世界には自分が知らないことがたくさんあるなと思っています。そして、知らないことさえ知らないこともたくさんあるだろうな、とも。

それをそのまま、無知の状態にしておくのはもったいないし、自分の世界を狭めてしまう。普段、目を向けていない部分にこそ、本質的なものが存在していると感じています。

なので、「知らないから怖い」となってしまうのではなく、知らないことに気づいて、「それってどういった世界なのか?」をリサーチすることが大事だなと思っています。

また、インスピラボとしては、「それって怖いものじゃないよ」、「こういう考えを持ってる人たちがいるんだよ」、「その考え方を自分たちに置き換えると、こう活用できるかもしれないよ」と伝えていきたいですね。

——— 最近、宮入さんが「知らないことさえ知らなかった」と気づいたことって何かありますか?


宮入:  
たとえばWeb3関連とかですね。先日、IVS Tokyo のカンファレンスリサーチをしたのですが、実際にそのカンファレンスでWeb3について体験しながら踏み込んで知っていくと、今後、みんなが動くきっかけさえあれば様々なことに活用されていきそうだなと実感しました。

数年前からブロックチェーンやWeb3の話は聞いていたのですが、自分がWeb3を体験したり活用するという部分までには至っていなかったワタシ。お恥ずかしいですが…。
IVSでの調査で感じたことを発表するイノベーションリサーチ勉強会の一コマ

また、自分の体験を他者に伝えることで、誰かの「知らないから怖い」を少し解消する手助けができたんじゃないかなと思っています。

ウォレットやNFT体験の全体像
サービスを横断し全体が見渡せることが安心感につながると思い、実態を伝えた


自分が知らないことに気づくこと、つまり、正直に知らいないことに向き合うことで、そこから関心を持って自分事として見るようになっていますね。

——— 最後に、最近気になっている「変化の兆し」と、ご自身の実践について教えてください。

宮入:  今年は、AIのさらなる進化や先ほどのWeb3だったりと、テクノロジーの進化がめざましいな、と。5年後には現在とまったく違う世界が訪れているかもしれない…といった焦りも正直感じています。

だからこそ、インスピラボも新しいテクノロジーと共に自分たちの在り方を模索しながら前進しています。

具体的には、SFプロトタイピングとして未来の世界をショートショートで表現する部分に、AIを活用しています。

AIを使ってショートショートを作成すると、人間が書くよりはるかに早く文章を生成でき、物語を書くという心理的なハードルを下げてくれます。

その一方で、AIによる生成結果は気まぐれ(笑)で、毎回の結果は同じになりませんし、人間がどのような「よい問いかけ」ができたかにもよって変わっていきます。生成された物語に新たな解釈や意味付けをするのも人間の役割です。

自ら新しい使い方を模索していくことで、よりよい未来の道しるべをつくっていきたいですね。

(インタビュー・執筆:小針美紀

2024.02.14追記 Talent Bookにも掲載いただきました。
よろしければこちらも併せてご覧ください。



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