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獣医師・愛玩動物看護師以外がペットホテルで投薬することは無料でも違法なのか?

最近、動物看護学生に「ペットホテルで投薬してもお金を取らなきゃ良いんじゃないですか?」という質問を受けた。

まず、「良い観点だね」と褒めた。
そして「ダメです」と続け、理由を複数の観点から説明したのだが、そのうち最も大切な事柄についてまとめたい。

このnoteでは、「たとえ無料でもペットホテルで無資格者が投薬してはならない社会人として1番大切な理由」について説明する。

結論: 「投薬」は獣医師・愛玩動物看護師の「無償独占業務」だから

社会人として生きる日本人ならば「独占業務」という言葉は聞いたことがあるだろう。

「医療行為は医師しかできない」
「弁護業務は弁護士しかできない」など、
国家資格の名を冠する資格の一部は、その業務の排他的な独占が許されている。

しかし、もしかしたら、この記事を読む社会人であっても「無償独占」という言葉を聞いたことがない人もいるかもしれない。

実は独占業務をもつ国家資格はさらに、「有償業務独占資格」と「無償業務独占資格」に分類される。

「有償業務独占」と「無償業務独占」

有償業務独占とは、「その業の有料実施を禁じること」をさす。
一方、無償業務独占とは「その業の無料実施を禁じること」をさす。

要するに、有償独占業務は無料ならば実施しても良いが、無償独占業務はたとえ無料でも業として実施することは禁じられているのである。

たとえば、有償業務独占資格には、弁護士、弁理士、公認会計士、行政書士などがあり、これらの資格の根拠となる法律には「資格のない者は"報酬を得る目的で業とすることができない」とある。

弁護士法 第九章 第七十二条

また、無償業務独占資格には医師、歯科医師、税理士、建築士などがあり、これらの資格の根拠となる法律には「資格のない者は業とすることができない」とある。

医師法 第五章 第十七条

獣医師法と愛玩動物看護師法を見てみよう

本題に入る前にまずこちらの資料を見てほしい。
愛玩動物看護師法施行時に、環境省が提示した愛玩動物看護師の業務範囲をわかりやすく示した図である。

愛玩動物看護師の業務範囲の考え方(環境省より)

念の為、ズームした画像がこちら

画面ズーム

診療の補助の欄に明確に「投薬(経口など)」とある。

この時点で環境省は、「経口投与を含む投薬は診療の補助行為である」と明言していることがわかる。

さて、それを踏まえて、本題の獣医師法と愛玩動物看護師法の「業務」がどのように記載されているのか見てみよう。

まずは獣医師法

獣医師法 第四章 第十七条

獣医師でなければ、飼育動物の診療を業務としてはならない

とあり、条文に「"報酬を得て"」の文言は無い。

つぎに愛玩動物看護師法

愛玩動物看護師法 第四章 第四十条

獣医師法第十七条の規定にかかわらず、診療の補助を行うことを業とすることができる

とあり、こちらも「"報酬を得て"」の文言は無い。

したがって、「投薬は獣医師および愛玩動物看護師の無償独占業務であり、無資格者はたとえ無料でも業として実施することは許されない」のだ。

よって、ペットホテルで無資格者が投薬する業務はたとえ無料でも獣医師法と愛玩動物看護師法に違反する。

補足: 服薬介助について

※以下の内容は、正確には弁護士に相談したり、判例が出ないことには未確定であることに留意した上で読んでください

なお、人医療にも同様の問題が存在する。それが介護職による服薬介助である。
(服薬=自分で薬を飲むこと)

介護職員には、要介護者の食事を用意する機会があるが、その際に要介護者に薬を飲んでもらうことを介助する場合があり、これを服薬介助という。

人の服薬介助もペット同様、医療行為とのグレーゾーンに悩まされてきた行為の一つであり、「薬剤をPTPシートから出す」行為さえ違法性が高いされている。

しかし、訪問介護や老人ホームなどでは介護士がたった1人で介護することもあるが、そういった場合はどう対応しているのか?

介護士に話を聞くと、PTPシート(薬剤が入れられてる銀色のやつ)から出す行為は違法性が高いが、一包化(1回分の薬を一つの袋にまとめること)された薬剤をテーブルに並べることはセーフ、と言われることがあるらしい。

なるほど、それなら無資格者にもいけるかもしれないが、だからといって判例の無いままペットホテルでも同様の事例が当てはまると断言するのは危険であるし、弁護士もきっとそういった行為を勧めはしないだろう

獣医師ないし動物看護師資格を持たないまま服薬介助を業として行いながら事故が起きたとしたら、飼い主様に訴えられた際に法的にかなり弱いのは容易に想像できる。

この記事を読んだ人にはどうか法的に安全な行為をすることを心がけてほしい。

まとめ

  • 国家資格には業務独占されている資格がある

  • 業務独占資格は「有償業務独占資格」と「無償業務独占資格」に分類される

  • 無償業務独占に該当する行為たとえ無料であっても業として行うことはできない

  • 「愛玩動物への投薬」は「診療の補助」に該当する

  • 「診療の補助」は獣医師法、愛玩動物看護師法で「"報酬を得て"」との文言がなく、無償業務独占されている

  • ペットホテルでの無資格者による投薬は、無償業務独占に違反する行為である

  • 一包化された薬剤の服薬介助ならセーフかもしれないが、かなりグレーだと思うので避けること

今回は、社会人として法律の観点からまとめた。

とはいえ本来、なぜ獣医師や動物看護師以外の者の投薬行為が禁じられているのかと言うと、最低限の知識を持たない者が薬剤を扱うのは危険だからである。

当然、これまでその行為を業として行なってきたものはいるだろう。
そもそも獣医師法のみの時代から投薬は違法ではあるが、昨今は愛玩動物看護師法でこれまで獣医師法でグレーだった部分にたまたま焦点が当たるようになったにすぎない。

感覚的に無資格者の投薬行為の違法性について納得できない者も多いと思うし、かつてグレーゾーンと呼ばれた動物看護師に近い立場にペットシッターが位置付けられるかもしれない。

ただもしもあなたが獣医療関係者ならば、「無資格者による投薬は明確に違法行為である」とロジカルに説明できる術も覚えておいてほしい。

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