曽水に生きて 成瀬正成 中

15傅役(2)

翌日いつもより早く目が覚めた小吉は、駿府城へ早く出仕した。帯刀も眠れなかったのか、駿府城に小吉とほとんど同じ時間に出仕してきた。2人は顔を見合せ、お互い無言であったが、うなずきあって家康公に2人で面会を申し出た。それを聞いた家康公は「流石帯刀と小吉よ」と小躍りして、喜んだ。
早速家康公は、2人の控えている部屋に顔を出した。そうすると2人は神妙な顔をして、まず頭を下げて、挨拶をした。その姿を見て、家康公はいつもようにとぼけて「2人とも、改まっていかがした?」と尋ねた。すると帯刀がまず「本日私ども両名が大御所様の御前にまかりこしましたのは、私ども2人大御所様に願いの儀があります」と堅苦しく申し上げた。その後小吉が「願いの儀とは、私達を大御所様の若君方の傅役にしていただきたいということです。この事をお願いするために、今日は朝早くから、大御所様にお時間をいただいた次第であります」と言った。帯刀はつけ加えるように「我らには息子もおりますので、親子ともども力を合わせ、職責を全ういたしたいと、思っております」と告げた。大御所家康公は「そなた達は、陪臣に下るのだぞ。わかっているのか?」と言われたが、2人はつかさず「そんなことはこだわってません。我々は今まで、立場にこだわってきたことはありません」と言い、最後に「これによって、徳川ご宗家への忠誠心が変わることはごさいません」とも言い、家康公を感激させた。

ここから先は

4,239字

¥ 220

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?