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架空の街SSまとめ

2年前にツイッターで #架空の街をまるで言ってきたかのように紹介する  というタグに投稿していたSSのまとめです。



1.鳥退町

的のような、目玉のようなモチーフの看板の多い町だ。どうやらこの地域は昔、鳥が大量に繁殖して農作物が荒らされて困ったので、住民がこぞって鳥避けのシンボルを町中に散らしたそう。だが貼ってある「義眼の相談承り中」の古い張り紙を見る限り、奪われていたのは農作物だけじゃないらしい。


2.魂込めた作物

喫茶店で林檎パイをいただいている。美味しいことを女性店主に伝えると、それは良かった。その林檎は旦那の木から取れた林檎なの、と返ってきた。土産にもう1つ買っていく。ところで今調べたけどこの町、樹木葬が主流でその木から取れた作物をいただいて先祖供養としていると。…大事に食べますね。


3.地下に楽園

少子高齢化が進んだのか、ここの商店街はまるでシャッター街だ。つまらなそうに歩いてると、はんてんを着た謎の団体が階段を下りていくのに気づく。ついて行くとやがて喧騒が聞こえてきて色とりどりの光が目に飛び込んでくる…ペンライトのうねる波、中心で踊る少女たち、たたき売りされるブロマイド。
人と一緒で見かけによらないなと感じた。


4.娯楽の神が祀られる地

腕達神社と刻まれた鳥居に興味を惹かれて潜ってみた。拝殿の前には、鈴と賽銭箱…ではなく、アーケードの腕相撲ゲーム。その異様な光景を目にしたら、近づかずにはいられない。100円を投入して、ゲームをスタートさせる。結果、ビクともしたかった。どうやらこの神社には、ゲーセンで
お払い箱となったゲームたちが祀られているという。話を聞くと、本殿には他にもアーケードゲームが眠っており、日によってはじゃんけんゲームが拝殿前に出されることもあるという。1プレイが賽銭と参拝になるとは中々斬新である。


5.影は踏まずに歩け

とても広いのに、人通りがやけに少ない。そろそろ陽が落ちるからだろうか。そう思ってたら町の電灯に明かりが灯る。すると辺りに一斉に人影が落ちた…。この町のおよそ7割の人間は、外部から来た人間には視認することができず、鏡面越しか影でしか、その姿を確認できない。ただ声は聞こえるので
とても広いのに、人通りがやけに少ない。そろそろ陽が落ちるからだろうか。そう思ってたら町の電灯に明かりが灯る。すると辺りに一斉に人影が落ちた…。この町のおよそ7割の人間は、外部から来た人間には視認することができず、鏡面越しか影でしか、その姿を確認できない。ただ声は聞こえるので
この喧騒はどこからきているのか、と考えていたら灯台下暗しだったようだ。ショーウィンドウのガラス越しに楽しそうな住民の姿が見え、そこに居るのになぜかどこか遠いところの映像のようであった。


6.大きな隣人

宿屋の店主が、12時を過ぎたら外に出ないようにと告げた。つまり買い出しに行けないわけだ…時刻は11:57を指している。日を跨げば、一体何が起こる?そう問うと、じきにやってくる…そう答えた。間もなく外から響く地鳴りのような足音。この町の守り人が道を行く。その道を誰であろうと阻んでは
ならない。 なるほどこれは確かに外に出てると危ないな…。一説によれば、貢がれた酒に酔って上機嫌になり歩いていると言われているが、住民は確認する術はない。…外からその姿を確認したらしい外部の人間らしき者の悲鳴が聞こえてきた。グッドラック…。


7.宝石は散りばめて

ミネラルショーが大好きで、その辺の加工された鉱石なんかより、岩からそのまま生まれ出てきたような、ゴツゴツした鉱石の方が魅力を感じる。この町では鉱石の採掘が盛んで、夜になるとあちこちに露店を出して、それはもう様々な、珍しい鉱石を叩き売りしていた。どうやら端っこでこのまま
捨ててしまうからこのような安価で売っているという。おや、これは食べられるらしい。試食用。口に放り込むと売ってたおじさんが「あんたそれ 薬味用だからそんないっぺんに口に放り込んだらいかんよ」 …言うのが遅いと思う。これは舌から食道が明日まで使い物にならない。


8.対価はつまるものがいい

なんと、物々交換なんてまた古風な。この町では諭吉がただの紙切れらしい。宿泊代を払いたいのだが、とても困った。と思っていたけど、意外と金品でないものでも成立した。旅の友に小説を持ってきていて助かった。店主はまだこの巻を読んでいないらしく、読み終えるであろう3日後までは
泊まっていていいと言われた。…何気なしに、祖父の形見の懐中時計を差し出してみると、一ヶ月くらい泊まるように勧められた。…返してもらうよう説得するのに小一時間ほどかかった。


9.迷い町187丁目にて

いきなり景色が変わった。さっきまで田舎の一本道を、ひたすらバス停まで歩いていたはずである。どういうわけか坂なりの町になっていて、いつの間にか階段を下っている。さらにおかしなことに、和服を着た人、目の色が蒼い人、そもそも人かどうか怪しい人、というか人じゃない形の何かも、
何かを探しているような動作で、足を迷わせながら歩いている。私も続いて歩いていく…坂を下り細い道を通り、階段を登り家の中を通り階段を下り細い道を通り屋根の下を通り坂を登り店の中を通り道に出て…ところでこの町の出口は一体どこなんだ?


10.意識ある平面

シャッターにサイン、壁にイラスト…、あちこちに印や落書きが施されているにもかかわらず、治安が悪そうな感じはしない。道行く者に溶け込むようにして、町中にアートが散りばめられていた。罰則とか、そういうのとは無縁なのだろうか…なかなか寛容だな。そんなことを考えながら歩いていると、
角にあった肖像画と目が合った。先に瞬きをしたのは…絵の方。その辺を見渡すと、窓の絵に映る海に浮かぶヨットが動いている。そこにあった少女の絵が動いて壁から出て行った。壁に触れてみると中に手が飲まれていく。先のことを考えると臆病になってしまい、私は手を引っこ抜いた。


11.鎮魂歌のなる木

街の入り口に立つ前から聞こえる何かの音楽が、その実際の音量の大きさを思わせる。耳栓をつけて街に踏み入れた。どうやら大昔にこの街は地図から除外されているらしく、人っ子一人いなくて広場や野原にはとにかく墓が霧散していた。中央に行くにつれて新しくなって行く墓。大きくなる音楽の音量。中央の城だか大講堂だかよくわからない施設に入ると、もはや耳栓では足りないほどに音が大きく、割れて聞こえた。中庭にたどり着くと、スピーカーを組み込み育った大きな木。その根本には一番新しい墓があった。戦に負けて飢餓に襲われた街を最後まで納めていた音楽家の王の墓だ。


12.町境の地下鉄ホームにて

地下鉄を降りると上から地鳴りが聞こえてくる。駅の売店のおばちゃんが言った。「新武器が導入されたからね」
この町は西と東に分かれて延々戦争を繰り返しているという。売店にはレーションやアルコール、妖しい薬や銃弾など、地上がどんな有様かなんとなく把握できる代物が売られていた。
また駅の天井が揺れる。「ここの地盤、落ちたりしませんよね?」そう恐る恐る聞くと口角だけ上げながら「前に落ちたからねぇ」と答えられた。駅構内は真新しそうには見えないが、いったい何年続いているんだ…。死ぬ覚悟はまだ付いてないので、次の電車を待つことにした。


13.美しき心と体

先ほどから義手、義足の人たちばかり見る。なんでも、ここの人々はある一定の年齢に達すると体を徐々に機械化していく儀式があるようで、年齢が高くなるにつれて体が生身のものから遠くなっていく。ということはあそこにいるサイボーグは高齢者ということか…。大昔、町の技術がほぼ機械化してから
生身の人間による可能性に限界を感じた先人たちが始めた機械化信仰のようで、皆さも当たり前のようにその事実を受け入れて生活をしている。そういえば、取り出した生身は何処へ行くのだろう。町民に聞くと、考えたこともなかったと言われた。


14.健康な体制

この町の食べ物は配給制のようだ。なんでも土壌が疫病により汚染されているので一週間分の食事は国により配られる仕組みになっている。国の中央の工場内で信仰的に野菜・果物・肉類が安全に作られているので、国民たちの食生活は十分に管理されている…という説明がパンフレットに載っていた。
その工場とやらに興味を持ったので聞いてみると、中を案内してもらえるとのことだった。一昔前のような街並みと比べ、工場内は高テクノロジーで溢れていた。加工されてる肉の原料の産地を見てみると隣町…例の町民の体を機械化する町からだった。


15.漂う思念体

ここの辺りはかつて海だったらしい。…にしても、この公園はなんだ。辺り一面ワカメが散らしてある。皆は見たことがあるだろうか?学校の校庭のある区画に、雨上がり行ってみるとワカメが生えているのを。あれはイシクラゲという、ネンジュモ属に属する陸棲藍藻の一種。割と全国的に分布しているため、実は別に海とは関係ない。そしてここに広がっているワカメも、実のところイシクラゲではない。群生もしていない…このワカメは触れない。触れることができないのだ。かつて海だった頃に生えていたワカメたち…この辺り一面に漂っているのはワカメの霊体である。


16.中央タワー

この街の中心には大きなタワーが建っている。しかし誰もこのタワーが、いつ、誰が建てたものか知らない。建設会社の記録もないし、この街の写真資料は20年前にあった大規模な地震による二次被害の火災で全て消失していた。ただこのタワーだけがタワーの存在の証明となっていた。さすがに不審に思った街の役所が調査に乗り出したのが3年前。掘っても掘っても土台が…土台というか根がどこまでも広がっていて、土台の調査が終わったのがつい数週間前。どうやらこの街の端の先にもまだ太く長い根がのびているのを確認して、調査を切り上げたらしい。


17.記録の中にある街

新種の生物フカフカは砂漠地帯で地中で暮らしているところを発見された。だいたい子犬ほどのサイズで、当初捕獲した際からなにも食べずに今まで暮らしていることから、気体を体内に取り込みエネルギーを生産しているとまで考えられていた。フカフカは生物の研究が盛んなこの街に引き取られた。しかしある日フカフカと共に研究機関の職員が真夜中のうちに忽然と消える事件が発生。生物的価値があるとわかった途端に業者ごと夜逃げして別の場所で売りさばくなんてことはたまにある話だが、実はフカフカは食料を求める際に地中から出てくる肉食動物であることがわかったのは、この3日で廃墟となった街の外部調査がなされてからであった。


18.おかしな崖

崖の下を歩いている。あたりにはなぜか焼き菓子の匂いが漂っていた。確かにここの渓谷は焼き菓子の店が多い。でもそれにしたって強い匂いだ。少々胸焼けがしてくる。近くの店に入って紅茶を頼み、店主に話を聞いてみることにした。「ここの崖ね、冗談じゃなく全部クッキーでできてんだよ」そんなバカなこれは今朝取れたクッキーさ。新鮮だから大丈夫」色々な倫理観を置いて行ってる気がするが、好奇心に負けて口にした。味はいたって普通の、硬めでマーブル模様のクッキーだ。私は店を後にした。崖に近寄り、削って食べてみると、あの店で食べたクッキーと、同じ味がした… 


19.住人のいたずら

携帯をかざすと勝手にカメラが起動するスポットがあるという。そう聞いてやってきたのに、ここはなんの変哲も無い十字路だった。とりあえずかざしてみると、本当にカメラが起動した。画素の低い画面が表示されている。でも、そこに何かが写ってるわけでもなく、相変わらずその画面にも十字路が写っているばかりだった。これになんの意味があろうか。そんなことを考えてシャッターを押していくと、なぜかここでも二回撮れたり連写になったりする。地場や電波などの原因をあれこれ考えながらふとカーブミラーを見てみると、手元には自分のものでは無い手がもう1つ写り込んでいた。


20.伏鉢と大きな水源

長い地下通路を歩いている。この辺は都市開発のために埋め立てられた地で、あちこち工事が進んでるとか無いとか、開発が途中のまま放置されてる何かだとか、やたらと噂が絶えない。今も自分は、海で隔ててあるエリアとエリアを結ぶ地下鉄通路を交通費の節約のため、運動不足の解消のためにとズンズン歩みを進めている。やっと中腹あたりだろうか、まるで大地に呼応するかのように、しかし存在をひっそり伝えるかのように、木琴のような低い音が地から響いた。続けてまた響く。鳴り続けているようで、ある地点からだんだん音は遠くなっていき、そのまま私は地上に出た。


21.通る者

豪雪地帯のある宿に泊まった。昨晩も夜にだいぶ積雪したようで、一階の窓の約半分が雪に覆われていた。これはバス停まで歩くのに骨が折れるかもしれない。まだ日も登らない早朝、防寒をしっかりさせて私は宿の引き戸を開けた。するとどうだろう、宿の人がやってくれたのか、戸から先には道ができていた驚くことに、その道は少々先にあるバス停の、そのまた先まで続いていた。こんな辺鄙な村にも除雪車が来てくれるらしい。確か市役所までは山を降りなければならないはず。ありがたいことだ。私は始発のバスに乗り、降りる先で運転手にその話をした。「いや、歩道を除雪する重機は確か導入してないはずですよ。宿の人が気を利かせてくれたんじゃないですかね」いや、あの宿屋の主人は腰の曲がった老夫婦で、せいぜい宿の入り口を掘るくらいが限界ではないだろうか…。しかしその疑問は帰りの電車の中で霞みがかっていつしか消えた。

22.表皮の上で

この街はたまに地鳴りがするんだよね」バスでたまたま隣になった壮年の男性が言っていた。プレートとプレートの重なりの真上にあるんじゃないかと仮説を立てているらしい。しかし、ロマンを求めるなら大きな生物くらいいてくれてもいいと思うんだ、と語ってくれたところで私が降りる停車場まできた。降りて少し歩くとタイムリーなことに地鳴りがした。いや、正確には地の奥底から何かが鳴っていた。まるで胃の収縮のような、腸で何か消化しているかのような、空気が身体の中を移動しているかのような音だ。その音に気がついたとき、私は地がわずかにゆっくりと上下したように感じた。


23.とりだけに

この地域ではある季節に大きな鳥が越冬の途中に立ち寄ると言われており、それにちなんだ祭りなども開催されていると聞く。興味を持った私はその時期を見計らって来て見たのだが、大きいにも限度というものがある。一戸建てほどのスペースの空き地に鎮座するそれは、この星では見たことのない大きさの鳥である。今は大人しく寝ているようで、羽毛全体で静かに呼吸をしているようにその塊は動いている。これだけ大きいと人くらい軽く食べそうだが、どうやら海洋の大きな魚などを食べているようだ。この時期この生物の周りでは小さな子供から年配のサラリーマンが暖を取りにやってくる。


24.展示場

住宅と住宅の隙間を集めるのが趣味の男がいたという。人の住まいから人間らしさを嗅ぎ分けて好む者は昔からいるが、男の場合それが住宅と住宅の隙間の、物置のような通り道のような場所だったわけだ。その男は初めは写真で集めており、定期的に隙間の写真展を開催していた。しかし男の収集欲はエスカレートし、その隙間の展示は写真から模型へと変貌し、スケールも本物に近くなり、展示場所は外へと変わって行った。なるほど、この街は住人と見えるような者の人通りがないわけである。


25.静かな娯楽

この街は苔が自慢の街らしい。しかし我々が知る限り苔というのは一般的に緑色だった気がするが、この街の苔は白い。そのような苔がありとあらゆる建築物に生えており、まるで街全体が雪で覆われているようである。晴れの日は目に眩しいのだろうが、今日はあいにく薄曇りだ。街全体がぼやけて見える。地面がふかふかしていて意外と体力を奪われる。タオルの上を歩いているようだ…。私のような旅行人は多いようで、この街では旅行者向けに仮眠ルームのようなサービスが盛んだ。結局誘われるがままに街で一番サービスの良い店に入った。


26.竜の垢を煎じて

この街は温泉街。街自体が結構大きいためにありとあらゆる趣向を凝らした温泉宿がたくさん並んでいる。しかし源泉は一つのようで、今回はその温泉の大元に来たというわけである。こんなにも大きな温泉街で源泉が一つだけ、とは異様ではないのか?そんな疑問を抱いていたら、さらに奇妙なことに地下にある洞窟へと通された。ますます怪しい。進んでいくと、やけに開けた場所に出た。そこにいたのは大型の爬虫類のような生き物。どうやらたくさんいるらしい。この生物の発している成分が各温泉の効能になっているとのことである。


27.街を刻んだ木

この一年、あらゆる街を回り、日記に記してきた。意外と回れたもんだと日記を見返して読んでみている。この日誌も回り歩いていた街の一つで買ったもので、日誌自体に植物の種が埋め込まれており、書き終わってこの日誌を埋めると割と大きな木に育つという。ロマンを感じて買ったのだった。というのも、種は冊子別に違うものであり、この日誌を買った街ではあらゆるところでその日誌から生えたであろう木が生えていたのだった。この冊子からなった木は、特徴として幹に細かく書いた文字が浮かび上がってくる。どんな種類の木になるか楽しみだ。


あとがき

23.とりだけに に関しては似たような他者のイラストがこの間自分の画像フォルダから発掘されたので、多分それに影響を受けてしまっていると思われる。すみません。

書いたの自体は2年前なんだけど、自分の世界観のスタンスがそれとなく見えてくるような感じがしますね。ちなみにここまで書くのに丸一年かかり、ネタ出しが本当に大変でした。漫画にすれば短編27本分だしそりゃそうだ。でもこれで漫画描けるな。またこういうことやりたい気持ちもありますが、テーマは街じゃなくてもいいかもですね。読んでくださり、ありがとうございました。


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