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【011】 スタイルのある女性達はなぜヴィンテージカーを選ぶのか

『ヴィンテージカーは男の趣味の極み』なんて定説はもう過去の話になるかも!?クルマ業界が突入するモビリティ新時代において、実質的なターゲットの一端である女性層。女性向けにクルマをもっと簡単に、もっと可愛く、もっと経済的に。各社が”不慣れ”なプロモーションに四苦八苦する中、ヴィンテージカーをこよなく愛する女性たちもいます。長澤実香さんとNIMUさんはファッション業界の第一線で活躍する人気スタイリスト。その上、ふたりとも保育園に通う子どもを持つ現役ママです。そんなおふたりが毎日乗っているのはヴィンテージカー。長澤さんは1982年製のメルセデスベンツW123、NIMUさんはMINIクーパーの初期オースチンセブン1959年モデルのレプリカ。スタイルのある女性たちは今、なぜヴィンテージカーに乗るのか?佐藤夏生さんと岡崎五朗さんが迫ります。

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前列左からスタイリストNIMUさん、スタイリスト長澤実香さん。後列左からINSPRIRATIONS/MOBILITYのメンバー、佐藤夏生さんと岡崎五朗さん。


「愛時計」や「愛携帯」はないのに
「愛車」という言葉がある意味

佐藤夏生(以下、佐藤):今日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。
長澤実香(以下、長澤):こちらこそ、よろしくお願いします。
NIMU:よろしくお願いします。
佐藤:いきなり本題ですが、モータージャーナリズムはサスペンションがよくなりましたとか、自動運転が進化しましたとか、業界のトレンドやメーカーの開発情報だけではなく、ユーザーのリアルライフに寄り添うカルチャーも紹介すべきだと思っています。現役の女性ファッションスタイリストたちがヴィンテージカーに乗っているとか、すごく面白い。僕も25年前、古いアルファロメオに乗っていたんですが、青山で信号待ちをしていたら隣にイタリア人らしき老人が運転する最新のアルファロメオが停まって。窓がスッーと開いて、老人が「いいね」って。
NIMU:そういうのありますよねー。
佐藤:そこにはすごく粋な交流があった。とても豊かな経験だったりするのですが、乱暴に言ってしまえばそれをモータージャーナリズムが取り上げることはない。クルマが好きだって人たちが「いいね」する場所が少なくなっていますよね。
岡崎五朗(以下、岡崎):最近だと軽自動車がすごく良くなっていますよね?燃費も良くて室内も広い。走りも快適で高速走行も楽々。それに比べ、古いMINIなんて、狭いわ、暑いわ、うるさいわ、でしょう?
NIMU:おっしゃる通りです!
岡崎:僕の知る限りだと女性は結婚するとみんなミニバンに乗りたがるというのが定説なんですが、お二人はママでありながらオースチンだのW123だの、、、その選択は、、、すいません、まず言わせてもらうと、素晴らしい!
一同:爆笑
岡崎:モータージャーナリストを代表して感謝したい。おふたりがあのクルマに乗って現れた時、「嗚呼、これが世の中の女性のスタンダードだったなら」、なんて妄想してしまいました。でもそもそもなぜこのクルマを選んだんですか?旦那さんの趣味とか?
長澤:私です。結婚した時、夫は夫で別のジープに乗っていました。子供ができて、どちらか1台にしようということで私のになりました。オーナーとしては3人目。前のお二人がそれぞれ長く大事に乗っていたものを引き継いだ感じです。初めのオーナーさんは新潟にお住まいだったそうなんですが、車庫のあるところで大切に乗られていたそうです。その次のオーナーさんが私の知り合いの女性プロップスタイリストさんでした。アートディレクターの旦那さまにプレゼントとしてもらったらしいんです。
佐藤:へー、お洒落ですねえ。
長澤:旦那さまは旦那さまで別のクルマをお持ちだったようで、お子様の送り迎えをするために必要だったから、と。そうやって大事に乗っていたものの、時が経ち、家も建てて、お子様の送り迎えも必要なくなり、いよいよ手放すかという時に、もともと目をつけていた私が「はい!」って。
佐藤:目をつけていたんですね。
長澤:はい。でもその方も知らない人には譲りたくないという思いがあったみたいで。知り合いで、しかも女性なら、ということで。
岡崎:その気持ちすごくわかるなあ。
NIMU:わかりますねー。
長澤:もちろん旦那さまからのギフトだったので、本心は手放したくはなかったはずです。そんな思いも引き継いだ気がしているので、3年前に後方からぶつけられた時、業者さんに廃車にすべきじゃないか、みたいなことを言われたんですが、「それはできない」って。あの子(クルマ)が積み重ねてきたストーリーがありますからね。私、愛してますから、あのクルマを。
佐藤:そう考えるとやはり「愛車」って言葉が存在すること自体、すごいことでよね。
NIMU:確かにそうですね。
長澤:愛犬とか、普通は生き物に使う言葉ですよね。
佐藤:愛携帯とか愛机とか言わないですよね。
長澤:愛時計ですらないですからね。

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ススキノの路上に停まっていた
パンダとチンクエチェントに一目惚れ

岡崎:でもその愛情は目をつけた時から芽生えていたんですか?
長澤:私は北海道の札幌出身なんですが、札幌って雪深いけど、夏は気持ちいいので、セカンドカーとして古い車を持っている方が意外と多かったんです。
NIMU:へー。
岡崎:冬場は車庫に入れておいて夏だけ嗜む、と。
長澤:うちの父は、ハコスカやクラウンに乗っていたトヨタ信者だったので、国産の良いクルマには慣れ親しんでいたんです。でも10代のある時、ススキノの路上でフィアットのパンダとチンクエチェントが並んで停まっているのを見て、何これ!!って。形も色もすごく愛嬌があって、大人になったら絶対こういうクルマに乗りたい!!って。
岡崎:パンダとチンクエチェントですか。ちなみに何色でした?
長澤:チンクはベージュでしたね。そのイメージが今のクルマにも重なっていているのかもしれません。パンダは確か、水色みたいなグレーでした。
岡崎:まさにそのパンダに僕、乗ってましたよ。
NIMU:すごーい!!
長澤:絶対そういうクルマに乗るんだって思い18歳で免許とりました。でも自分のクルマを買う機会がないまま上京して、なんだかんだでクルマは持たないまま時間が過ぎ、、、。そしてたまたま今のクルマと出会ったんです。
佐藤:ではW123がファーストカーなんですか?
長澤:そうです。
岡崎:でも、そもそもパンダとチンクを見て、「いいね」って思える感性をお持ちだったんですよね。もともと個性的なものにご興味があったとか?
長澤:祖母がお茶の先生だったので、日常的に着物や花器など、古いものが身近にあって、そういうものが昔から好きだったからかもしれません。例えば昔から居間に置かれていた古い灰皿とか。灰皿なんて邪険に扱われがちなのに、ずっと残っているのはきっと誰かに愛されてきたからなんだろう、と。それを妄想するのが楽しかったんです。それは今でも同じですね。古着のデニムでも、膝ならわかるけど、なんでこんなところに穴空いてんの?とか、妙に愛着がわきます。
岡崎:やはりものが持つバックグラウンドとか、ストーリーなんですかね。
長澤:親や家族など、生まれ育った環境やまわりにいた人の影響は受けていると思います。
佐藤:親を見て自分の当たり前は作られますからね。シートの匂いとか、エンジンをかけた時の音とか振動とか、どこか記憶に残っているものがありますよね。
長澤:昔の車って国産車も流線型ではく、角ばってて、ゴツくて、がっちりしたデザインが多かった。それがかっこいいんだ、って思ってましたし、今でもそう思ってますね。

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80年代のテレビと
ガソリンスタンドで学んだこと

佐藤:そう考えると、パッとみて「愛情を注げるかどうか?」という第一印象もきっと大切なんですよね。例えば今の新車とか、何もネガティブ要素はないのだけれど、愛を注げるか?と聞かれると、迷っちゃいますよね。
NIMU:そうですね。ちょっと機械的すぎるというか。
佐藤:入り込めないというか、感情移入できないというか。
NIMU:完璧すぎるのかも。そこに個性とか性格を見出せないと、グッとこない。私、初めはボルボの940に乗っていたんです。
岡崎:ほー。
NIMU:乗りたいと思ったきっかけは、高校生の時やってたガソリンスタンドのバイトで。
岡崎:ガソリンスタンドでバイトしてたの!?
長澤:かっこいい!!
NIMU:私、兄がいるんで、元々バイクとか興味あったんです。しかもすごいテレビっ子だった。80年代後半から90年代にかけて、あの頃は民放でF1とかやってたんですよ。
岡崎:はいはいはいはい。
NIMU:セナとからマンセルとか。ホンダも強かったし、鈴鹿とか、そういうキーワードが毎週のように聞こえてきて。
佐藤:ははははは。
NIMU:私の場合はそこから全部始まってるんです。乗り物がかっこいい!とか。あの時代、クルマの素敵なCMもたくさんあったじゃないですか。
岡崎:ありました、ありました。
NIMU:お兄ちゃんがラジコンとかミニ四駆を改造するのを隣で見ていて、塗装したり、ニス塗ったりして、やっとできた!みたいなのが、すごい!かっこいい!!って。
長澤:可愛い!!お兄ちゃんもそんな妹が可愛くて仕方なかっただろうね。
岡崎:「お兄ちゃん、シンナー臭い!」ではなかったんですね。
NIMU:女の子のおもちゃって完成されたものが多いんです。着せ替え人形も、人形自体はもう出来上がっているので、1から組み合わせて作るみたいな楽しさはなかったんですよね。だから、男の子の世界って面白いなあってずっと憧れみたいのがあったんです。それで高校生の時にガソリンスタンドで働きたい!って。ずっーと洗車をやらされたんですが、クルマを近くでみたいという思いが強かったから、楽しくて。
一同:爆笑
NIMU:洗車する時、実際に乗るじゃないですか。そしてある日、ボルボ240のお客さんが来て、乗った時に「おー!こういう感じなんだ!かっこいい!絶対これに乗りたい!」って。でも程度の良い240に出会えなくて、その上240は壊れるからファーストカーではやめとけって助言もあって。で、940にしたんです。
岡崎:でも国産じゃなくて940だったんだ!
NIMU:ちょうど良いのが出てきたんです。なので、それにしたんですが、まあ渋谷のスクランブル交差点で止まるわなんやで、恥ずかしい思いもたくさんしました。
一同:おおおお〜。
NIMU:結果、色々あって廃車させちゃったんです。その時に一回、旧車はもういいかなって思っちゃって、その後プリウスαに乗ったんです。
一同:へえー。
NIMU:でも、すごくつまんなくて。
岡崎:だよねえー。
NIMU:なんだ、この空気清浄機は?って。もはやクルマとは言えないというか、少なくとも私の知っているクルマではなかった。エンジンかけてもかかってるのかわからないし、え!?なにこれ!?って。

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好きなものに乗っていると
同じくそれを好きな人が相槌してくる

岡崎:プリウスに乗ると、自我がなくなっていく感じがするというか、自分の存在をかき消されているような錯覚に陥る。極端な話、俺は社会に必要されてないんじゃないか?ってね。
佐藤:わかります。スーパーフラットな感じですよね。
NIMU:スーパーフラット!!まさに!!
佐藤:溶けてなくなる、みたいな。
岡崎:マスクつけて街を歩いている感覚に近い。
NIMU:でも私、その前にバイクにも乗ったんですよ。
佐藤:!!何乗ってたんですか?
NIMU:モトクロス。
一同:爆笑
長澤:NIMUちゃん、モータージャーナリストになれるよ!!
佐藤:車種は?
NIMU:ホンダのXLRです。うちの両親はホンダ好きだったんで、その影響です。その後に、本当はSRに乗りたかったんですが、ホンダでCB400SSというのが出て。
岡崎:CB400の現代版みたいなやつだ。
NIMU:はい、まさにSRに似せたやつで。キックしかなかったんですが。
岡崎:冬とか大変だったでしょう。
NIMU:でも、そのキックがやりたかったんです。
長澤:わかる!!
NIMU:キックでかけてる男の子たちがすごくかっこよくて。当時勤めていた代官山のヴィンテージショップに実家があった大宮から、毎日往復90kmバイクで通ってました。
佐藤:片道45km!?
NIMU:はい、毎日暖をとりながら。しかも、アルミのタンクにシングルシートでセパハンというバリバリのカフェレーサー仕様で。
一同:爆笑
NIMU:でも冒頭で佐藤さんが話してた、隣り合わせになった人が手を振ってくれるとか、そういう経験もたくさんあって、それがすごく嬉しかった。それこそバスの運転手さんが、勤務中なのに窓開けて「いいね」って相槌してくるとか。
佐藤:へー。
NIMU:好きなものに乗っていると、同じようにそれを好きな人が話しかけてくれる。
岡崎:そういう触れ合いって本当に豊かですよね。

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面倒くさいことに向き合うからこそ
磨かれるポリシー

佐藤:そういう経験を若いうちにしないと、今ヴィンテージカーに乗るという選択には至らなかったかもしれないですね。30代40代のビジネスコア、もしくは育児コアな時代に、いきなりヴィンテージカーには乗れないですから。
岡崎:そうだね、そういう意味で二人とも良い時期に良い出会いをしてるんだよね。
NIMU:バイクに乗っていたのも20歳ぐらいの時でした。そしてスタイリストの師匠につくとなった時に、師匠からバイクは危ないからやめてほしいって言われて、泣く泣く手放したんです。その時、すごく辛かったから、今乗っているクルマは絶対手放したくないって思うんです。
岡崎:古いMINIでも普通は12インチのタイヤでいいやってなるじゃないですか。10インチにしたら確実に乗り心地は悪くなるんですから。
NIMU:はい。
岡崎:でも10インチがいいんですもんね。
NIMU:あれがいいんです。
佐藤:今 MINIとなれば、BMWのMINIに落ち着くのがフツーですからね。それでも十分、「おしゃれですね」って言われる。
NIMU:スピードも出ますしね。
岡崎:運転、楽ですしね。
NIMU:今日だって遅刻ギリギリで「飛ばしていきます!」ってメールしながら、いや、スピード出ないし、って自分でつっこんでましたから。
長澤:うちも2日前にエンジン止まってますからね。
岡崎:へえー。
長澤:プスンとも言わずに止まるみたいなことは何度もありますよね。そういう時は冷静に一旦置く。30分置くとかかる、みたいなことありますから。
岡崎:再起動みたいにね。
長澤:そう、再起動。
一同:爆笑
佐藤:もう乗るのやめようと思ったことはないですか?
長澤:独身時代は一度もないですね。でも子供ができて、すごく暑い日に幼児だった長男を乗せたまま動かなくなった時は、さすがにちょっと考えましたね。でもじゃあ次に何乗るの?って考えたら、候補が全然なくて。
佐藤:結局ヴィンテージカーの何がかっこいいかって、やはりそれだけ面倒くさいことと付き合っていることがかっこいいんだと思うんです。相当なポリシーとスタイルを持っていないと到底付き合えない。
長澤:どこかものを超えている感じはありますね。
佐藤:ある種の意地ですよね。

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こだわらない、というトレンド

岡崎:ファッションや服もそうだと思うけど、なんでもみんな同じだと興味も薄れちゃう。クルマがまさに今、そうなっている気がします。
佐藤:ノームコアってファッションのトレンドがあるじゃないですか。それも結局、行き着くのはスマート化。スマートになると何が良いかって、そこに意識を持たなくてよくなる、ってことだと思うんです。昔はこだわることが楽しいと言われていましたが、今は「それ、もう考えなくていいですよ」ってこだわりを切ってくれることが、楽で、早くて、安くて、便利だ、って時代になりました。
岡崎:情報が多くなりすぎちゃっているから、そこから断捨離したいという気持ちもあるんですよね。
佐藤:なんだかよくわからなくなった時に、その領域のプロに「あなたはこれでいいですよ」って言われたら、その領域に関しては、もういちいち調べたり、考えたりしなくてよくなり、こだわりからリリースされて楽チンになる。そこに価値を感じてお金を払う、と。
岡崎:クルマも洋服も大多数の人が「こだわらなくていいや」という方に行っちゃった。
長澤:全体的に自分で選択する必要がない、という方向にシフトしていっている気がします。私たちの時代は、学校を卒業したらまず運転免許を取りに行くのが当たり前でした。でも今のアシスタントたちは、ほとんど免許持っていない。じゃあどんな子が免許取るのって聞くと、仕事で必要とか、就職のため、とか。免許を取るという選択は自分でするものから、働く環境がそうさせるものになった。
佐藤:その通りですね。
長澤:ピアスも同じなんです。今の子たち、ピアス開けないんです。イヤリングでいいです、って。
岡崎:へー、なんでですか?
長澤:必要がないって。ピアス開けることがかっこいいとか、そういう考えも、もうないんです。
佐藤:確かに若者はお金ないですからね。ファッションもそうだと思いますが、クルマもやはりお金がかかる。若いうちは親と同居でもしてないとクルマを所有するなんて到底できないですよね。家賃も払いながら駐車場代も払うとか、今の子たちにとっては超非現実的。

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あの頃はクルマが
コネクテッドアイテムだった!?

NIMU:私には7つ上の姉もいるんですが、バブルの恩恵を少しかじっていて。毎日彼氏がフェラーリに乗って迎えに来てましたもんね。
長澤:クルマ持ってなきゃ男じゃない、なんてことも言われてたもんね。
佐藤:あの頃「スタバ」はなかったんですよ。行くところがないというか、クルマがないとデートが成り立たなかった。
岡崎:そうだね。
佐藤:カフェとかなかったですよね?
岡崎:まあ、ないよね。
佐藤:ご飯食べて、その後ドライブしながら話したり、それこそ家まで送っていくよとか、とにかくクルマがなくちゃ話にならなかった。
長澤:それがスタイルでしたからね。
岡崎:クルマこそあの時代におけるコミュニケーションツールだった。あとは家の電話と実際に会うぐらいしかなかったわけだし。
佐藤:確かにあの時代のクルマってコネクテッドアイテムでしたね。友達に呼ばれたら行く、彼女を迎えに行く、送りに行く。クルマがあれば彼女の家までコネクテッド。当時、つながるためのツールが携帯やネットではなくて、クルマだったのかも。
NIMU:なるほどー。
佐藤:映画とディナーをつないだり、街と海をつないだり、自分の家と彼女の家をつないだり。ぶつ切りされていた点と点を、物理的につないでいたのはクルマだった。それが当時の最新スマートライフだった。
長澤:移動においては特にスマートでしたよね。
岡崎:あとは服も同じだと思うけど、自分のスタイルを表現するアイテムでもあった。持論なんですが、その人のライフスタイルを見るのに一番わかりやすいのは、まず「どんな家に住んでるの?」だと思うんです。でも自分の家の写真をパネルにして持ち歩いたりはしない。一方で服は毎日着替えるから、単体としてはそこまで生活のコアを表現しきれない。クルマってまさにその中間。どんなクルマに乗っているかで、その人のスタイルがある程度見えてくるんです。どんな家に住みたいの?どんな服を着るの?どんな本を読んでるの?と同じ感覚で、どんなクルマに乗るの?という観点をもっとみんなに持ってもらいたい。

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男性と女性のものの見方は、やっぱり違う

長澤:ほんとはみんな、クルマ、好きなんだと思います。少なくとも私たちのいるファッション業界は。ヴィンテージカーとか、乗り物とか、とにかく個性を表現できるものは好き。でも「止まったらどうするの?」とか、止まった時に自分に直す知識や技術がないから「私は無理かなあ」って断念しちゃう。
佐藤:お金もかかりますからねえ。
長澤:あとは男性と女性のものの見方って、やっぱり違うんです。男の人って、エンジンかけたその音がいい!となった後にボンネットを開けたり、メーター見たり、マフラーとか見て、細部を見はじめますよね。でも女性はもっとカジュアル。例えばファッションでも「これかわいい!」となれば、特に素材とか、裏地や縫い目を見たりしない。男性のスタイリストって、いいねえ〜と言った後に、イタリアのどこの工場?とか、袖を見たり、裏地を見たりする。
岡崎:貝ボタンだよね?とかね。わかる気がするなあ。
長澤:男性と女性だとものの見方やアプローチが全く違うんです。
佐藤:面白い。
長澤:見た目やインテリアは愛嬌のあるクラシックのままで、エンジンだけは最新のものなので安心してください、手間かかりません、というクルマが出てきたら、女性はもっと乗ると思います。
岡崎:コンバージョンEVでいいんだよね。エンジンじゃなくてモーターでいい。
長澤:「止まっちゃうかも」という不安感さえ払拭できれば、乗る女性は確実に増える。その実感はあります。
NIMU:むしろそれこそエコだと思うんです。0から生産しなくても、古いものをリユースできる。まさに古着と一緒でリサイクルというかアップサイクルというか。カスタム業者がちゃんとディーラーと組んでやったらいいのに、っていつも思います。家のリフォームも同じ。側はヴィンテージがいいけど、水周りだけはしっかりしていてほしいって。
佐藤:わかります、わかります。
岡崎:コンバージョンEVをやっている友人がいて、どういう需要があるの?って聞いたら、クルマ好きだった父親が亡くなって、古い車を遺産として相続したんだけど、朝エンジンかかんないとかいやだなあ、でもこの形は好きだからどうにかしたい、って。
佐藤:そういうニーズはありますよね。

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ヴィンテージクローズにしかない価値とは?

佐藤:ちなみに今、古着屋とか儲かってるんですか?
NIMU:実は今、日本の古着屋は売れているんです。というのも世界で程度の良い古着はアメリカやヨーロッパには全然なくて、全部日本人が買い占めちゃったんで、日本にたくさんあるんです。
岡崎:なるほど。では古着において今の技術ではできないものって何かありますか?
長澤:やはり生地ですかね。現代の生産技術は確かに上がっているんですが、作れなくなっている生地もあります。
NIMU:まさにデニムなんてアメリカ産のものは、今、店頭で売っているものだけで、今後はなくなっちゃいます。生産自体が終わっちゃうんです。その分、ヴィンテージの価値はさらに上がるんですが、一方で本物が無くなるということでもあります。生地や技術など作る側もそうですが、着る側としても本物に触れる人が少なくなってしまう。古いものを新しいものと組み合わせて、違う形でアウトプットする必要性を強く感じています。
岡崎:では昔の生地ならではの良さって何ですか?
長澤:昔の生地は丈夫です。逆になんで現代のものはこんなに簡単に穴が開いたりボロボロになるんだろう?って思うぐらい。60年代とかの古着って生地自体が糸から手作業で紡がれて作られているので、とにかくしっかりしている。その分、作るのに時間はかかりますよね。それが機械化され、単価を下げるために使う糸の量を減らし、縒り(より)を緩めたり。
NIMU:現代はスピードとコストをとったってことですよね。
佐藤:どちらにせよ経済ファーストですよね。
長澤:残念ながら今のファッション業界の主流は、捨てることが前提のものづくりです。服に関わる仕事をしている立場としては、とても心苦しく、ずっとどこかに引っかかるものがあります。だからと言ってその流れに真っ向から背いても仕方ない。それであれば目線を変えて、「すぐ捨てる」とか「長く使う」とか時間の概念ではなく、「それを大切にできる自分がいるか?」と考えるようにしています。誰かの銘品が自分の銘品になるとは限らない。自分にとっての銘品とは何かをちゃんと知っていれば、例え100万円のものでも、結果的には減価償却できる。
岡崎:イギリスの王室も、もっとも価値のある宝石は、一族が代々受け継いだもの、と言ってますしね。
NIMU:デザインをちょっとずつ変えたりしてね。
長澤:そうそう。
NIMU:当時の技法はもう絶えてしまったかもしれないけど、そのものを加工しながら、新しいカタチに変えて継承していく。その価値をファッション業界から発信していきたいですよね。
長澤:少なくとも古着好きの人にはヴィンテージカーの良さは伝わるよね。

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キーワードはライブ感と息遣い

佐藤:モビリティでこだわりが希薄してフラット化いく世界と、一方でホビー的な価値観を追求して、好きな人同士が繋がっていく。これからはその両方がより活性化していくと思います。機能的なものはシェアすればいいし、保有するんだったらこだわりたい、と。
岡崎:僕は仕事柄、新しいクルマにはよく乗るんですが、自分では古いクルマに乗っているんです。それで思うのは、この30年間でクルマは実質的には進化していないんだよな、と。
NIMU:なるほどー。
岡崎:だってNIMUさんもプリウスαに乗ってつまらないと思った訳ですよね?MINIの方が面白い!とか、気分が上がる!って。じゃあ、そのJOYとしての側面では、むしろ退化しているんです。確かに排気ガスは少なくなり、壊れないし、自動ブレーキもついて安全になった。でもそれだけじゃない。楽しいな、と思えるハートの部分をクルマ業界は無視しすぎてしまった。
佐藤:音楽だとライブとCDの違いもそうですね。ライブはやっぱり楽しい。アーティストの思いとか、熱量がダイレクトに伝わってくる。でもCDなど、整音されたものになると、その温度が一気に薄まり、なんか冷めてしまう。CDが売れなくなったのは決してメディアだけの問題ではなくて、整音しすぎたんじゃないかなって思うんです。
長澤:CDだとアーティストがちょっと遠く感じるんですよね。
佐藤:でもライブ盤のCDだと、現場の熱量も入ってるから少し上るというか。
NIMU:わかります!そうかも!
佐藤:やはり整理整頓、整備しすぎた世界は面白くないんですよ。
岡崎:クルマのカタログ写真なんてまさにそうだよね。ピッカピカに光当てた車体に、タイヤの部分だけCG加工して、颯爽と街を走っている風、って、そんな画像に感情移入できるはずがない。
佐藤:そこにリアルなライブ感はないですからね。クルマ業界はほんと遅れていますね。一方で今、音楽業界はライブの収益がすごく上がっているのでアーティスト含め、みんなライブに注力している。ある種、健全に回帰している。
長澤:本来の姿に戻った感じですよね。
NIMU:私はラジオが大好きで、ほとんどラジオしか聞かないんですけど、やっぱりあの「一緒に喋ってる感」が楽しい。MCのコメントに「わかる!!」とか一人で応えちゃったり。共有したいのは、息遣いとか、そういうものなんですよね。
岡崎:プリウスに息遣いはないもんねー。
NIMU:そもそも壊れないですから。壊れたら、なんで壊れたんだろう?って調べて、原因がわかれば、そうか!じゃあ自分の乗り方も変えなきゃね、って反省する。それって一種のコミュニケーションじゃないですか。そういうことがひとつひとつ、子育てにも通じるんです。毎朝子供のコンディションをチェックするようにクルマもチェックする、みたいな。

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子育てとヴィンテージカーライフの
意外な共通点

長澤:うちの子(クルマ)も昨年はエンジンの温度が上がって全然下がんなかったんです。ベンツなんで冬は強いんですけど、夏になると「フエ〜」ってなる。エンジン自体は強いので、要は心臓は強いけど、他の気管が少しずつケホケホし始めるというか。時たま「あなた5月病なの?」って思ったりもします。
佐藤:面白い。
長澤:そうすると、クルマの構造とか、全然詳しくないし、興味もないんだけど、「どうしたのさ?」って自分でボンネット開けて、見るようになるんです。で、あれ?ここって、水入ってなくていいんだっけ?とか調べ始める。それは子供が変な咳をし始めたり、ちょっとブツブツができたら、その原因を探るのと一緒で、詳しいわけじゃないけど、なんとなくわかってくるものなんですよ。
NIMU:わかります。だから絶対女性は向いてると思う。
佐藤:「女性はヴィンテージカーに向いてる」!それ相当面白いですね。
岡崎:なるほど、母性ってことね。
長澤:愛車だから、母性なんですよ。感覚的なものかもしれないけど、あれ?いつもとエンジン音が違う、おかしいな、って気づくのはきっと女性の方。
岡崎:確かに男は、子供の泣き方が昨日と違う、とか気付かない。
NIMU:あと、保育園にこのクルマで子供を迎えに行くと、他の子達が「わ〜!!」って乗ってくるんですよ。「可愛いクルマ!」って、手を振られたりもします。
岡崎:子供達もわかるんだね。
NIMU:そういうのは母としても嬉しいし、クルマ好きとしても嬉しい。

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信じられるクルマ、ショップといかに出会うか

佐藤:二人とも信じられるクルマ、信じられるショップ、人と出会えているんですよ。そういう出会いがあると、いいヴィンテージカーライフを送れる。逆に変なクルマをつかまされたり、嫌な思いすると、もう二度と乗りたくなくなる。でも最近は変な業者も減ってきましたよね。昔はたくさんいましたけど。
岡崎:中途半端だともう生き残っていけないからね。メーター戻しなんて当たり前でしたから。
長澤:メーター戻してんだんですか?
岡崎:いましたよー。今はデジタルだからできないけど、アナログのものはモーターつけて逆回転させるとか。今は相当厳しくなってるので、もういないと思いますけど。
佐藤:有名なショップは愛されていて、今でも残っていますよね。まさに子育てというか、教育機関にも同じようなことが言えますね。とにかく健康的なヴィンテージカーはすごくいい。
長澤:ちょっと止まったぐらいじゃ、驚きもしないですから。
岡崎:その上、日本、ましてや東京なんて、どうにかなるじゃないですか。強盗に遭うわけでもないし、すぐ助けも呼べる。JAFだって呼べばすぐくるし。
長澤:そうなんです。保険も充実してるから、レッカー呼んでも近距離であればほぼ保険でまかなえます。
NIMU:せっかく土地の狭い国に住んでんだから!って思いますよね。
岡崎:案ずるより産むが易しな感じはありますねえ。

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カーライフをもっと
リアルにイメージさせる

長澤:やっぱり一回乗ってみることが大切なのかも。見ただけだとわからないし、「乗りたいけど、大変よね」って頭で考えている人たちが多い気がします。私たちスタイリストでいう試着と一緒。やっぱり服は着ないとわからないですから。
佐藤:クルマも実際にハンドル握って、アクセル踏んでみないとわからないですからね。
岡崎:僕はクルマを売る現場に行くたびにいつも言っていることがあるんです。試乗だけで終わらせるのはもったいない、お客さんが試乗しているところをパシャッと写真に撮って、それを見せながら「お似合いですね」とか、言うべきだよ、って。
NIMU:確かに!!
岡崎:試着したら鏡を見て自分に似合うか確認するわけですよね。クルマだって同じ。そのクルマ本体がどうのこうのだけじゃなくて、それに乗った自分の姿やそのさきにあるライフスタイルをイメージさせてあげる。クルマもそうやって売るべきなんじゃないかって。
長澤:それすごくいいと思います。
佐藤:ファッションと育児とクルマ、思いも寄らない接点やヒントがたくさんありましたね。「女性はヴィンテージカーに向いてる」なんて、もはや可能性しか感じないテーマです。今後もこの対談は続けていきたいですね。今日はありがとうございました。
岡崎:いやあ、とにかく女性にクルマ大好き!って言われると本当に元気出ますよ。ありがとうございました。
NIMU:こちらこそ、これからも色々教えてください!!

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