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再発防止策~”やってる感”になってないか? 羽田空港航空機衝突事故、調査と対策の問題点=「刑事捜査優先」では真相解明できない


【画像① 1月2日夕、羽田空港C滑走路で離陸待機中の海保機と着陸してきた日航機が衝突した。炎上しはじめた日航機からシューターを使って脱出する乗員、乗客ら。】



◆「国交省の対策は”やってる感”出してるだけ」~現場関係者から厳しい指摘


正月2日目の夕刻、日本で最も航空機発着が混雑している羽田空港で、地上滑走路に進入した海上保安庁機(ボンバルディアDHC-8-300)と着陸してきた新千歳空港発のJAL516便(エアバスA-350-900)が衝突する事故が発生した。残念なことに、海保機搭乗6名のうち機長を除く5名が死亡したが(機長も大やけどで重傷)、日航機側は乗員による適切な誘導もあり、乗客乗員全員の379名(乗員12名、乗客367名)が破壊された機体から脱出できた。海保機は完全に破壊され、日航機は人員脱出後に胴体が全面的に炎上して大破した。


1月9日、国土交通省航空局は「航空の安全・安心確保に向けた対策」を発表すると共に、衆参両院の国土交通委員会の理事懇談会に対する説明を行った。筆者が入手した資料は、画像②に示した図の他、「JA722A(※海保機)とJAL516に関する交信記録<仮訳>」、それに海上保安庁の「ご説明資料」(画像③④)だ。




【画像② 国土交通省航空局が国会議員への説明に用いたペーパー「航空の安全・安心確保に向けた対策】


実は、この度の事故(インシデント)について、後述するような警察対応の問題、あるいは羽田空港などをめぐる状況について大変懸念するところがあり、国会議員へ来る通常国会における質疑でぜひ取り上げて欲しいという思いから、航空関係者などへの聴き取りを行い、その内容を本日あさ9時から配信した「NEWS常一郎」でも集中的に取り上げた。また、民間旅客輸送の航空関係者(パイロット、客室乗務員、整備士、管制官その他)からなる航空安全推進連絡会議(議長=永井丈道氏)からの事故に対する意見聴取を友人で衆議院国土交通委員・たがや亮衆院議員と共にする機会も得た(今回の事故に対する同連絡会議の声明は画像⑤)。



(参考映像)「航空事故!警察情報リークと真の再発防止策」2024/1/20 NEWS常一郎 土曜朝9時

https://www.youtube.com/live/yD3AQdsVKKA?si=EWsqSXgJJ8wotBx7


同連絡会からは現職機長2名が説明に来てくれたが、それぞれ地上滑走路や管制上の安全問題等について、担当し研究されている方々だった。これらの方とあわせ、筆者は独自に以前の本noteでも紹介したように、引き続き航空自衛隊の管制官経験者や元幹部、陸上自衛隊飛行学校関係者らからも意見聴取を行った。


そうした中で、まず衝撃を受けたのは、国交省の説明ペーパーに対する現場業務従事者の感想だ。



「はっきり言って、”やってる感”を出しているだけ。第1ステップの『航空の安全・安心確保に向けた緊急対策』なんてたいそうなタイトルつけていて、実際の対策は『基本動作の徹底指示』とか『ルールの徹底』とか、ふだんやっていること、例えば『まわりをよく見ろ』なんて一般論を並べているだけ。パイロットも管制官も、『そんなことはいつもやってるよ!』と言いたくなる内容だ」




【画像③④ 航空局・海上保安庁「ご説明資料」 令和6年1月9日、衆参国土交通委員会理事懇談会での説明資料の一部】




【画像⑤ 「2024年1月2日に東京国際空港で発生した航空機事故に関する緊急声明」 ※本note 1月7日投稿記事にも掲載】



◆「事故対策検討委員会」にはパイロットの委員なし


さらに、現場関係者たちが述べたのは、第2ステップと位置づけられた「羽田空港航空機衝突事故対策検討委員会」の構成についての疑問だ。



「現場で働いてきた経験をふまえて考えるなら、この度の羽田の事故の再発を防ぐための検討すべき内容は15項目くらいあると思う。このペーパーにも、『パイロットと管制官に対する注意喚起システムの強化』とか『交信の見直し』なんてあるが、これを話し合う委員が大学教授の他、現場業務の当事者はひとりもいない。これで、具体的な内容を有効に検討できると、国交省航空局は考えているのか?」


たしかに、座長(小松原明哲・早稲田大学教授)以下9名は、東大、茨木大、慶応義塾大の陽樹の他、研究者(自動車技術総合機構の上席研究員もいる)や研究機構の理事、それに相当以前に引退した元パイロットの「評論家」だけで構成されている。




【画像⑥⑦ 羽田空港航空機衝突事故対策検討委員会 規約と委員名簿】



「以前からそうだが、国交省航空局は現役パイロットなど現場の業務従事者の事故対策検討面での参加を軽視してきている。ここはぜひ、世間も知ってほしい」


「さらに、第3ステップとしている『運輸安全委員会の調査報告を受けた抜本対策』だって、事故調査の独立した主体であるべき運輸安全委員会も国土交通省の下部組織の位置づけだ。今回、管制などは国交省航空局の所管業務であり、国交省にとって都合の悪いことを『公正・中立に調査する』ことが妨げられかねないスタンスになっている」



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