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お父さんが認知症になった。 ♯1

病院で痩せこけた父が私に「ところで、君と僕は、どこで出会ったんでしたっけ?」と尋ねた。

その瞬間、自分の存在が消えたような気がした。

母は、私が7歳の時に膠原病で亡くなった。まだ、44歳だった。

それから、57歳の父との二人暮らしが始まった。

家事はすべて母の仕事だったから、家はどんどん荒れて行って、私は毎日同じジャージを着て学校に行った。

遠足のときに父が早起きをして作ってくれたサンドイッチを「形がおかしい」と罵られた。

母が亡くなってから、同級生に馬鹿にされることが多くなった。

悲しくて悔しくて泣いていると、学者だった父が「勉強して一番になったら誰もさくらのことを馬鹿になんてしなくなる。」と教えてくれた。

だから勉強した。

幼かった私は、正義になりたくて検察官を目指した。

北海道を出て、関西の大学に入った。父は、私が地元を出るのを嫌がったけど、私は父を見捨てて家を出た。

それから、父はごみを家にため込むようになり、お風呂にも入らず、自分のことを一切しなくなっていった。

どんどん汚くなっていく父を見るのが辛くて、私は地元にも寄り付かなくなった。

胆管結石で倒れて、運ばれた病院で、父は病室におしっこをまき散らし、深夜徘徊を繰り返したことで、重度の認知症と判明した。

学者で、賢くて、厳しくて、頑固で、学生に教えることが生きがいだった父が、自分が今どこにいるのか分からず、うんこをズボンにつけて歩いている姿が、本当にショックだった。

そして、何より、いつだって私のことを心配して、応援してくれていた父が私を忘れることで、自分の存在が消えたような気がした。



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