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3/23(sat)『オクトパストラベラー オーケストラコンサート-To travel is to live-』ライヴレポート


©関口佳代

『オクトパストラベラー オーケストラコンサート-To travel is to live-』ライヴレポート

2024年3月23日(土)2nd 
text=土田真弓

 旅立とう、君だけの物語へ──そんなキャッチコピーと共に世へ送り出された正統派RPG「OCTOPATH TRAVELER」。〈ドット絵〉と〈3DCG〉を交えた〈HD-2D〉と呼ばれる美麗なグラフィックと、8人の主人公が織り成す壮大な物語でも人気の同タイトルが5周年を迎え、記念企画として初のオーケストラ・コンサート「オクトパストラベラー オーケストラコンサート -To travel is to live-」が昭和女子大学人見記念講堂で開催された。指揮は、「黒執事」や「FINAL FANTASY VII REMAKE」などスクウェア・エニックス周辺のさまざまなオケコンでもタクトを握ってきた佐々木新平。演奏は、この日のためのスペシャル編成であるニューデルスタフィルハーモニックオーケストラ(〈オクトラ〉シリーズのプレイヤーならニヤリとするネーミング!)。そして、選抜された楽曲群は、〈オクトラ〉シリーズの音楽を支えてきた作曲家・西木康智による監修のもとでこの日のためにフル・オーケストラ・アレンジが施されたものとなる。

 厳かに響いていたチューニングの音色がふと消えると、万雷の拍手のなかで佐々木が登場。旅立ちへの第一歩となるオープニングはもちろん、《OCTOPATH TRAVELER -メインテーマ-》だ。疾走感あふれるストリングスのなかを、坂本圭によるティン・ホイッスルの音色が優雅に泳ぎ、勇壮なトランペットが高らかに鳴り響く。〈始まりの予感〉に満ちた昂揚感で一気に会場を包み込むと、続いては《リバーランド地方》。世界中のさまざまな笛を操る坂本がここでもリードを取り、深みのあるアンサンブルで美しい自然の風景を聴き手の脳裏に描き出していく。そこから一転、《バトル1》に突入した途端に血の滾るような緊張感が。弦楽器と管楽器が対立するかの如くスリリングに繰り広げられる旋律の連鎖。その果てに《勝利のファンファーレ》が聴こえた瞬間、たまらない安堵感に見舞われた観客は私だけではないだろう。

佐々木新平©関口佳代
坂本圭©関口佳代

 ここで、本日の司会を務める西木が登場。「本日はお忙しいなか、ここ、ニューデルスタの劇場まで足を運んでくださり、誠にありがとうございます。本当に、待ちに待った念願のオーケストラ・コンサート、皆さんと一緒にこの場を楽しめることをとても光栄に思っております」──そう感謝の言葉を述べると、即座に次の3曲へ。郷愁と神秘性が入り混じる《記されざる島オルサ》、重厚な威厳に満ちた《“深淵の覇者”サザントスのテーマ》、ピアノやスレイベル、ハープの清澄な音色がタイトル通りの真っ白な世界を映し出す《白雪舞い落ちる街》を立て続けると、ふたたび西木が姿を現して、〈オクトラ〉シリーズのプロデューサーである髙橋真志をMCゲストとして呼び込む。

髙橋真志、西木康智©関口佳代

「1曲目の《メインテーマ》の1音目がきたときから、ずっと感無量で……」と語る高橋に、「わかる……!」と答える西木。おっとりとしたトークに場が和むなか、「このあとの3曲に相応しいゲスト・ミュージシャン」として招かれたのはサックス・プレイヤーの鈴木広志だ。「〈オクトラ〉史上いちばん気の合うであろう二人の曲」という髙橋の紹介で口火を切った《薬師アーウェンのテーマ》では柔和なメロディーで叙情性を、そして《商人パルテティオのテーマ》ではタメのきいたロングトーンでワイルドな色気を表現。また、《富を授けし者》ではインプロヴィゼーションのような鬼気迫るソロで観客をグイグイと魅了すると、そのまま間髪入れずに第1部のラストを飾るメドレー《宝物のために》《ボスバトル2》へ雪崩れ込む。刻々と変化する流麗な旋律と、一気呵成に駆け出すダイナミックな演奏に翻弄される快感と言ったら……。爆発的なエネルギーをもって最後の一音が鳴り終わった瞬間、会場からは大きな拍手が巻き起こっていた。

鈴木広志©関口佳代

 15分の休憩を経て、第2部の滑り出しは《風翔ける、戦場》から。猛々しい疾走感で一息に駆け抜けると、《華やかなる都会》ではスウィンギンなグルーヴで会場を魅了。鉄琴→フルート→トランペット……とメインのフレーズを担う楽器が軽やかにリレーされていくなかで、都会を映す音像が昼から夜へと移り変わっていく。そこにゲスト・ヴァイオリンの吉田篤貴とガット・ギターの塚越廉が加わると、《理を司る者》に突入。果たし合いのような緊張感と危ういエモーションに貫かれた両者のソロ回しに耳を奪われているうちに、楽曲はエレガントな旋律がたおやかに躍る《背中を押して》へ。美しい曲線を描くヴァイオリンの旋律が、会場をほんのりと優しい気持ちで満たしていく。

吉田篤貴©関口佳代
塚越廉©関口佳代

ここで、2度目のMCタイム。西木と共に現れたのは、〈オクトラ〉シリーズのディレクターである宮内継介だ。「何セット組めるかわからない」ほどの曲数があるという〈オクトラ〉シリーズの音楽制作に関する裏話をさり気なく披露すると、舞台上にヴォーカリストの國土佳音を招聘。《旅立ちの唄》《きぼうの唄》と続いた2曲では、軽やかなステップを踏むようなメロディーとこのうえなく可憐な歌声に終始うっとり。降り注ぐ光に包まれるような多幸感のなか、踊子・アグネアの姿を想起した人も多いことだろう。

國土が退場すると舞台は一転し、優雅さと憂愁が入り混じるメロディーに導かれて《灯火の守り手》が。そのまま《欲望の道に待ち受ける者》へ移行すると、白基調の衣装に黒い羽織を重ねてドレスチェンジした國土がふたたび登場し、シリアスな空気を切り裂くように清廉なソプラノ・ヴォイスを高らかに響かせる。

國土佳音©関口佳代

 そこからのセットは、コンサートのフィナーレに向かってドラマティックに加速。《決意》のしっとりとした余韻に浸る間もなく、重厚なオーケストレーションを背にティン・ホイッスルの音色がオリエンタルな情緒を呼び込む《王道を求めて》、目まぐるしい展開の渦中でホーンと笛の音色が鬨の声のように響き合う《決戦2》、天井知らずのヴォルテージで突き進む《旅路の果てに立ちはだかる者》と続いたところで、Yuccaと村上敏明が登壇。ここからが思考停止するほど凄かった。いわば、《魔神の血を継ぐ者》vs《明日を望まぬ者》といったアレンジ……原曲は前者がソプラノ歌唱入りのシンフォニックなロック、後者がテノール歌唱入りのシンフォニック・メタルというハードな2曲だが、それらのモチーフが混然一体となってせめぎ合うという想像を超えた〈1曲〉にただただ圧倒されるばかり。パワーの塊のようなテノールと、どこまでも伸びゆくソプラノによって圧の強い2つの旋律がドラマティックに重なり、絡まり合っていく──そんな頂上決戦としか言いようのない光景に、会場はスタンディング・オベーションも含めた盛大な拍手を送っていた。

Yucca©関口佳代
村上敏明©関口佳代

 ヴァイオリンの吉田とギターの塚越を迎えたアンコールでは、異国情緒たっぷりな《踊子プリムロゼのテーマ》を披露。スパニッシュなワルツで観客の緊張をほぐしたところで、MCの三人が登場。初作の発表から5年越しで〈オクトラ〉シリーズのオーケストラ・コンサートを実現できたことに改めて謝意を示すと、「人生の経験値をちょっと上げて帰ることにしましょう!」という西木の挨拶を合図にラスト曲として《キャットリンのテーマ》を演奏。ゲストのソリスト/ヴォーカリスト陣も勢揃いし、コミカルかつゴージャスなエンドロールでコンサートは締め括られた。

髙橋真志、宮内継介、西木康智©関口佳代

 演奏のみならず、編曲も挑戦的なものが多かったこの日のセットリスト。その約半分は先日リリースされた『OCTOPATH TRAVELER Orchestral Arrangements -To travel is to live-』にも収められていないものだが、録音は行っているとのことだったので、いずれライヴ音源としてお目見えすることもあるだろう。また、西木がMCのなかで語っていた話によると、現存する〈オクトラ〉シリーズの楽曲は300曲以上にものぼるとのこと。それだけ、今後もさまざまな趣向を凝らした音楽イヴェントが期待できるということだ。例えば、ゲーム中のエピソードを織り込んだオペラに振り切ってもいいし、合唱隊とのゴージャスな競演も聴いてみたい。入魂のエンターテイメントを浴びた満足感に飽き足らず、勝手な妄想を膨らませながら帰路についた筆者であった。

©関口佳代
©関口佳代
©関口佳代


公演概要 ※終了しました

© SQUARE ENIX

『オクトパストラベラー オーケストラコンサート-To travel is to live-』
日時:2024年3月23日(土)
1st公演 開場 13:45 / 開演 14:30
2nd公演 開場 17:15 / 開演 18:00
会場:昭和女子大学人見記念講堂
出演者:
<ゲスト>
西木康智「オクトパストラベラー」シリーズ作曲家
髙橋真志「オクトパストラベラー」シリーズプロデューサー
宮内継介「オクトパストラベラー」シリーズディレクター
<指揮>
佐々木新平
2024年3月23日(土)
<ソリスト>
サックス:鈴木広志
ヴァイオリン:吉田篤貴
笛:坂本圭
ギター:塚越廉
ボーカル:國土佳音、村上敏明、Yucca
<演奏>
ニューデルスタフィルハーモニックオーケストラ
主催:BSフジ 企画制作:L'EQUIPE TROIS.INC
協力:スクウェア・エニックス 

【セットリスト】
1. OCTOPATH TRAVELER - メインテーマ –
2. リバーランド地方
3. バトル1 ~ 勝利のファンファーレ
4. 記されざる島オルサ
5. “深淵の覇者”サザントスのテーマ
6. 白雪舞い落ちる街
7. 薬師アーフェンのテーマ
8. 商人パルテティオのテーマ
9. 富を授けし者
10. 宝物のために ~ ボスバトル2
11. 風翔ける、戦場
12. 華やかなる都会
13. 理を司る者
14. 背中を押して
15. 旅立ちの唄
16. きぼうの唄
17. 灯火の守り手 ~ 欲望の道に待ち受ける者
18. 決意
19. 王道を求めて ~ 決戦2
20. 旅路の果てに立ちはだかる者
21. 魔神の血を継ぐ者 〜 明日を望まぬ者
22 踊子プリムロゼのテーマ
23. キャットリンのテーマ


CD

『OCTOPATH TRAVELER II 16bit Arrangements』
西木康智(監修)
[スクウェア・エニックス SQEX-11124]
発売中
詳細:https://store.jp.square-enix.com/item/SQEX_11124.html

『OCTOPATHTRAVELER Orchestral Arrangements -To travel is to live-』
西木康智(作曲)
[スクウェア・エニックス SQEX-11117]
発売中
詳細:https://www.jp.square-enix.com/music/sem/page/octopath/orchestral/

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