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シンガーソングライターと名女優が融合した名演アルバム ~宇海ニューアルバム『Rebirth』レビュー~

私が宇海さんの存在を知ったのは、2017年に村上啓介さんのライブ配信を視聴したのが最初だ。
当時、そのライブは、ASKAさんのステージ復帰の日でもあったので、そちらのインパクトが強かった。

あのとき、宇海さんが澤近泰輔さんのプロデュースでアルバムを制作するとは、誰が想像していただろうか。一寸先は、分からないものである。

当時の宇海さんの印象は、コーラスが上手いボーカリスト。その後、2020年2月に公開となった「信じる友へ」の歌唱動画で私は、宇海さんが優れたシンガーソングライターであることを知った。
今回のニューアルバム『Rebirth』では8曲目に収録となった楽曲である。

沖縄の美しい海と澄み渡った空、そして、琉球王国に馳せる想いが沖縄音楽のリズムに乗って伝わってくる名曲だ。

きっとこの歌の主人公は、挫折を味わい、悲しみを抱えながら、沖縄へ癒しの旅に訪れたのだろう。ゆったりと時間が進む大自然と壮大な歴史遺産を目の当たりにした主人公は、悠久の時の流れに安らぎを覚え、笑顔を取り戻すのだ。

私は、この曲を聴いて、心が洗われるような癒しと励ましを感じて、宇海さんの楽曲に魅かれるようになった。

動画では澤近泰輔さんのピアノ演奏で宇海さんが歌い上げているが、アルバムではバンド演奏を加えたアレンジでより情感溢れる仕上がりになっている。

宇海さんには、その名を一躍有名にした動画がある。2020年12月にYouTubeで公開した中島みゆきさんの名曲「ファイト!」カバーだ。
ミュージカル女優出身という宇海さんの強みを大いに生かした名演となった。

『Rebirth』では、宇海さんのミュージカル女優としての経験が歌唱表現をより豊かにしている。

たとえば1曲目の「TSUBAME」では、日本全国を飛び回るツバメと、日本全国を歌って回る自らを重ね合わせたかのように、まるで鳥になったかのように軽やかな歌唱を披露している。

かと思えば、2曲目の「僕ら庶民は」では、裏切りや無気力がはびこる不条理なこの社会の中で、理想論を振りかざす人々との価値観の違いに憤りを噴出させる男性主人公を演じる。太く迫力ある歌声で社会の不条理を嘆きつつ、幸福は結局自分の心持ち次第なのだ、と歌い上げる。

そして、7曲目の「Goemon De PASTA Lunch」では、すっかり赤ちゃんを育てる母の歌声で、微笑ましい日常をかわいらしく歌い上げる。

私は、織田哲郎さんが自らのチャンネルで歌唱力を論じた内容を思い出していた。
一般的に歌唱力と言われるのは、音程、リズム、声量、有効音域。プロになれば、その4つはツールであって、そこを超越して「感情が動くこと」、歌としてその世界が見事に成立していることが重要だと。

宇海さんは、まさに歌の主人公が乗り移ったかのように、歌毎に全く異なる人物を見事に演じきって、世界を作り上げる。

2021年5月に『Weare』で先行発売となっていた「僕たちの大航海」「幸せでいる約束を」「光」は、『Rebirth』の中盤である3曲目、4曲目、6曲目を彩る。
「僕たちの大航海」は、人生を大航海に例え、勇気をくれる勢いある壮大な世界。

「幸せでいる約束を」は、女性が別離の中にある愛情の継続を切なく歌い上げる。私は、この曲のサビのメロディーが強く印象に残って離れない。

「光」は、宇海さん自らのシンガーソングライターとしての信念が感じられる。自らの音楽活動を支えてくれた人々への感謝がこもっている。

それらの間に入っている5曲目の「コーヒーカップ」は、男性が愛した女性に切なく想いを馳せる寂寥を感じられる楽曲。
「幸せでいる約束を」や「コーヒーカップ」のような切なく歌い上げる楽曲は、澤近泰輔さんのピアノアレンジが絶妙に楽曲を引き立てる。

「TSUBAME」や「僕ら庶民は」「僕たちの大航海」といった勢いのある楽曲は、関淳二郎さん、恵美直也さん、佐藤邦治さんといったチャゲアスのバックバンドを務めたメンバーが鮮やかにグルーヴを作り上げる。

ラストを飾る「Rebirth」は、紆余曲折を経てこの場所にたどり着いた宇海さんの達観した気持ちがまるで女神のような表現力で爽やかに歌い上げる作品。
タイトルからは、輪廻転生を思い浮かべがちで、自然界の摂理を描いたように聴こえるが、きっと宇海さんの音楽人生の再生も重ねているのだろう。

宇海さんがこれまで積み重ねた音楽人生で何度も挫折を味わい、そこから現在のチャゲアスバンドメンバーとのめぐり逢いでまさに再生するに至った万感の気持ちがまっすぐに表現されているように感じる。

宇海さんの全国での知名度は、高い実力と比例しているとはまだまだ言い難いが、この名演アルバムを再スタートにして、今後、名実ともに日本を代表するシンガーソングライターとして評価されて行くはずである。


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