IPO・M&Aと知財②(特許出願と秘匿化)

1.スタートアップに限られない一般論

他社に比して優位性のある技術やアイディアがある場合、全て特許出願すべきかというと、必ずしもそうとは言えず、営業秘密として秘匿化すべき場合もあります。

このことは、スタートアップに限らない一般論として、様々な考慮要素がありますが、例えば、

①対象技術について他社がキャッチアップするまでの期間

→短ければ特許出願後の出願書類の公開(原則:出願日から1年6か月)によるデメリットが小さい一方、特許権による独占のメリットが大きいことになります。他方、長ければ、公開によるデメリットが大きく、特許権による独占のメリットが小さいことになります。

②侵害者が現れた場合に特許権侵害の立証可能性がある特許権の取得可能性

→例えば、UIに現れないソフトウェアやプログラムのバックエンドの構成だけで特許を取得できたとしても、侵害立証ができない可能性もあり、その場合、特許出願後の公開によるデメリットが大きく、特許権による独占のメリットが小さいといえます。

等が考えられます。

2.スタートアップ固有の考慮要素

しかし、スタートアップの場合には、固有の事情も考慮しなければいけません。

(1)不正競争防止法上の営業秘密として保護を受けることの困難性

ノウハウとして秘匿化するという選択をする場合、当然、

①流出の可能性(流出防止のための対応策)

②流出時の対応策

を考えなければいけません。

①については、人も時間もリソースもないスタートアップが、大企業のように厳格に営業秘密の管理を行うことは、特にシード・アーリーの段階では難しいです。したがって、流出のリスクは常に考えておかなければいけません。

また、①とも関連しますが、当該営業秘密が、不正競争防止法2条6項に定める「営業秘密」に該当する場合は、ある者がその営業秘密を不正に取得・使用等した場合(より正確には、当該行為が不正競争防止法上の「不正競争」に該当する場合)には、その者に対し、差止・廃棄請求や損害賠償請求を行うことができます。

この「営業秘密」に該当するための要件は、

①秘密として管理されている[秘密管理性]
②生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の
情報である[有用性]
③公然と知られていない[非公知性]

となり、多くのケースで問題になるのは①です。

この①秘密管理性について、後日また記事を書こうと考えていますが、スタートアップのリソースで整えることは、一般的には困難です(もっとも、大阪地判平成 15年 2 月 27 日平成 13 年(ワ)10308 号は、企業規模を考慮し、小規模企業の秘密管理性をやや緩やかに判断しており、スタートアップであることが若干考慮される余地がないわけではなく、スタートアップも「営業秘密」を活用すべき場面もあるので、スタートアップの「営業秘密」については別途記事を書く予定です。)。

そのため、スタートアップには

A.営業秘密として管理することの困難性(流出の危険)

B.流出した場合に「営業秘密」としての保護を受けることの困難性

が付きまといます。

(2)特許化した場合のメリット

これに対し、もうひとつの選択肢である特許化について、営業秘密として秘匿化した場合と比べて考えてみましょう。

①リスク評価の前提事実の明確化

まず、M&AによるEXITを目指した場合を考えてみると、M&Aの際、バイサイドで知財デューデリジェンス(DD)に関わることも多いのですが、買収のきっかけとなったポイントなる技術が営業秘密として秘匿されており、「CTOやその他技術者の脳みそに全てつまっている!」等と言われてしまうと、評価が非常に困難となります。

すなわち、スタートアップで肝となる技術を特許出願していない場合、当該技術が第三者に伝わる形で文書又はデータとして残っていることは稀であり、この場合、(i)当該発明の特許取得可能性、(ii)当該発明の実施が第三者の知的財産権を侵害する可能性をきちんと調査することは困難であり、(リスクやメリットの有無すら判断できず、)DDにおいてマイナスポイントになりがちで、事業価値を下げる交渉材料やそもそもM&Aをやめるという判断につながりかねません。

②価値の明確化

また、大企業サイドからすれば、特許権がないのであれば、(不正競争防止法上の「営業秘密」に関する「不正競争」を行わなお限り)スタートアップに当該技術を法律上独占されることもなく、案件ベースで製造委託や共同開発等行い、メカニズムさえわかれば後は自社でやるという決断が出てきても不思議ではありませんが、他方、メカニズムがわかったとしても、当該スタートアップの特許権を回避して同様のことを行うことが困難な(又は工数や費用の関係でペイしない)場合や、後発の第三者の出現を抑止したいと考えている場合には、特許権を会社ごと買収してしまった方が良い、という判断が出てくることも合理的です。

さらに、大企業側の社内決裁の場面を想像しても、担当者が決裁権者を説得する際に、対象企業に特許権がある場合の方が、当該企業をM&Aしなければならないというストーリーを組み立てやすいことは間違いありません(このことは、スタートアップが資金調達の際に特許権があった方が自社のマーケット独占や他社との競争優位性を説明しやすいことと同様です)。

③大企業にM&A対象企業として目を付けられるきっかけの増加

知財に目を配っている大企業であれば、自社の製品・サービスを設計する際、第三者の特許権を侵害するおそれがないかどうか調査することが通常です。そのため、スタートアップが特許出願を行っていた場合(特に権利化までしていた場合)には、大企業が同じことをやろうと考えた際に、当該特許に出会うわけであって、特許権の内容や大企業のスタンスによっては、M&Aを行うという決断につながる場合もあれば、そうでなくとも、ライセンスや共同開発等のアライアンスの話に発展する可能性も出てきます。

④アピール材料の増加

スタートアップは、自社のプロダクト(サービス)を積極的に市場に向けてアピールしていく必要があり、その際は、肝となるアイディアや技術を実装した機能等を紹介した方が効果的な場合がほとんどです。

しかし、営業秘密として秘匿する場合は、当然、少なくとも肝となる部分は開示できない(非公知性の要件)ため、アピールに制約が課されます。

他方、特許出願をしておけば、出願後には積極的にアピールできることはもちろん、自社の技術の優位性や独自性を特許権によって裏付けることもできます(なお、スタートアップ界隈のメディアの方にお話を伺った際、特許権を絡ませたリリースは拡散されやすく反響も大きくなりやすいとのことでした。)。

また、資金調達の際、事業戦略の説明にあたって、自社による市場独占や競争優位性を説明するにあたっては、特許権による独占という裏付けがあった方が説得的になることはもちろんです。

3.総括

以上検討してきたように、スタートアップも一般の企業と同様、特許出願すべきか、営業秘密として秘匿化すべきかという選択を行わなければいけない場面が出てきますが、スタートアップ固有の事情を踏まえれば、特許出願を選択するメリットの方が大きい場合が多いものと考えます。

もっとも、もちろんスタートアップでも営業秘密として秘匿化した方が良いケースも存在するため、その場合に、スタートアップがいかにして「営業秘密」として不正競争防止法上の保護を受けるための対策を講じていくべきかについては、後日の記事でご紹介できればと考えています!

ご不明な点やご質問があればお気軽にご連絡ください!
最後までお読みいただきありがとうございました!

弁護士 山本 飛翔


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Tsubasa Yamamoto

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