蒼莉奈(あおいりな)「おっちゃん」レビュー ~「仰げば尊し」を彷彿させる感謝の歌~

 私は、シンガーソングライターが好きだ。自分から生まれたメロディーと歌詞を、自分が伝えたい形で伝えられているから。

 蒼莉奈(あおいりな)は、18歳にして、自らの感情を伝える表現力を存分に持ち合わせたシンガーソングライターだ。

 私は、これまで2000組以上のメジャーでないミュージシャンを聴いてきたが、関心が向くのは、ほんの10人から20人程度にすぎない。

 そのわずかな人々の中に入る蒼莉奈は、最も若い18歳にして、既にメロディーと詞と歌唱とギター演奏のすべてにおいて、才能を感じる。
 それぞれの技術においてではなく、それぞれを絶妙に融合させて伝える表現力が、若いシンガーソングライターの中でも圧倒的に優れている、と。

 そう感嘆せざるを得ない楽曲が「おっちゃん」だ。

 関西人だけに、「おじさん」を関西弁で「おっちゃん」である。タイトルからは、コミックソングを想像してしまうが、実際は、シリアスで温かい歌だ。
 蒼莉奈がギターの弾き語りで、小学生の頃、お世話になった近所のおじさんに感謝する。心に沁みるメロディーと美しく切ない歌声、感謝の気持ちがこもった詞が束になって伝わってくる。

 何かあるといつも頼りにしていたおっちゃん。一緒に運動したり、ゴミ集めをしたり、キャンプに行ったり。
 ときには親代わり、ときには友達として、いろんなことを教えてもらい、喜怒哀楽を共にしてきたおっちゃん。

 成長するとともに、おっちゃんとはだんだん会わなくなり、久しぶりに会ったおっちゃんは、年老いて、うち(私)のことを忘れてしまっているようだった。
 それでも、おっちゃんへの感謝は、ずっと忘れない。心の中の思い出と共に、変わりなく大切な人だから。

 蒼莉奈自身の実体験に基づいていて、彼女の人柄が率直に伝わってくる歌に、私は、目頭が熱くなるほど引き込まれた。10代が作った歌で感動を覚えたのは、宇多田ヒカルの「First Love」以来だ。

 私は、この曲を聴いて、学生の頃、卒業式で歌った「仰げば尊し」を思い出さざるをえなかった。お世話になった恩師への感謝を荘厳なメロディーに乗せて伝え、多くの生徒たちが涙するあの歌を。
 あの当時、作られた歌ではなく、自分でこんな歌を作って歌えたらいいのに、と思ったものだが、それを蒼莉奈は、見事な形で実現させている。

 蒼莉奈は、このまま音楽活動を続けていけば、とてつもない名曲を作り上げて、世間を驚かせることになるかもしれない。
 「おっちゃん」で歌った想いを持ち続けながら、ずっと音楽活動を続けていってもらいたい。

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