見出し画像

研究者という選択肢

『法学教室』の「研究者という選択肢」対談とインタビュー、多くの人に読んでほしいと思います。素晴らしい企画だと思うのですが、追加的な感想を書き出してみます。

研究と国際競争

まず前面には打ち出されていなかったのは、研究者養成がうまくいかないのは、各人や個々の大学院だけの問題だけではなく、国や社会の損失だという点です。社会科学系において自前で学問的土壌が作れなくなったり、政府、自治体、民間団体が法政策を作るときに、忖度せずに大局的な視点で助言する人がいなくなったら困ってしまいます。

外国との比較では、よく米国や欧州が引き合いに出されますが、日本のアカデミアが今後伍していかなくてはならないのは、中国、韓国、シンガポールなどだと思います。シンガポールは元々大学院教育は英米で受けさせていると思いますが、中韓も様々な手を使って若手研究者を育成しています。外国で博士号を取らせて、戻ったら名門大学のポジションにつかせるのもその一つ。留学や国外での報告を奨励し、費用は国や大学が負担。論文が一定以上のランクの英文雑誌に載ったら報奨金を出す。研究員として雇って生活費は大学や研究所が出す。数年間のことなんですが、こういうケアは、日本ではかなり抜け落ちているところかなと思います。

大学院生のお金と進路の話

色々と機微に触るので敢えて外したのか、誰も問題だと思っていなかったのかはわかりませんが、お金の話を抜きにして研究者という選択肢は語れないかなと思います。研究者は、お金以外のリワードに価値を見出さないとやっていられませんし、実際、研究の対価は本来はお金ではありません。しかし、だからこそ手当を軽視してはいけないのです。家族カードでも、学振でも、その他の収入でもいいので、研究に専念できるだけの、安定した財政源が必要。

大学院に進む人が減っている話を国外ですると目を丸くして驚かれますが、日本では無報酬で何の手当もないどころか授業料を払わないといけない、という前提が違うんですよね。

また、進路については全員が大学のテニュアを取れるわけではないのはどこでも同じですが、日本の場合は、大袈裟に言えば大学教員とコンビニ店員の中間がないのが大きな問題。これでは方向転換ができません。シンクタンクや研究所など、専門性を活かせるポジションが増えないといけないと思います。また、社会科学系についても、企業の受け皿が広がっていかないといけないと思います。

研究資源

研究者は純粋な人が多いから、研究を回すのは気持ち次第と本気で思っている人がいます。でも、成果を挙げるのに必要なのは、やる気とか情熱とか想いとかではありません。研究資源であるところの、お金(書籍や資料を買ったり、旅費に使ったり、とにかく色々と必要です)、素材(素材にはいろんなものが含まれるのでここではこのように表現しておきますが、理論枠組み、資料、情報などのことです)、時間、共同研究者との繋がりなどが決め手です。それをやる気で克服しようとするから、いろんなことが回らなくなっているように思います。そういうのは自然に生えてくるものではないので、うまく資源をとってくるのも必要な素質かと思います。入口ではそういうことは考えなくてもいいのかもしれませんが。

いろんなことを考えさせられた特集でした。このテーマの特集を定期的に組んでいただき、学部の皆さんに研究者という進路を選択肢として検討していただけたらと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?