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『Made in ASKA -40年のありったけ-』映像作品レビュー

今週は、ASKAさんのコンサートツアー2019『Made in ASKA -40年のありったけ- in 日本武道館』DVD/Blu-rayが発売となりました。

この復活バンドツアーは、どの記事やレビューを見ても、大好評・大絶賛でしたから、映像作品発売を心待ちにしておりました。

映像作品を鑑賞しながらレビューを書かせていただきます。

 『40年のありったけ』という副題を掲げたASKAの復活バンドツアー。
 映像の収録会場となった日本武道館には、やはり「戻ってきた」という表現がふさわしい。
 3年前は、まさかここまで復活するとは想像すらしなかった。
 劇的な復活を果たしただけに、還暦を意識した赤いスーツで武道館の舞台に立つASKAが登場しただけで、こみ上げてくるものがある。

 この日の日本武道館は、東京五輪をイメージした新曲をオープニングで流すせいか、日の丸の国旗を掲揚している。
 おかげで、ライブが進むにつれ、私の目には、まるで日本代表音楽チームがライブをやっているかのように見えてきた。
 それほど、『40年のありったけ』は、濃密な40年が詰まったライブだった。

 濃密さを予兆させてくれるのが1曲目の「未来の勲章」だ。ASKAが事件後、初めてファンの前に姿を現したときに披露した記念すべき曲である。
 観客300人を集めて行ったMV撮影時の感動が鮮やかによみがえってくる。
 あのMV撮影は、新しい試みとして、YouTubeで世界に向けて生中継をした。画面の前でASKAが登場するまでの1時間、今か今かと待ち続けた緊張が昨日のことのようだ。

 やはりバンドライブは、ASKAの歌唱が通常モードになっているから、違和感がない。前回のビルボードクラシックでは、ゲストボーカリストとしてオーケストラの演奏に合わせた歌唱になっていたから、どうしても違和感が拭えなかった。
 ASKAの歌唱を最大限に引き立ててくれるASKAバンドメンバーが戻ってきてくれたのも心強い。

 2曲目の「ONE」は、チャゲアスブームの真っ最中に、CHAGE and ASKAの活動を休止してソロ活動に入ったASKAが制作したアルバム『ONE』のタイトル曲だ。
 思えば、現在のソロ活動の源流がこのアルバムにはある。今となっては感慨深いターニングポイントである。

 3曲目の「明け方の君」は、CHAGE and ASKAでダブルミリオンを達成した伝説のアルバム『TREE』の収録曲だ。
 今回のライブでは、Cメロの印象的なメロディーを歌いだしに持ってきている。楽曲の最高のメロディーを歌いだしで披露すると、楽曲の印象は、こんなにも鮮やかに変わる。
 曲は、制作者が最初に発表した原曲が完成ではなく、音楽活動を続けている中でどんどん形を変えて、完成に近づいていくものなのだ。

 そして、ギターを抱えて歌うASKAの仕草は、以前と全く変わらない。長渕剛は、ギターをまるで相棒のように扱うが、ASKAは、ギターをまるで曲に登場する女性のように扱う。
 今回のライブでは、ギターが赤なので余計に、女性のように見えてくる。

 4曲目は、ファンの間で人気が高い「cry」。この曲を聴くと、私は、ライブツアー『My Game is ASKA』を思い出す。あのときASKAバンドに加わったバイオリンによって、「cry」だけではなく、数々の曲の幅が格段に広がった。
 あのライブで、ASKAは、バイオリニストのクラッシャー木村を起用し、その後、ASKAバンドのライブにバイオリンが欠かせないパートとなっていくのだ。

 5曲目は、古川昌義のギター演奏が光る「Girl」。歌声よりも雄弁に語るギターに、高い技術と表現力が堪能できる。今回のアレンジは、ギターソロだけでも曲が成り立つのではないかとさえ感じるほどの濃密度である。
 それに加えて、今回はクラッシャー木村の情緒的なバイオリンまで加わって、楽曲がさらに雄弁になっている。

 そして、6曲目は、昨年に配信発売となり、CHAGE and ASKAのことを歌っていると話題になった「憲兵も王様も居ない城」。
 現在の自らの内面を吐露する曲だけに、ASKAのシャウトにも魂が籠る。
 この曲の間奏とアウトロに「恋人はワイン色」の歌唱を挟み込んできたのには驚いた。
 思えば、「恋人はワイン色」は、CHAGE and ASKAの集大成となったライブ『DOUBLE』の1曲目で披露した曲。こういったサプライズ演出に毎度遭遇するのも、ASKAライブの醍醐味である。

 7曲目の「Man and Woman」は、現在のところ、CHAGE and ASKAの最新シングルにして、澤近泰輔のピアノ演奏が光る、哲学的な詞の曲。思えば、「PRIDE」以降、澤近の制作するイントロとアウトロの魅力は、ASKAとの二人三脚によって、数多くの名曲を生み出し続けている。この曲は、その象徴である。

 8曲目にはデビュー15周年時のミリオンセラー「めぐり逢い」。CHAGEの歌唱がないとどうなるか心配になる曲だが、西司と藤田真由美が2人でカバーして違和感がないところまで仕上げている。

 9曲目に披露した「MOON LIGHT BLUES」は、ASKAが初めてピアノで作曲した記念すべき曲だ。決して大ヒットしたとは言い難い楽曲ではあるが、この曲をきっかけにASKAのメロディーは、飛躍的に洗練されていったように感じる。

 ASKAは、このライブの選曲を、世間でヒットした曲というよりは、むしろ40年間の中で、ターニングポイントとなった曲を中心に披露しているように感じる。
 そのせいか、1980年代以前の曲は、この「MOON LIGHT BLUES」と「LOVE SONG」の2曲にすぎない。

 10曲目に披露したのは、「大きく見て、世間に認められるきっかけとなった曲」とASKAが語る名曲「はじまりはいつも雨」。
 思い返せば、この曲のミリオンセラー達成からチャゲアスブームが始まった。メロディー、詞、リズム、歌唱表現力、アレンジのすべてが完璧にはまった大名曲だ。
 メロディーの秀逸さとともに、雨のイメージを不幸から幸福に大きく覆した詞の世界は、私も大きな衝撃を受けた。

 そして、事件前の集大成とも言える曲「いろんな人が歌ってきたように」。この曲発表後の事件のせいで、あまりこの曲が世間には広まっていないが、愛と人間の本質に迫った、まぎれもないASKAの代表曲である。

 その曲を歌い終えると、ここで恒例となった「もぐもぐタイム」。今回のライブでは、ライブの休憩時間にASKAがメンバーと一緒に、ステージ上でその地域の名物を食べる新コーナーができた。
 観客のトイレ休憩時間も、エンターテイメントにしてしまうASKAのアイデアには脱帽である。

 続くメンバー紹介では「手数王」こと菅沼孝三の超絶プレイを見られたのも嬉しい。最近のASKAソロのドラムは、江口信夫が多く務めているが、若い頃のCHAGE and ASKAのドラムと言えば、菅沼孝三だったのだ。日本最高峰のミュージシャンの集合体がASKAバンドであり、CHAGE and ASKAバンドである。

 メンバー紹介の最後で澤近泰輔を紹介。その流れで入っていくのが、澤近泰輔が制作したイントロのピアノ演奏が印象的な再始動記念曲「FUKUOKA」。
 この曲を聴くと、2016年のクリスマスイブに緊張しながらYouTubeの再生ボタンを押した一瞬がよみがえってくる。配信から4日で100万視聴を突破した名曲であり、復活を支えてくれた故郷福岡の人々への心からの感謝が沁み入るように響く。

 続く「LOVE SONG」も、ASKAにとっては大きなターニングポイントとなった曲だ。
 世間の流行の風潮に惑わされず、しっかりとした自己を確立して音楽活動をやっていくという強い意志が感じ取れる。
 そして、実際、この曲発売の2年後、世の人々の心をしっかりつかんで、時代を変えた。

 14曲目には音楽活動を再開する意思表明と言える曲「リハーサル」。アウトロのクラッシャー木村のバイオリンソロ演奏は、まるで映画の1シーンのように圧巻だ。

 そして、断面を切り取ったような世界から成る実験的な作品で、YouTubeで世間から高い評価を受けたロックナンバー「と、いう話さ」。ライブ終盤には、こういった少しダークなアップテンポの曲が必須だ。

 16曲目の「晴天を誉めるなら夕暮れを待て」は、ASKAがソロとしてロックをやっていくきっかけとなった曲だ。CHAGE and ASKAのような曲をソロとしてもやっていくという意味で、ソロアーティストとして足がかりを作ったと言っても過言ではない。

 幼少期からの友人との友情を歌った名曲「ロケットの樹の下で」は、CHAGE and ASKAの曲でありながら、今回のライブでは歌いだしがギター弾き語りで始まる新しいアレンジになっていて、ASKA個人としての心情がさらに伝わるようになった。

 そして、現在のASKAの心境を最も表している「今がいちばんいい」。最初にアルバムで聴いたときには、この曲が「YAH YAH YAH」級に盛り上がるように感じなかった。だが、実際にライブで披露されると「YAH YAH YAH」級に盛り上がっていて、ASKAの優れた想像力と感性だからこそ成しえる魔法のような曲だ。

 本編ラストは、ASKAの散文詩の朗読から始まる「歌になりたい」。「みんなでおとぎ話になろうよ」という散文詩のフレーズから、イントロにつながっていく流れが感傷的で、詩と歌が一体となって沁み渡る。

 そして、何と言っても新しいのは、サビ全体がコーラスとASKAの輪唱形式になっている構成だ。
 特に藤田真由美の艶がありながら透き通って安定した優しい美声は、まるで聖母が歌っているかのようなありがたみを感じる。
 そこに輪唱で被せるASKAの歌声にも、人類や歌への愛情が籠っていて、本当に教科書に載ってもおかしくないほど壮大な名曲に仕上がっている。
 ASKAが自信を持って送り出すこの「歌になりたい」は、11月に満を持して10年ぶりのシングルとなる。

 アンコールでは、西城秀樹の大ヒット曲「YOUNG MAN(Y.M.C.A.)」のカバー歌唱を披露する。相変わらず、ASKAのカバー歌唱は、ご本人の歌唱法を取り入れていて、ところどころで西城秀樹本人なのではないかとさえ錯覚してしまいそうになるクオリティーだ。
 名曲を色あせないように次世代に歌い継いでいく精神が感じ取れる。

 アンコールの2曲目は、CHAGE and ASKAの大ヒット曲にして、ビルボードクラシックでも披露した「YAH YAH YAH」。
 バンド形式のライブでは、この曲をどうしても聴きたくなる。
 この曲は、世間では「殴りに」というフレイズと、歌詞のないサビがクローズアップされてしまうのだが、最近、あるファンの方がレビューで「一緒に」というフレイズに注目していて、私は、いたく共感した。
 この曲が永く私たちに寄り添ってくれるのは、「一緒に」殴りに行ってくれるからなのだ。「一緒に」に着目するようになってから、私は、この曲を聴くたびに、目頭が熱くなる。
 発売から四半世紀が過ぎた今、「YAH YAH YAH」で語るべきは「一緒に」である。

 アンコールのラストで披露となった「UNI-VERSE」は、CHAGE and ASKAの活動を休止してまで、ソロで音楽を極めていくターニングポイントとなった曲だ。
 この曲をラストに持ってきたのは、やはりASKAがこれからはますますソロアーティストとして音楽を極めていくという意思の表れだと感じる。
 そして、ASKAがステージで歌っているとき、すべての聴衆が笑顔になってくれる曲ということで、すべての人に笑顔で帰ってほしいという意味も込められているのだろう。

 ASKAは、このライブのセットリストを最初は、40年間で世間に認められた代表曲による構成にするつもりだったそうだ。しかし、実際は、「SAY YES」も、「PEIDE」も、「モーニングムーン」も、「ひとり咲き」も、「万里の河」も、「On Your Mark」も、「太陽と埃の中で」も、「WALK」も、「月が近づけば少しはましだろう」も、「けれど空は青」もない。
 それでも、全く役不足を感じさせない充実したセットリストで、ライブ終了後には、満足感しか残らない。

 ASKAは、このライブの直前、風邪を引いてしまったのだという。そのため、時折かすれた声になっているのだが、それがまたASKAの歩んできた苦悩を下地として表現しているような演出に聴こえてくる。
 特に太く高く響くロングトーンは、以前よりも、迫真の力を持って迫ってくるように感じた。

 華々しく再スタートを切ったASKAは、きっと次のライブではさらなる高みを見せてくれるはずである。


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