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ABILITY & AKIFUMI TADA

作・編曲家の域にとどまらず、ピアノ・キーボード・ギター・ベースの他にも木管・金管楽器・ヴァイオリン・ヴィオラ・パーカッションから箏などの和楽器に至るまでのあらゆる楽器を演奏するマルチプレイヤー、指揮者として幅広く活動をされる多田彰文さん。

ゴスペラーズ・やなぎなぎ・茅原実里・中川翔子など歌手やアーティストのツアーサポート・サウンドプロデュース・編曲、アニメ「魔法つかいプリキュア!」のエンディング主題歌作曲をはじめとするプリキュアシリーズを編曲、劇場版では「ポケットモンスター」「クレヨンしんちゃん」などの背景音楽を作曲する多田彰文さんに、DAWとの関わりやABILITY 3.0の魅力をインタビュー。

モックアップ(デモ)の制作用や劇伴制作においても何か変わった表現づけをおこなうためのツールとして、DAWや音源を使用。

━ 音楽家としてDAWをどのように活用されていますか?

かつて多重録音と言われていたマルチトラックレコーディングの時代から、いろんなレコーディング機材を使って、いわゆるモックアップや、自分がイメージするものを作ってきましたが、DAWにかわってから積極的に活用しているのは、今ならではの新しいサウンドです。

音源自体も、特に生音源は非常に再現力が豊かになってきたので、クライアントさんにとってよりわかりやすいモックアップやデモの音源を作るためのツールとして使うことは多いです。

━ クライアントさんにデモとして提示するわけですね?

そうですね、デモとして提示します。
でも、僕の場合はそれで完結するということではなく、劇伴の場合は最終的には管弦楽をスタジオで指揮を振って録音するわけですが、録音する以外のシンセサイザーやループ、あるいは特殊な楽器で、その楽器自体を調達することや演奏が大変なものは音源でアシストします。

あとは、生楽器でも演奏者にお願いするにはちょっと不可能かなと思えるような奏法の場合は、あえて音源を使うことで、何かひとつ変わった表現ができないかな、というツールとして積極的に活用することは多いと思います。

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━ ABILITY 3.0からマルチ音源の「IK MultimediaのSampleTank 4 SE」がバンドリングされましたが、どのような印象をお持ちですか?

実は、僕はSampleTank 1からずっと使っています。

SampleTankの何がよいかというと、中低域の音が特長的で表情がすごく豊かなところや、ループのライブラリが豊富なところですね。

次はどういう曲を作ろうかなと思った時に、何となくループものを流してイメージを膨らませる感じです。
ミュージシャンというか作曲家にとって触発されるライブラリがいっぱい入っているので、非常にワクワクしてきますね。

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“リバーブやディレイなど収録のエフェクトの精度もよく出音がすごくいい。”

━ ABILITY3.0について、どのような印象をお持ちですか?

いろんなことができる機能が備わっている中で、数少ない数値入力に長けているDAWであるかと思います。
僕は、かつてはMS DOSの時代に仕事で数値入力に長けたソフトをずっと使い続けてきた経緯があったので、非常に懐かしいなという思いがあります。

そして、Singer Song WriterからABILITYになって、一連のDAWと肩を並べると言うか、本当に追い越すような勢いで、いろんな機能が盛りだくさんになっているように感じます。

印象的な機能というと、リアルタイム入力やスコアによる音符入力、コード進行に関してはコードをアシストしてくれるコードパットですね。
いろんな入力方法が揃っています。
さらに音源も豊富になったし、トラックの見え方もすごくスマートで非常に制作しやすいツールだなという印象を受けました。

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━ 特に気に入った機能はありますか?

Windows版のDAWは、いろんなソフトの選択肢がありますが、ABILITYは気のせいなのかもしれませんが、何か出音がすごくいい感じがしています。
これは何がいいのか、もちろん使っているオーディオインターフェースなどいろんな要素があると思いますが、僕的にはソフトに収録されているエフェクト、リバーブとかディレイとかその精度が非常によいと感じています。

特に、リバーブはすごく豊かで奥深くきめ細かいリバーブが掛けられて、そういうところがすごく気に入って使用しています。

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“劇伴制作に欠かせない楽譜。
自分が打ち込んだもの、形にしたものをすぐに楽譜で確認できるのが便利。”

━ 劇伴の録音では指揮もされていますね?

指揮は劇伴では楽譜とあわせて欠かせないもので、録音する際はその場をディレクションするという役割になります。

演奏者と一緒にブースに入って、楽譜を見ながら自分がどういう曲を作ったかということをまず説明して、リハーサルを経て録音をします。

そういった役割として指揮者がいる訳ですが、クライアントさんには音楽の難しい専門用語はなかなか理解してもらえないので、もっと抽象的な言葉や、あるいは分かりやすい言葉に置き換えて説明をします。
クライアントさんと演奏者を作曲家として繋ぐ役目をするインターフェースのような感じですね。
これは、自分以外の方の作った曲を指揮する場合も同じです。

クライアントさんからの要望があったものを、演奏家に演奏家の言葉で伝える、そして指揮棒で表現をするという役割があって、限られた時間でベストパフォーマンスを尽くしてレコーディングを進められるように調整するという役割かなと思います。

━ ABILITYの楽譜機能はいかがでしたか?

劇伴で欠かせない大切な要素として、演奏者に演奏していただく上では、やはり楽譜です。
演奏者に渡す楽譜が必要です。

そういう点において僕は、DAWでモックアップをつくり、例えば頭の中でイメージしたものを、手書きのスコア、いわゆる五線紙に鉛筆で書き写しや、直接五線紙に書いて作曲をしてきましたが、ご時勢柄すごく便利になってきて楽譜作成ソフトで打ち込むこともありますし、DAWの方からMIDIを読み込んできて楽譜を作成することもあります。

その中でABILITYがいいなと思うところは、ひとまず自分が打ち込んだもの、形にしたものを、すぐに楽譜で確認することができる点です。

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表示される楽譜も非常に見やすいですし、例えば、トランペットと管楽器を打ち込んでいる時に、音関係や位置関係とか、あるいはストリングスなんかでも、和声の関係ですかね、楽譜上ですぐに確認ができるところは非常に便利ですね。

もちろん、音を聞いて判断することもありますが、時には楽譜上で、どういう音程の関係性になっているのかというところは非常に大事なことだと思います。

あとは、演奏者にとってこの音は出せないのではないかなとかですね。そういったものを楽譜上でしっかり確認をして、出力するという時に非常に重宝して使っています。

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“印象的なメロディ作りに欠かせない7対2対1の法則と、歌ものには欠かせないコード進行。”

━ 楽曲制作におけるメロディとコードに関してお聞きしたいと思います。

多田さんの楽曲におけるメロディとはどんなものでしょうか?
どんなジャンルにおいてもメロディは欠かせない要素ですが、劇伴においては比較的メロディがないものがあって、メロディがあるとちょっと主張が強すぎるのでそこを避けることもあります。

ただ、コードの中でおおらかにその流れを作っていくと、それもひとつのメロディという考え方になると思いますが、はっきり作らなきゃいけない場合は、受け手側にとって心地よいとか覚えやすいとか、印象的な条件に合ったものを作り出していくように心がけています。
自分が聴いてきたものを消化して作り上げていく訳ですが。

━ 印象に残るメロディを作るコツはありますか?

印象的なメロディはどう作るのかと言うと、これは僕の持論になりますが、7対2対1という法則があります。

7割は誰もが知っている、2割は誰も知らないが僕は知っている、残る1割は誰も知らないし僕も知らない、未知な可能性ですね。
このバランスを心がけてメロディを作っていくことは非常に多いと思います。

━ アニメソングで重要なことはありますか?

アニメの劇伴や主題歌の制作に関わることが非常に多いですが、アニメの楽曲も長い歴史の中で流行りが存在します。

作家性と言うか自分にしかできないものを曲として表現していくのも重要ですが、やはり巷の流れに乗るという要素も非常に大事です。

アニメの楽曲をイベントで歌うとか、カラオケで歌うとすごく盛り上がるんですよね。
例えば、ペンライトを振って一緒にその空間を楽しみたいイベントなんかそうですね。

なので、バックトラックのサウンドよりも歌ってくれる歌手や声優さんが、できるだけ気持ちよく歌ってくれて、聞き手の皆さんもその世界に、アニメの世界に浸っていただけるような環境づくりを考えながら曲作りをすることをモットーにしています。

━ 誰もが歌いやすいメロディということですか?

もっと具体的に言うと、イントロは極力短く、間奏も極力短く、歌い終わったらエンディングがすぐ終わる、この三つを心がけるようにしています。

━ ではコードについての考え方はどうでしょうか?

劇伴の世界ではコードという概念はあまり使わず、横の流れで作っていくので、なかなかそれをコードとして当てはめていくと、大変な表記になっていくものだったり、表せないものもあったりするので、いろんなジャンルにあわせて適材適所で考えます。

歌物とかそういったジャンルでは、やはり切っても切れない関係な訳で、コードから作っていくこともありますし、いろんな曲を聴いていて、『あ、これいいな』っていう美しいコード進行があれば自分でメモにとっておいて、自分なりに消化をして使っていくというやり方をしています。

━ コードパッドについてはどうでしょうか?

通常は自分の好きなコード進行を直接打ち込みますが、コードパッドは、調に応じて最もよく使う7つのダイアトニックコードが提示されて、その基本の7つのコードを中心にして、そこから派生するコードが効率よく並んでいるので、簡単な話ポチポチポチっと押していくだけでサマになっていく。
またメディアブラウザを使うと、代表的なコード進行とか、こういうコードを使った方がいいよ!みたいなコード進行がライブラリにあって、たまに自分の引き出しにないものだったりすると新たな発見があって、ちょっとそれを自分なりに変えて参考にしたりすることもできますね。

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“映画『星を追う子ども』ではオーケストレーションを、『クレヨンしんちゃん』のスピンアウト・アニメ『スーパーしろ』では音楽を担当。”

━ 最近の活動についておしえてください。

おかげさまで数多くの作品に関わらせていただいている訳ですが、新海誠監督の映画『星を追う子ども』ではオーケストレーションと言って、主にオーケストラに楽曲を作り直して、その中で指揮を振ってレコーディングするというお仕事をしました。

また、印象的なものとしては、Z会のコマーシャルソング『クロスロード』という楽曲ですが、この曲は新海監督と共に作詞をさせていただいておりまして、合成音声による歌声なんかも使っていろんなやり取りをして作りました。

近々の作品では、『クレヨンしんちゃん』からスピンアウトした『スーパーしろ』というタイトルのアニメで、音楽を担当しています。

実はこれ、5分のアニメが何話も続きますが、その5分全てをフィルムスコアリングと言って、映像に音楽を合わせていく作り方をしています。

通常のテレビアニメと違って細かく合わせていくので大変でしたが、すごくやりがいもあって、一つひとつの動きに合わせてそれにあった音を作りましたが、ABILITYに収録のライブラリの音に刺激を受けながら作っていきました。

【多田彰文さんプロフィール】

作・編曲・オーケストレーションを手使海ユトロ氏、指揮法を国立音楽大学・大澤健一氏に師事。
日本大学文理学科英文学専攻在学中より音楽活動を始め、ゴスペラーズ・やなぎなぎ・茅原実里・中川翔子など歌手・アーティストのツアーサポート・サウンドプロデュース・編曲などを手がける。

アニメーションでは「魔法つかいプリキュア!」ED主題歌作曲をはじめとするプリキュアシリーズを編曲。劇場版では「ポケットモンスター」「クレヨンしんちゃん」などの背景音楽を作曲する。また、Youtube動画再生が650万回を突破、新海誠監督のZ会CM「クロスロード」では編曲のほか作詞をも手がける。

ピアノ・キーボード・ギター・ベースの他にも木管・金管楽器・ヴァイオリン・ヴィオラ・パーカッションから箏などの和楽器に至るまでのあらゆる楽器を演奏するマルチプレイヤー。スタジオレコーディングでの指揮やインターネット動画番組の司会までもこなす。

■主な作品■
◎音楽監督・サウンドプロデュース
・茅原実里セルフカバーシンフォニックアルバム「Reincarnation」(フルアルバム・編曲)
・今滝真理子 「あなたの手」「Cheap Chic」(フルアルバム)
・人間国宝・坂東玉三郎コンサートツアー(音楽監督・編曲)
・2.5次元マルチコンテンツ「Re:Union」(音楽監督・作曲・編曲・ステージ演奏)...他
◎作曲
・「魔法つかいプリキュア!」主題歌エンディングテーマ「CURE UP↑RAPAPA!~ほほえみになる魔法~」
・「ポルフィの長い旅」(TVアニメ[ポルフィの長い旅]主題歌)
・TVアニメ「桃華月憚」(主題歌・キャラクターソング・背景音楽全作曲)...他
◎編曲
・「GO!プリンセスプリキュア」主題歌EDテーマ「ドリーミングプリンセスプリキュア」(北川理恵)
・やなぎなぎ「クロスロード」(Z会×新海誠コラボレーション テーマソング・共作詞/編曲)
・中川翔子「TOKYO SHOKOLAND2014~RPG的未知の記憶・しょこたんかばー番外編」(全編曲)
・ゴスペラーズ「in the Soup」(4thアルバム収録)...他
◎劇場アニメ
・「詩季織々」音楽監修・編曲・レコーディング指揮
・「中二病でも恋がしたい! Take On Me」音楽監修・編曲・レコーディング指揮
・ポケットモンスター「ベストウィッシュ ビクティニと黒き英雄ゼクロム」(2011年)
・クレヨンしんちゃん
「バカうまっ!B級グルメサバイバル!!」(2013年)
「嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス」(2012年)
「黄金のスパイ大作戦」(2011年)
「超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁」(2010年)
・新海誠監督劇場アニメ「星を追う子ども」(編曲・一部作曲)
・東野圭吾原作映画「白夜行」(オーケストレーション)...他
◎TVアニメ
・「スーパー・シロ」「グラゼニ」「となりの関くん」「クロスファイト ビーダマン」「真・恋姫無双」「はっけん たいけん だいすき!しまじろう」「ファイナルファンタジー:アンリミテッド」「サイボーグ009」...他
◎TVドラマ
「キッズウォー5」「ウルトラQ dark fantasy」...他
◎ゲーム
「ガンパレードマーチ」PS・「金八先生」PS2・「爆ボンバーマン」任天堂64・「エルシャダイ」 (オーケストレーション/コーラスアレンジ) PS3/Xbox360・「プリンセスコネクト Re:Dive(iOS・Android・Web)...他

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ABILITY 3.0 Pro



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