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成熟と純真さが初々しく共存する名盤 ~蒼莉奈 デビューアルバム『はじまり』~

 並外れた才能に出会ったときの喜びは、何ものにも代えがたい。
 
 蒼莉奈は、私が聴いた中でもトップクラスの才能の持ち主だ。

 まず驚くのがメロディーの完成度の高さ。

 ASKAは、人を最初に惹きつけるのは曲だ、と述べている。
 「あの曲いいよね」と人々が耳を傾けるところから、口コミでどんどん広がっていく。
 メロディーとリズムが歌声とぴったりとはまった曲。それが名曲なのだ。

 現在のミリオンセラーは、AKBグループばかりなのであてにならないが、2000年代前半までのミリオンセラーは、どれも本当に曲が良かった。
 何度も聴きたくなるメロディーで、心を込めて歌ってみたくなるメロディーでもあった。

 私が蒼莉奈を知ったのはTwitterの歌動画だ。
 「おっちゃん」の心に沁みるメロディーに魅了され、「本当のバカだ。」の切なくポップなメロディーに魅了された。
 現在は、公式アカウントが変わってしまったが、当時の公式アカウントでは女子高生ながら8万人以上のフォロワーを集めていた。

 メジャーでない女子高生シンガーソングライターにフォロワーが8万人もいるのは、異例中の異例だった。
 それほど、蒼莉奈の楽曲は、突出していたのだ。

 その後、AbemaTV『日村がゆく』に出演し、自作曲「おっちゃん」を披露。出演者から数々の絶賛を浴びた。

 蒼莉奈は、その番組で、高校の教師から「華がないから、プロにはなれない」と言われたエピソードを披露している。

 酷い教師だ。シンガーソングライターに必要なのは音楽の才能であって、中島みゆきや松任谷由実、吉田美和、宇多田ヒカル、あいみょんらも華を売りにしているわけではない。
 アイドルや女優が出す歌とは一線を画して考えなければならない。

 高校教師の的外れな見解をものともせず、蒼莉奈は、高校卒業後、無事7月7日にファーストアルバム『はじまり』でデビューを果たした。
 公式ホームページでのオンライン販売は、発売日からわずか1日で品切れを起こす伝説も作った。

 そんな『はじまり』は、既に蒼莉奈の代表曲となっている2曲のうち、「本当のバカだ。」が1曲目、「おっちゃん」が8曲目に収録となっている。

 「本当のバカだ。」は、若い女性の淡い片想いを描いた楽曲だ。Aメロでは、片想いの苦しさを切なく描き、サビではどうしようもない強い想いをぶつけるように描く。
 バンドスタイルで聴かせるポップスで、天才作曲家織田哲郎のメロディーを彷彿させる。蒼莉奈のメロディーメーカーとしての才能が溢れている。

 8曲目の「おっちゃん」は、以前からYouTubeにも2つのMVが公開となっていて、既に合計1万回以上の視聴数を稼いでいる。

 「おっちゃん」の魅力は、何といっても人情味豊かな詞のストーリーと、それを引き立てる沁みるメロディーだ。幼い頃お世話になったおっちゃんへの感謝と、成長して疎遠になっても変わらぬ想いを、情感たっぷりに歌い上げる。
 アコースティックギター1本の弾き語りでじっくり聴かせる名曲で、清らかな高音の哀愁漂う歌声が目頭を熱くする。

 私は、蒼莉奈に弾き語りシンガーソングライターのイメージを持っていたのだが、実はギター1本の弾き語りはこの「おっちゃん」だけで、残りの8曲は、すべてバンドスタイルの楽曲を揃えている。
 演奏を抑えた弾き語りに近い楽曲は、4曲目の「花火」くらいだ。

 まずは、若々しさを前面に押し出したJ-POPのシンガーソングライターとして勢いをつける『はじまり』なのだろう。

 J-POPを最も感じさせる3曲目の「Umbrella」は、ヒット曲と言われても疑わないくらい心地良いメロディーだ。特にサビは、1度聴いたら覚えて口ずさんでしまうほど、印象に残る。
 10代でここまで成熟したメロディーを作れる才能に、私は感嘆せざるを得ない。

 9曲目の「かまくら」も、1990年代のZARDが歌っていそうな名曲だ。頭サビから、リズムに乗ったAメロ、心境を語るBメロ、美しさと寂しさが共存するサビ、願いを込めるCメロと、表情豊かに楽曲を彩る。
 
 蒼莉奈は、メロディーの成熟さと詞の純真さを、初々しくも類まれな歌唱表現力で見事に融合して、聴衆を惹きつけてしまう。
 だからこそ、蒼莉奈の歌は、特別なオーラをまとって伝わってくる。

 それは、最近、第101回全国高校野球大阪大会・兵庫大会J:COM生中継テーマソングに起用されて話題沸騰の新曲「太陽YELL!!」でもいかんなく発揮している。

 蒼莉奈の楽曲が全国区になり、「華がないから、プロにはなれない」と言った教師を見返す日は、もうすぐそこに来ているのかもしれない。

蒼莉奈Official Webサイト


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