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コントレイル 血統分析


はじめに

 2023年7月のセレクトセールで、いよいよコントレイル産駒が登場しました。我らがバヌーシーも、セレクトセールでスウィッチインタイム23(牝)を1億7000万円で落札。しかし、出資者目線ではまったく手の届かない超高額馬になるため、検討すらしていませんでした。

 そんな折、2023年10月のミックスセールで、バヌーシーはシーヴ23(牡)を7400万円で購入しました。十分高いのですが、セレクトセールでのコントレイル産駒の価格(最高5.2億)や、シーヴの仔のこれまでの落札価格(最高5.1億)などを見てきたせいか、思わず「安い!」と唸らされる買い物。直後の週末には、兄であるシーヴ22ことショウナンラピダス(父ドゥラメンテ)が新馬勝ちを飾り、シーヴ23はバヌ民のハートを一気に熱くさせることとなりました。

 自分もかなり出資したい気持ちに傾きましたが、現実問題として回収が困難な高額馬であることには違いありません。22年産の出資で予算が崩壊してしまった反省もあり、いったん冷静になって検討した方がよいと考え直しました。

 今回は23年産の注目を集めるであろうコントレイルについて、血統面からいろいろと調べて考えたことをまとめました。コントレイル産駒への出資、POG指名の際に参考になればいいなと思います!

 ディープインパクトからコントレイルに続く「無敗三冠馬」。コントレイル産駒であれば、当然この称号を受け継いでほしいものです。となれば、もちろん目指すは王道のクラシック!!!!特に日本ダービーは絶対に勝ちたいレースです。東京2400を勝つならこれ以上ない模範解答、ディープインパクトとコントレイルの血統を読みほどきながら、コントレイル産駒の未来を夢見ていきます。

サンデーサイレンス

血統表

 ディープインパクトの前に、いったんサンデーサイレンスについて言及しないといけません。現代日本競馬の礎となったサンデーサイレンスの競争能力は、いったいどこから来たのでしょうか。

 ごくシンプルに結論を先に書いてしまうと、マームードからスピード、ヘイローからパワーと柔らかさ、ウィッシングウェルから底力を受け継いだのではないかと考えています。

マームードのクロス①

 サンデーサイレンスの血統表を見たときに目につくのが、マームードの4×5のクロスです。1933年生まれのマームードは、1936年のエプソムダービーを2:33.8のレコードで勝利しました。以来、1995年にラムタラが2:32.3で破るまで、59年間もの長きに渡ってレコードホルダーとして君臨し続けました。

 マームードの直系種牡馬は途絶えていますが、時代を先取りした競争能力は、孫娘から世界へと伝播されました。マームードの2頭の孫娘は、それぞれヘイローノーザンダンサーを産み、彼らがあっという間にサラブレッドの血統地図を塗り替え、競馬界の本流として現在も繁栄を続けています。

 サンデーサイレンスのスピードの源泉のひとつは、このマームードのクロスにあると考えられます(サンデーサイレンスのマームードの血量9.37%)

父ヘイロー

 サンデーサイレンスの父ヘイローは、競走成績こそ奮わなかったものの、種牡馬としては初年度から活躍馬を輩出し、サンデーサイレンスが産まれるころには人気種牡馬になっていました。

 ヘイローの血統を見ると、コスマーを経由してマームードのスピードが注入され、ブルーラークスパーのクロスで強調されたアメリカンなパワーに、ロイヤルチャージャー系らしい柔らかさを備えていたと考えられます。

母ウィッシングウェル

 サンデーサイレンスの母ウィッシングウェルは、自身は牝馬重賞を勝ったものの、近親に活躍馬がほとんどいません。血統表を眺めてみても、ナスルーラネイティブダンサーといった当時の流行りの血が全然なく、なんだかなじみがなくて寂しい印象を受けます。

 それでもよく見ていくと、ウィッシングウェルの父アンダースタンディングに、ぽつんとマームードがありました。ウィッシングウェルの母マウンテンフラワーも同様に地味な血統ですが、大舞台向きの底力を強化するハイペリオンのクロスが光ります。

 当時としても時代遅れのような血統構成のウィッシングウェルですが、それでも牝馬重賞を勝つほどの実力馬でした。おそらくはアンダースタンディング経由のマームードのスピードに、母系のハイペリオンが底力を下支えしていたのでしょう。

 また、血統表の奥深くに、ハイペリオンとニックスとされる名ステイヤー・サンインローが眠っていることは注目で、欧州的なタフネスとスタミナを引き出すトリガーになっています。

ディープインパクト

血統表

 サンデーサイレンスが終わったので、ようやくディープインパクトの話ができます。

 ナリタブライアン以来、11年ぶりの「無敗三冠馬」となったディープインパクト。現役時代は、後方から次元の違う脚でまくり上げる派手なレースぶりで一時代を築き、種牡馬としては、父サンデーサイレンスの偉業を継ぐように11年連続のリーディングサイアーに輝くという、まさに現代日本競馬の象徴です。そんなディープインパクトの競争能力はどこから来たのでしょう。

 結論としては、マームードからスピード、両親からナスキロ的な柔らかさと持続力、ウインドインハーヘアから豊富なスタミナを受け継いだと考えています。

マームードのクロス②

 ここでもマームードのクロスに触れないといけません。サンデーサイレンスがマームードの4×5のクロスを持つことはすでに説明しました。つまり、 ディープインパクトは父からマームードを引き継いでいます。

 そして、母ウインドインハーヘアにもマームードが入っています。ウインドインハーヘアの父アルザオが、マームードの5×5のクロス持ちなのです。つまり、サンデーサイレンスに続き、ディープインパクトもマームードの父母間クロスが成立しています。

 数えてみると、ディープインパクトはマームード5×6×7×7というクロスを持っていました。これは5×5の濃さと同じことになります(ディープインパクトのマームードの血量6.25%)。

父サンデーサイレンス

 サンデーサイレンスは、競走馬に必要なすべての能力を、高い次元でバランスよく備えたスーパーサラブレッドです。そのため、配合相手によって強調される能力が異なり、多様な産駒を生みました。

 つまり、ディープインパクトの競争能力を考察するためには、母ウインドインハーヘアの分析が重要になります。

母ウインドインハーヘア

 ウインドインハーヘアの父アルザオの血統表を見ると、スピード強化のマームードのクロスに、スピードパワースタミナすべて兼ね備えたノーザンダンサーを父祖に持ち、母系には柔らかさと持続力を伝えるナスキロ(ナスルーラとプリンスキロのニックス)が入っており、要素だけを見ると現代でも十分に通じる配合をしています。

 対してウインドインハーヘアの母バークレアは、イギリス競馬のタフネスの塊バステッドに、ハイペリオンとサンインローを何本も持つハイクレアという配合で、底力とスタミナという点では非常に優れています。ただし、現代競馬に適応するスピード要素がほとんどありません。

 つまり、ディープインパクトのスピードの源泉のひとつは、父サンデーサイレンスと同様に、やはりマームードのクロスと考えられます。一方で、ヘイローが血統表のひとつ奥に行ったことでアメリカンなパワーが薄れ、その代わりにアルザオに入るナスキロが、サンデーサイレンスの父祖ロイヤルチャージャーの柔らかさを増幅させて、ディープの全身を躍動させる伸びやかな走りを生み出しました

 そして、サンデーサイレンスの母系と、ウインドインハーヘアの母系は、ともに複数のハイペリオンとサンインローを持つことから、両者が刺激しあって、現代競馬には過剰ともいえるスタミナをディープにもたらすことになったのです。

 余談ですが、その意味ではディープインパクトの代名詞とも言える「瞬発力」とは、スプリンターのように恵まれた筋力が生み出すパワフルな絶対速度ではなく、全身のバネを使った走法から生まれる高次元のスピード持久力と、バテることを知らない圧倒的なスタミナから来る、レース終盤における相対的な速度差だったのではないでしょうか。

コントレイル

血統表

 ディープインパクトは、孫世代にまだ有力な後継種牡馬がいません。そんな中、まったく同血の全兄ブラックタイドが、一子相伝でキタサンブラックを生み、そこから世界最強馬イクイノックスが現れました。競走成績でも繁殖成績でも弟に遠く及ばなかった兄が、孫世代でディープインパクトを日本競馬の主役から引きずり降ろしたのです。

 コントレイルの役割は、ブラックタイドに奪われた競馬界の舵取りを、もう一度ディープインパクトの手に取り戻すことにあります。無敗の三冠馬にしてチャレンジャー。それが種牡馬コントレイルの立ち位置です。では、コントレイルの競争能力はどこから来たのでしょうか。

マームードのクロス③

 コントレイルのスピードの核も、サンデーサイレンス、ディープインパクトと同じように、やはりマームードのクロスにあります。

 父ディープインパクトがマームードの実質5×5のクロスを持つ話はしました。では母ロードクロサイトはというと、実質5×7×8×9のクロスを持っています。ようするに、コントレイルもまたマームードの父母間クロスを持っているのです(コントレイルのマームードの血量5.37%)。3代に渡ってマームードのクロスに注目してきたので、ここで並べてみます。

マームードの血量
①サンデーサイレンス 9.37%
②ディープインパクト 6.25%
③コントレイル 5.37%

 
さすがに世代を経るにつれて血量は減っていますが、それでもコントレイルが5.37%も持っているのは驚異的です。クロスのない5代前の先祖の血量が3.125%ですから、コントレイルの5代前に、一世紀近く前に生まれたマームードの名前が載っているようなものと考えれば、その影響力がうかがい知れます。

父ディープインパクト

 コントレイルの父ディープインパクトを簡潔に表現すると、サンデーサイレンスからスピード、ウインドインハーヘアからスタミナを受け継ぎ、両者をナスキロ的な柔らかさで融合させた競走馬といえます。

 コントレイルは、ディープのスピードを受け継いだのはもちろんですが、それよりも柔らかさを強く遺伝したようで、猫のようなポーズで伸びをする姿には驚きました。一方で、「コントレイルにとって菊花賞は本質的に長い」と陣営が言っていたように、ディープのステイヤー的な無尽蔵のスタミナを受け継ぐことはありませんでした

 あたりまえの話ですが、コントレイルという競走馬が形成されるには、母の影響も大きいということです。

母ロードクロサイト

 コントレイルの母ロードクロサイトは、その父が主流血統のミスタープロスペクター系のアンブライドルズソングですが、母父は零細血統のインリアリティ系のティズナウです。

 マンノウォーから連綿と続くインリアリティの系譜は、現代アメリカ競馬では日陰の存在です。しかし、「スプリンターのように恵まれた筋力が生み出すパワフルな絶対速度」を備えており、その血がちょっと血統表に混ざるだけで、爆発的なスピードとパワーをもたらします。

 日本では、インリアリティ直系のカルストンライトオが、2002年にアイビスサマーダッシュ(新潟芝1000)で53.7というレコードを叩き出しました。そして、20年以上経った今でも破られていません。ロードクロサイトは、そんな爆発力を秘めるインリアリティを3本もクロスしています(インリアリティ5×5×5)。

 さらに、ロードクロサイトはファピアノの3×4というクロスを通じて、これまた零細血脈となるヒムヤー系のドクターフェイガーのスピードまで注入しています。ドクターフェイガーは、1964年にダート1600mで1:32.2という世界レコードを記録した快速馬で、60年経った現在でもレコードホルダーのままです

 しかし、ロードクロサイトは単なるアメリカンパワー偏重の短距離血統でもないのです。シアトルスルーセクレタリアトといった柔らかさや持続力を強化するナスキロ(ナスルーラとプリンスキロのニックス)がいくつも入っており、潜在的には中距離までこなせる素養は十分にあります。

 つまり、ロードクロサイトの配合とは、大種牡馬ミスタープロスペクターが全体のまとめ役を果たしているけれども、その中身は零細血脈のスピードスターたちの影響が色濃く、その緊張をナスキロが柔らかく緩和しているような構成になります。

 コントレイルは、父から柔らかさを受け取ったにしては、走り方がディープに似ていません。ディープインパクトの走法が、後ろ脚に直結した大出力の巨大ジェットエンジンを全開にする後輪駆動だとすると、コントレイルの走法は、四本の脚すべてに高性能な小型モーターを搭載した四輪駆動のイメージです。母ロードクロサイトのレースぶりを見る限り、おそらく母方の影響を受けています。

 しかし、ロードクロサイトの前脚はコントレイルほど伸びず、パワフルに掻きこむことができていません。もしかすると、コントレイルはディープの柔らかさで前脚を遠くに伸ばし、アメリカンパワーでそれを引き寄せるという走法を体得し、他のサラブレッドよりも前脚による推進力が飛躍的に向上したのではないでしょうか。 

競争能力まとめ

 本編の主役なので長くなってしまいました。血統表から読み解いたコントレイルの競争能力をまとめます。

スピード
 サンデーサイレンスから3代続くマームードクロスは、引き続き一定の効果があると思われます。しかし、世代ごとにその血量が少なくなる中、新しいスピードの源泉を、アメリカの零細血脈であるインリアリティとドクターフェイガーに求めました。

柔らかさ
 ディープインパクトもロードクロサイトもナスキロ要素を備えており、柔軟性に富んだ筋肉でスピード持続力を高めています。コントレイルは、母の米国的な走法をディープ由来の柔らかさで日本の芝向きに進化させました。

パワー
 ディープが失っていたアメリカンなパワーは、コントレイルは母に米国血統が入ることで復活しました。コントレイルは小柄なこともあってパワフルなイメージはありませんが、小さな体に強靭かつ柔軟という理想的な筋肉を詰め込んでいると考えられます。

スタミナ
 母があまりにも米国要素で固めた血統であるため、ディープが持つ欧州由来の豊富なスタミナは、コントレイルの代で大きく減少しました。ただし、母系に流れるフランスの中距離馬ルファビュリュー(父ワイルドリスク)が、次世代にスタミナを供給させるトリガーになりえます。

底力
 競走馬が、最後まで死力を振り絞って走る強靭なメンタルも、スタミナと同様に欧州のタフな競馬で育まれたものです。ウインドインハーヘアの影響がまだ残るコントレイル自身には十分な底力があったと思いますが、次世代のことを考えると補強が必要に思います。

配合案

 以上を踏まえて、コントレイル産駒で日本ダービーに勝つために、どのような配合が望ましいかを考えました。

ヘイロー・ノーザンダンサーのクロス
 スピード強化のため、サンデーサイレンスから続くマームードのクロスは引き続き成立させたいです。サンデーサイレンスのクロスでもいいのかもしれませんが、血が濃くなりすぎる弊害が出るかもしれないので、できればヘイローやノーザンダンサーのクロスが望ましいです。

 米国の零細血脈であるインリアリティとドクターフェイガーは、スピードの強化には繋がるものの、日本の芝中距離適性からは離れてしまいます。コントレイルは十分に両者の恩恵を受けていますので、これ以上は触れたくありません。

ナスキロ
 ディープインパクトとコントレイルの柔らかさは次世代にも生かしたい性質ですので、母系は引き続きナスキロが成立している牝馬が望ましいです。柔らかすぎるとパワーを失ってしまいますが、コントレイルはディープよりもパワーがあり、柔らかさと硬さのバランスが良い印象です。どちらかといえば、これ以上パワーを強化して硬さが出る方がマイナスだと思います。

欧州中長距離血統
 スタミナと底力の補強は急務です。あまり重すぎない程度に、欧州中長距離血統を持つ牝馬を探したいところです。どうしても米国血統から相手を見つけるのであれば、アメリカ馬にしてはスタミナがあるシアトルスルーやエーピーインディ持ちが、ナスキロも刺激されて良さそうです。

有望株

 以上の配合案を踏まえて、コントレイルの23年産駒の中から、好みの血統を探しました。

エディン23(牡)

 サンデーサイレンスではなく、ヘイローをクロスしているのがポイント高く理想的。

カルティカ23(牡)

 アスクビクターモアの下なのでスタミナと底力の補強はバッチリ。この仔には活躍してほしい!

スルターナ23(牡)

 コントレイル×キングへイローは、お手軽にリファールとヘイローがクロスできるニックスになりそう。

ミリオンドリームズ23(牝)

 サンデーのクロスが濃いけど、希望通りの好配合。

ヤンキーローズ23(牝)

 リバティアイランドの下も、なかなかバランスが取れている。

アレイヴィングビューティ23(牝)

 コントレイルの五代血統表に残るリファールをシンプルにクロスさせるのも効果的なはず。リファールはノーザンダンサー系の中でも日本競馬向きの資質が高い!

おわりに

 今回は大長編になってしまい、けっこう疲れました。でも、コントレイルのことを自分なりに調べてまとめられたことは満足しています。

 シーヴ23くんは・・・アンブライドルドのクロスがどう出るかですね。配合的にはコントレイルらしい柔らかさを失い、アメリカ的なパワフルさが強調される形です。実際、ミックスセールに上場された当歳馬の中では最も体重が重く、筋肉質な馬体をしていました。今後の成長を見守って、最終的な出資を決めたいと思います。

 このノートを楽しんでいただけましたら、ぜひ「スキ」を押していってください。次回のモチベーションになります!


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