松本零士

松本 零士(漫画家)

1938年、福岡県久留米市生まれ。「男おいどん」、「宇宙戦艦ヤマト」「銀河鉄道999」「キャプテン・ハーロック」等など、キラ星の作品群をもつ大マンガ家。インターネットでの連載も持つ。

- Interviewz.TV - 収録日 2001/02/01

――すごい部屋になってきましたね。

松本「物置ですな。三葉虫の化石やパラサイト……これは47億5千万年前の太陽系ができるときに惑星になりきれなかった破片の残骸です」

――へぇっ!

松本「この部屋の中で一番古いものです。地球より古いですから」

――どうやってそんなものを入手……。

松本「人からもらったんですよ。だから、そう言われてるもので、うそか本当かわからない」

――なんじゃ、それ。あ、ここに森雪のフィギュアがある。最近、どっと出てきましたね、松本キャラフィギュア。

松本「そうですね。ちょうどそういったものを懐かしんでくれる世代がでてきたんでしょうね。「ヤマト」だけじゃないですよ、「ハーロック」や「999」……幼児期にテレビで見てくれた人がよく最近ここに訪ねてきて、一緒に仕事がしたいといってくれます。外人でもそういう人がいて、「オレはハーロックのようになりたいと思った」とか。聞くと「5歳の時見た」と。それでまず、これを飲んでくれとワインを飲み干してから仕事の話に入ったり」

――まんまハーロック。

松本「そう。いわば、同じ意識を持った……次の世代に夢のバトンタッチをやってる感じで楽しいです。それと、私の作品の舞台背景は、繰り返し描いてますから世代間に持続性がある」

――「ハーロック」や「エメラルダス」は、宇宙をさすらっているキャラですから永続感は感じますが「999」のような完結しているものまでひっぱるのは……。

松本「いや、やろうと思えばどこまででも走れますよ(笑)。「999」は時の輪をめぐる話で、時の輪とは無限大のことですから」

――鉄郎がかわいそうですよ。

松本「でも、永遠の少年として旅できるんだから。一種の自分の身代わりみたいなもんで……鉄郎には歳をとらせたくないんです」

――「999」は編集側からの依頼で復活したんですか?

松本「私が続けてやりたかったんです。地球の再生まで時の輪を一巡りさせたかった。ビッグバンから現在まで、過去をも旅させようと。「999」は宇宙空間検分録です」

――20世紀後半から先生は少年漫画にシフトされてますよね。それは「999」のような「少年的好奇心」が男女間の好奇心より上だということですか?

松本「少年漫画というか、ずっと一貫して中学生の頃から同じものをテーマに描いている」

――SEXシーンがどんどんなくなってきましたよね。

松本「いや、描こうと思えばどれだけでもかけますよ。ただ描く必要のない舞台を扱っているから。でも、そう言われればそうだね……描いてみたいな。SEXシーンっていうのは、表現の仕方によってキレイにも汚くもできるし、下品を売り物にすることもできる。私もこれからどういうものを描くかわからないですよ(笑)……ただ私に限って言えば、表現方法の品というか、それは絶対落とさない」

――ミーメとハーロックはできてるのか、とかときどき疑問に思いますけど。

松本「ハーロックは自分の信じる友達の恋人には絶対手を出しませんから。トチローもそう。身を抵して守るけど、そういうことは絶対に許さんという世界で成り立っています」

――ということはハーロックはエメラルダスともそうならない。

松本「エメラルダスはトチローと恋人関係なんですね。トチローは途中からアルカディアの船に宿る心になってしまいますが、ハーロックにとってかけがいのない、打算のない最大の親友なんです。だからその恋人は命をかけて守るけど(SEXとか)そういう意味で恋愛感情は持てないしできない」

――結局松本漫画では誰もSEXできない状況ですね。

松本「メーテルにしろエメラルダスにしろ大人の女性ですからね。SEXがどうのって、そういうことは彼女たちの永遠にミステリアスな大人の私生活部分として、知らなくてもよろしいと」

――ところで「新ヤマト」ですけど。最初、扶桑社でやる話がなぜ小学館へいってしまったんでしょうか?

松本「私はぐーたら人間でして……連載と〆きりというテンポがないと仕事しないんですね。それで描き下ろしができなくなってしまった。そのかわり、映画化に伴うムックを作ったりするときには扶桑社さんにお任せします。扶桑社の平田(静子)部長さまにおまかせすると。それは小学館に言ってあります」

――「新ヤマト」ですがずいぶんCGっぽいイメージですけど。

松本「以前から作画にコンピュータを導入していました。世紀末とは良く言ったもので、第二の産業革命が始まったんです。紙媒体と電子媒体が同居しているところに踏み込んでしまった」

――第一艦橋の中までCGって言うのは、あの精密な絵を見て育った旧ヤマト世代としては納得いきません。

松本「いや、これは絵ですよ。当時と同じものです。CGで陰影を付けているだけ。ペンを使おうがコンピュータ使おうが、絵の素質は変わらない。結局絵が描けないとだめです」

――……。

松本「だから、この(ヤマトの)中で、純然たるCGだけというコマはありません。人間が手で描いたものにCGの手を加えているものはあります。まぁ、どっちにしろ絵を描く道具には違いない」

――先生はフォトショップなりイラストレータなりを使いこなしていらっしゃるんですか?

松本「中くらい。大ベテランであるかと聞かれたら、まだ夢中であると答えざるをえない。どのレベルがプロフェッショナルなのか、判断できないし」

――コンピュータ導入のきっかけになったことは何でしょう?

松本「あれば表現形態がさらに広がっていく。それと海外との連携を保つためには必要です。今までFaxで何度も確認しなければ進まなかった作業が、全然早くできる。いやおうなく、こうなってしまった」

――ヤマトに話を戻します。最初、乗組員たちが同じ名前だから、リメイクを企画したのかなって思いました。

松本「リメイクじゃありません。私は過去にはこだわらない。こだわったのは、唯一その末裔たちが乗るということだけです……旧ヤマトは私が36のとき作った話です。今63ですから、あれから30年くらい、私も様々な体験してるわけですよ。そこから反省点もあるし見えてくるものもあるけれど、私はそれをリメイクではなく次の作品に反映させたいです」

――先生はかつてのヤマトは「さらば」までで終わっているとおっしゃっていましたね。

松本「はい。自分のアタマの中ではそういう印象がある。もちろん最後まで付き合いましたが、「さらば」でやめておけばよかったという後悔の念があります」

――やはり乗組員は死なせてはいけなかったし、安易に甦らせることはよくないと。

松本「そう。私の作品では全物語を通じてキャラクターは誰一人死なないんです。私の子供ですから。子供は生かすために生む。殺すためじゃない。絶対に死なせたくない。私の生涯を通じて長く一緒にいたい。私がくたばったら誰かが記憶していてくれて、それこそまた描いてくれればいいんです」

――ヤマトには他の作品から様々なゲストが登場しますね?

松本「何がなんだかわからなくなってしまいますから、一瞬すれ違うくらい……。ただ、「まほろば」とヤマトははっきり連動しております」

――スターシャの娘も出てきますね。

松本「はい。光り輝く娘として出てきます」

――月から大勢の人が乗り込んできますね? これは末裔だけで操縦できないということですか?

松本「いえ、多国籍化を考えました。要するに地球人としての区分けです。ヤマトとは国籍や人種ではない地球生まれの人の船を象徴している」

――ボクは先生のことを国粋主義者ではないかと思っていたんですが……。

松本「旧ヤマトを描いたときから、そう言われ続けてきたんですよ。しかし、私の考え方は脳細胞の数は地球人類みな同じであると。人ができることは自分ができると思え。そのかわり、自分ができることは他人もきっとできる。人種などであなどってはならない。特に若者はあなどってはならない。だから戦いというのは最大の愚行である。願わくば仲良く、地球人類という種の保全に全力をつくすべきであるという立場です。

そりゃ、いざというときは日本刀抜きますよ。名誉とかプライドとなるとまた話は別です。しかし自分の名誉やプライドを重んじるのであれば、相手のプライドも重んじなければならない。だからどこの国がどうとか考えない。ただ現在自分が日本人であると。そういうことです」

――そう言えば、以前、日本刀抜いたら、相手を切り殺すまで収めないって先生、いってましたよ。

松本「ああ、それは先祖からの伝言で、そのくらいの覚悟で刀を抜けと。その気もないのに、みだりに刀の柄に手をかけてはだめだと。刀を抜くのは一生にただ一度、生きるか死ぬかの瞬間のとき。それは刀という表現を借りていますが、精神的なものです。誰にでも一生に一回はある人生の転機の瞬間ですね」

――先生のマンガを読むと、日本人の体格を弁護する記述が多い。

松本「それはもちろん。男は顔ついてればいいよ。……私は裁判で言われたんですから。松本は胴長短足でサルのような病的なマンガを描くと。くそ、なんとでも言え。そんなことは痛くも痒くもないぞ。私は貧しい若者の必死でがんばる姿を描いているんだ。おまえは極貧と戦う若者の未来を笑うのかと。私は貧しい青年の心境は痛いほど解る。はっきりいって、安楽に暮らす人間の気持ちはわかりません。背水の陣で生きる人間の気持ちはよくわかる。手段がどうあれ、歯を食いしばって生きる人間を笑うつもりは毛頭ない。逆に熱いエールを送りたくなる」

――でも自身はヤマトとかグッズとかで大金持ちになっているのに。

松本「と思うでしょ? でもヤマトの収入なんて私にとっては無に等しい」

――それは何かの比喩ですか?

松本「いや、現実にそう。ヤマトは私にとって経済的には無に等しかった。この意味がわかりますか?」

――……でも、他にも「男おいどん」から「999」や「ハーロック」……どれもマンガ家として一度くらいがせいぜいの大ヒットをいくつも記録されています。

松本「ヒットは時代とタイミングに恵まれていたんでしょう。でも、誤解しないでほしいのは、私はお金のために仕事をするんじゃない。創作者としての名誉とプライドのためです。お金は入ればこしたことない。それは派生してくる2次的なもので、それも巨万の富を得て遊興三昧にふけるゆとりはないですよ。例えば、コンピュータを導入するのに、いくらかかったと思いますか? お金が入ったら、そういう投資をして、また次の作品に生かすわけです。だから地獄までお金はもっていけないぞというじゃありませんか。もちろん地獄まで汚名も持っていきたくない。精一杯やれるとこまでやって、それでいいではないかと思います。

私はお金持ちとか貧乏という概念がわからない。ゆうゆうと寝ていられたら金持ちか? 私たちは走るのを、描くのをやめたら倒れてしまう。私は生涯を通じて遊んだことがないように思う。働きづめに働いている。でも、マンガを描くということは子供時代の私にとって遊んでいたようなもので、つまり今でもマンガを描いて遊んでいるわけです。それでお金を得ていいのかという後ろめたさがある」

――だから貧しい時代は絶対忘れないと?

松本「そう。泣いて帰る家なんてなかったんだから。家があるだけ幸せだと思え。貧乏貧乏と言うけど、本当の極貧というのがどれほど凄惨なものか、やってみなきゃ絶対わかりません」

――先生はやられたことがあると?

松本「あります。だから私は胸を張って、貧乏というものがどういうものか、その惨めさ、悔しさを口にすることができる。それで男に生まれてよかったなぁと思う。母親が歯を食いしばっているのを見るでしょ。待っとれと。かぁちゃん、大丈夫だ、俺がいるぞと。小学生のときからそういう感情が沸いてくるもんです」

――先生のマンガの主人公は必ず歯を食いしばりますね。

松本「そのうえ私は過敏だったんです。同年代が感じないことでも感じた。だからどうしてもギブミーチョコレートが言えなかった。腹がへろうが飢えようがほどこしは絶対受けない。生活環境に非常に敏感で、親が舐めた辛酸を理解しているんですよ。だからはやいうちからマンガ家にならざるを得なかった。生活のためです。自分一人でも生き抜く術を会得しておかないと大変なことになる。それで東京に出てきて大貧乏をやりまして、ありがたいことにそれが個性の確立になっていったんです」

――今の若者だったら、すぐ挫折しちゃいますよね。

松本「いや、世代でくくりたくない。個人差だと思う。がんばる男もいればあきらめる男もいると」

――ずっとアシスタントやってても目が出なければ、あきらめるしかないと思います。

松本「仕事があるなし関係ないですよ。明日の俺はどうなっているか、3ヶ月後、3年後の俺は……と慄然とするわけです。泣いて帰る場所がない。だから私は病気にだけはなりたくなかった。全収入、食い物と本にそそぎこんだ。身だしなみなんて、顔なんてついてればいい。ライオンは歯を磨くかと。着るものは夏服と冬服があればいい。洗濯しなくったて死にはしないだろうと。一万円の収入のとき7千円の本を買ったこともある」

――……それでマンガをやめようとか思いませんでした?

松本「だって、他になにができます? 要するに自分が名だたる天才に混じって渡り合えるかも知れない世界はマンガしかないと思ったんです。信念だったんです、子供の頃からの。唯一これだけが互角に戦えるかもしれない。確信があったわけじゃないです。自分の夢や希望がそこにあった。それで今日、俺を笑ったやつはなんだと。ごみだと。いつか泣かせてやると、そこに行きつくわけですよ。」

――リベンジだ。

松本「ある意味、報復の一念で燃えてやるんです。執念ですね。じゃ、何年かたって、実際手を下すかと言うと、仲良くやってたりするんですけど(笑)」

――そんな状態でストレスの発散はどうしてたんですか?

松本「天体観測や音楽。機械を組み立てたり、感電したりしたのが趣味だった。でも趣味は全てがマンガの素材として吸収していた」

――女性のほうは?

松本「私の世代は律儀なもので、そういう方向に踏み込んだら、一生責任を負わなければならないと私は固く信じていた。清く正しく美しい信念ですな」

――「大四畳半物語」と「男おいどん」、どちらが先生の青春だったんでしょうか?

松本「どちらも、ごちゃまぜ。体験としてはああいうふうに気楽にはできなかった。今考えたら惜しいこともあったよ」

――あの、「ヤマト」なんですけど(笑)。これからどうなるんでしょうか?

松本「地球上、どんな民族でも名誉を重んじる、そういう地球人としての武士道をヤマトは追求したい。今、いろんな国の人に「あなたの国で一番雄々しく、立派な男の名前を教えてくれ。女性ならば、美しいかつ理知的でかつ恐ろしいイメージの名前は何であるか」と聞いているんです。それを乗組員につける。つまりヤマトは国のまほろば、地球は宇宙のまほろばというその大テーマで飛びます。

それともうひとつ。なぜ地球なのか? この広い宇宙の中でなぜ地球に敵はくるのか。これは私のだけじゃなく、全てのSFに言える。今回のヤマトはこの問題もテーマに据えています」

――新ヤマトがはじまる前に、今回の敵は敵側の正義も描くとおっしゃってましたね?

松本「つまり食物連鎖の戦いです。食べるほうは食べるほうなりの正義がある。宇宙同士の正義のぶつかりあいですね。その事情、敵の正体と真意を知ったときにどうするか、がキーポイントになります」

――波動砲撃っておしまい、というわけじゃないんですね。

松本「波動砲は途中経過。今回は種の起源とかも含めて、お互いの存在理由を確認して、どうするかを迫られる。我々の宇宙は生まれ変わってまた会おうという、考え様によっては幸せな宇宙なんです。本能的にみなそう思うでしょう。でも、死は永遠の別れであるという悲しい宇宙もある。今回のヤマトは相手からそう言われるんです。「あなたがたは幸せな生命体である」と。そこにたどりつくまでが大変なんです。

――最終的には哲学や宗教になりそうですね?

松本「お互いの生存本能の戦い。それと宇宙の構造論になる。宗教と言えば人類のいとなみ全て、つきつめていけば宗教になってしまう。そういうことじゃなくてもっと合理的かつ物理的に処理したい」

――それ、完結するんですか?

松本「うん。壮絶な話になる。私が生きているうちに完結するかどうか。まぁ、私は86歳くらいまで死なないだろうから……」

――って、なんで86歳?

松本「オヤジが76歳で死んだ。私の世代は寿命がのびているから、まぁ86くらいまで大丈夫だろうと。私は81まで今のままの歯でステーキが食えると歯医者から保証されてるし。それまでは続けたい」

――……

松本「しかし、私の中では全ての物語をリンクさせたいというのもあるんです。自分の生んだ子供たちですから、最後は全員を一同に会してカーテンコールで終わりたい。生涯が終わる時、「それでは」と……そう、ベートーベンの第9ですね。まだ、こんなこと言ってるうちは生臭いけど、最後はそうしたいね」

Tommy鈴木的後記
一番最初が、一番失敗できないインタビューとなってしまった。いや、他の人たちは失敗してもいいというわけではなくて。「ごめん、今のもう一回」ができない人だということ。ただ、この一回目でこのページの方針が決まりました。つまり僕たちに同人誌はできない。もはやメジャー(を狙う)しかない……。そして、テーマを決めないと大変なことになるという、あたりまえだけど重大な事実を再確認しました。だらだらと遅くまで付き合っていただいた松本大先生に大感謝しています。ありがとうございました。

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