『収録とかM-1とかデートとか』のその後とか

こんばんは。太陽の小町というオスメス漫才コンビの安田一平というヒト科サル目のオス。
前回『収録とかM-1とかデートとか』というタイトルのnoteを上梓した。『収録とかM-1とかデートとか』というnoteの内容は、読んでいただいたほうが細かい心情とか伝わるのでそちらから読んでいただきたいのだが、まあ簡単に言うとM-1に向けての準備に、練習とかネタを叩くとかじゃあなく香水を買う!という結論を綴ったnoteである。今回はそれの後日談を記す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

今日は朝から台風の影響による大雨だったがそれも昼には止み、嘘のような晴れ模様に。森の切り株というパンと、100%アップルジュースを水で8対2に割ったものを食し、携帯の天気予報アプリとにらめっこする。昼からの晴れに合わせてバスタオルの手洗いを開始する。最近の綱渡りのような天気が続いたせいで生乾きの臭いがついたバスタオルを一新するため、ハイターと一緒にバケツにしばらく漬け込み、その後すすぎ、洗剤を入れて洗濯、すすぎ、柔軟剤を入れて漬け込み、すすぐ。ジャブジャブバシャバシャシャワシャワ。絞ったバスタオルをベランダに干すと、弄ばれるかのように風と激しいダンスを始めた。服を着替え髪の毛をセットし衣装をカバンに詰め込んで家を出る。今日はおもしろフィロソフィーがある。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

おもしろフィロソフィーとは中川ごぼう主催のお笑いのライブ。中川ごぼうというのは中川健太郎で、むかしテレビの一員。わからなくてもよい。
1、2年くらい前から続いているこのライブのここ最近の人気はすごい。コロナ前か?と錯覚するほどのお客が来場する。昔からメンバーはあまり変わっていないので、これは各々が実力をつけてきた証でもある。
開場の一時間前に入り、顔なじみの芸人と挨拶をして客席の一番前の左端に座った。ゾロゾロと芸人が集まり自然とガヤガヤと屋台のような喧騒になる。芸人は本当にお喋りが好きだ。
時間通りに主催の中川ごぼうが壇上でぽつねんと挨拶をしてライブの説明しだす。だが完全に喧騒に負けている。彼を別に舐めているわけではないのだが、中川ごぼうにはそういう素質がある。次第に何か中川ごぼうが喋っているな?と各々が気づき出し自然と聞く姿勢になる。優しい気付き。ライブの説明は続く「………でして、コントの方で音きっかけある方は後で聞きますので、このまま客席でお待ち下さい。出順はお伝えした通りなのですが、入時間の調整で急遽時間変更になる可能性があります」「え!?急遽変わるん?」すかさず私は「1500m決勝か!」とオリンピックの時事ネタをまみえて例えツッコミをしたが、一同完全にポカン。しかも実際にはマラソンの開始時間が変更になっててただの例えミス。幸先の悪いスタートとなった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

この時期のお笑いライブは賞レースの予選に照準を合わせ力を注いでいるので仕上がっている。自然と今日のライブも盛り上がりをみせた。自分たちの出番が終わり、他の方のネタでも観ようかと客席の後ろに。各各其其が面白いを突き出してネタをしているの。人の熱というのは何と心の奥をチリチリ焦がすのだろう。情熱がバチバチとエレクトして観ている人間を突き刺す。観ている側も負けじと熱をすべて飲み込むかのように前のめりに押し返す。その二つの精神の熱の対峙がやがて渦となり大きなうねりになり昇華して会場に大爆笑という形で霧散して降っていく。やはりライブは良と再確認。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ライブ終わりに相棒とネタ合わせに喫茶店に行く。今日したネタの改善をする。ネタ合わせのときに発せられる二人の不穏な空気は重い。暗雲が我らの周りにだけ急に発生したかのよう。今日は喧嘩は然程なく、相棒の体調を鑑みて早めに切り上げる。それから少し他愛もない話をして、時計を見るとまだ18時前だった。私は相棒を香水探しに付き合ってもらえないか頼んだ。相棒は二つ返事で了承してくれた。席を立った。

店を出て二人で地下街サブナードを通ってJR新宿駅の方へ。そのまま地下のままルミネに入ると途中の一つの店を不意に指差し「ここ誕生日の時にヒコロヒーにもらった香水のお店ですよ」と言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

太陽の小町とヒコロヒーはここ数年で縁深い仲になった。色々なことを共に乗り越え共に過ごした。我々はヒコロヒー無くして今の自分たちには成り得なかったと断言してもいい。そんな我等はAマッソの村上女史、3時のヒロイン福田麻貴女史と毎年各々の誕生月に集まってプレゼント交換をしている。今年は6月のある日に太陽の小町、ヒコロヒー、Aマッソ村上女史が相棒とヒコロヒーが同居している家に集まることができ、無事今年も誕生日会を開催できた。

時間が不定な我々は集まれる人間がいそいそと先に集まり、食べ物飲み物を用意する。お互いに気兼ねが無さすぎて、その日は6月生まれの太陽の小町とAマッソ村上女史が先に集まるし部屋の掃除もするし、私に至っては誕生日会があることを当日に知らされた。仕事で遅れていたヒコロヒーがやってきて誕生日会がスタートする。食事をしながらあーだこーだと最近の話から恋の話からくだらない話まで多岐にわたり盛り上がる。
不意に電気を消してヒコロヒーが用意してくれたケーキが登場。火が灯ったろうそくオンザケーキに一同「フゥー!」などと高揚を表現したところで、自然偶発的に全員がハッピバースデートゥーユーを大合唱。それぞれ順番に目の前に差し出された時に火を吹き消した。私は吹き消すときの照れ臭さで幼少時代の家族との誕生日パーティーを思い出し少しセンチになった。ケーキを切り分け食べていると、各々がプレゼントを用意しだす。私だけ当日に知ったので準備出来ておらず少し情けなさと申し訳無さが立つが、気兼ねないメンバーはフフと笑って気にせず誕生日交換をしだした。
Aマッソ村上女史は私に扇子、相棒にはバスソルトを。相棒は私にノートの切れ端にマットレスの引換券と書かれたもの、村上女史に何を渡していたかは忘れてしまったがなにかラグジュアリーな物をあげて盛り上がっていた。ヒコロヒーはAマッソ村上女史と相棒に香水を渡した。各々が「イエーイ」や「嬉しいー」「サイコー」などと大はしゃぎし、もらったプレゼントを振りながら喜びをダンス(簡単な手をシェイクする程度の)で表現した。
最後にヒコロヒーは私へのプレゼントに大きな紙袋を渡してきた。中身を覗くと大量のドデカペヤングと一平ちゃん焼きそばだった。「欲しいもの聞けなかったのでこれにしました」というヒコロヒーはえへへという顔をしていて、何やねんこれ!と形式上言ったが、私は喜んでいた。これは芸人特有のなんとも言えないものだが、彼女なりのまあこんなもんでいいやろというボケをすることができる、その心の距離がなんだかホッとする。その後我々は何故か流れに乗りノリに任せ最終的にラップバトルを始めるのだが、音に飲まれ言葉に溺れただただラッパーへのリスペクトを深めただけだった。

深夜になって終電もとうに終わった3時頃、Aマッソ村上女史がタクシーで帰ることになり、私もそのタイミングで帰ることにした。ヒコロヒーが私にタクシー代を出してきて「これで帰ってください」私は先輩としてのしょうもない維持と沽券を守るために突っ張り、「今日たまたまライブでギャラ出たからそれで帰るわ」と五千円札をひらひらし、優しさを押し返した。ヒコロヒーは納得いかない顔をしていた。
家の前に着いたタクシーに村上女史が乗り、私も大通りまで同乗させてもらった。降り際村上女史に「誕生日の当日は何してはるんですか?」と聞かれ、何もないよ、と返すと「ほなもし暇やったら茶濁しに行きますわ」と完全に舐められ発言。しかし憎めない。これが可愛げというやつか。じゃあねとお別れして私は紙袋にパンパンに入ったペヤングと一平ちゃん焼きそばを両手にもってタクシー代をケチり1時間以上かけて歩いて帰ったのだった。帰り道、現状の成功していない自分への不満足と身近に優しい人間がいる満足を交互に踏みしめた。歩いて帰ったことはヒコロヒーは知らないが気づいているだろうね。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

その時ヒコロヒーから相棒と村上女史に渡されたプレゼントがその化粧品のお店の香水だったのだ。お店には数組のカップルと女性のお客と女性のみの店員と、とにかく女性が多かった。いそいそとフレグランスコーナーに向かい定番3種類と新しい匂い、ネット販売のみの匂い全6種の匂いを嗅いだ。化粧品店というのは居心地が悪く急ぎ足で一つの匂いに決めた。相棒が「何かいい匂い見つけましたか?」と聞いてきたので気に入った匂いを見せると、「あ!この匂い私がもらったものと同じですよ!」これは最悪である。何故コンビ揃って同じ匂いを醸し出さないといけないのか。「私は別にいいですけどね」その垣根のなさからくる私との近さが彼氏ができない原因なのではないのか。なぜわからない。

その店を後にし、新宿東南口方面にトコトコ歩く。階段広場を抜け甲州街道陸橋下をくぐった先にある商業施設に入る。一階にある先程とはまた違った化粧品のお店の前を通ると「ここもいいですよ!」指差す先にあるそのお店は、一組に一人アテンドサービスされるホスピタリティ高めのお店で自由には入れず、だからなのか元々人気なのか、何人ものカップルや女性が並んでいた。私は大阪人丸出しの性分で行列が苦手なのでええわええわと否定的にやり過ごし、まだ空いている向かいの他の香り系販売店に足を向けた。
石鹸やボディクリームが博物館のようにガラスの中に展示されている。柱を挟んでその隣に10種類以上の香水がフラスコに入れられており、昔行った大阪の科学技術館を思い出した。香水のテイスティングするのにフラスコの下部のシュポシュポを押す。フラスコ内に空気が押し入れられ匂いを含んだ空気が押し出されそれを嗅ぐ。端から順番に嗅いでいったが4つ目で私は匂い酔いをしてしまい自然とフェードアウトしてしまった。相棒は香水嗅ぎマラソンを無事完走し、「この匂いがいいですね」と教えてくれた。私は言われたフラスコをシュポシュポして嗅いだが好みではなかった。

店を後にして2階に行く。先程の誕生日にもらった香水のお店の別店舗が現れた。化粧品に重点を置いているようで別の匂いがあるのでは?ともう一度入店することに。フレグランスコーナーに向かい一つずつ商品をチェックするが先程とほぼ同じラインナップだった。しかし一つだけさっき嗅いだのとは違う良い匂いがあったので、この匂い良くない?と聞くと「それさっきもありましたよ」自分は一つの匂いに取り憑かれて失念していたようだ。こんなことでは麻薬捜査犬に生まれ変わったとき苦労するぞ!と思いながら、じゃあこれにするわ!と言うと「え?下の並んでた店行かないんですか?」んー、これでいいのになあ。と思いながらまた店を出る。

一階に戻り目的の店に向かうと先程と変わらない長蛇の列。行列の苦痛を覚悟し最後尾につくと、行列の整理受付をしている女性店員がこちらに。「今日はどういったものをお探しですか?」完全に相棒に向けて喋りかけている。「香水的な匂いのものを探してて」とすぐ応える。ありがとうさすが長女。「それでは好みの匂いとかありますか?」これには答える訳にはいかず私を見る。店員も自然とこちらを見る。店員は何故この人が答えるの?と少し濁った目で私を見ていた。私は柑橘系とかスッキリな爽やかさとかなどと、ゴニョゴニョ知ったような口で匂いの雰囲気を伝えた。店員さんは相槌を打ちながらメモを取り「かしこまりました。こちらをお持ちになってお待ち下さい」オシャレな番号札を相棒に渡した。結局。
コンビでよく動くので、服屋とかこういう化粧品のお店などで、まるでカップルのような扱いを受けるとむず痒くなる。もし街に相棒のことをいいと思う殿方がいたとして、隣に私がいたら「コブ付きかよ」とひとつのロマンスを潰していることになる。逆もまた然り。
相棒と適当な話をしていたら自分たちの順番が来た。店の中央にある洗面台に案内され、先ず手を洗わされた。洗面台と言っても安い中華屋のトイレにあるような白の丸みのある洗面台ではなく、全面銀のステンレスで、蛇口しかなくセンサーで水を出し止めしていた。つまりしゃれおつだった。「このハンドソープは私どもの商品でして………」コロナ対策とステルスマーケティングのダブルスタンバイ。その後胸くらいの高さのウッディな棚の前に案内され、メモを見ながら話しかけてくる。「香水をお探しで、匂いは柑橘系などがいいとのことなのですが?」またもや相棒をしっかりとロックオンする店員に「こちらの男性が探してるんです」「あー!すみませんー!そうなんですね!!申し訳ないですー!」仕方ないですよね!とフォローなどをしたあと、男性って何やねん先輩やぞ!と相棒に一ツッコミする。漫才の冒頭のように会話の中で二人が恋仲関係にないことを暗にアピールするセリフを入れているのだ。
匂いの要望を伝えると香水を8本ほど用意してくれた。一つずつ丁寧に名前と匂いの説明をしてくれて試嗅さしてもらった。一つすごくいいなと思った香りがあったのだが、値段が私の希望価格の5倍の値段(むしろそれが正規)したので、泣く泣く諦めた。そして嘘付け!というくらい社交辞令の良かったんでまた色々見て来ます!と宣って店を後にした。思えば値段の話を切り出してくれたのも相棒だった。頼れるねえ。

結局ヒコロヒーにもらったのと同じお店のものにすることを伝える。「ついに決まったんですね」仰々しい。
最初に見た方のお店まで戻り一人で入る。迎え撃つかのように可愛らしい女性の店員に「いらっしゃいませ!」と言われて会釈を返すと「また来ていただいたんですね!」と。私は思わず照れてしまった。先程一瞬入っただけのなんの取り柄もない私なんかが人に認識してもらえるなんて。そんなことしていただいていいの?嬉しい!………、ちょっと待て、もしかして逆?キモいからか?細くてエグみあるやつれた殺人犯ぽさから、逆に注意しなあかんってので覚えていたのか?でもこの人に接客してもらおう!などと思考がぐるぐる回転している内に、その人は遠く反対側の男女の客に捕まっていた。丁寧に説明している。笑顔で。和やかそう。羨ましい。そして長引きそう。店内のフレグランスコーナーを無駄に2周し、店員の方を見るが一向に終わる気配がない。仕方ないので近くの別の店員さんにお願いした。これくださいと紅茶の葉っぱのような匂いの商品を指差すと「はい、新しいもの用意しますね」商品が置いてある棚の下の扉を開け、新しいものを取り出し「それではレジへどうぞ」流れるように決まりきった無駄のないそして失礼もない接客を受け会計を済ませ商品を渡され「ありがとうございました」と言われる。笑顔で何の落ち度もない接客だったが何となく感情がセーブされており、彼女に映る私は無数にいる一お客の一人だった。
店の外に出て相棒に見せつける。「おぉーついに買いよった!」などと持て囃され拍手される。これでMー1に挑めるぞ!と新宿駅の地下で意気込んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

こうして私はお気に入りの匂いを手に入れた。今後ライブ会場出番前、ハンカチをくんかくんかしている変態がいると思うが、それはリラックスするためにお気に入りの匂いを嗅いでいる私であり、真剣に勝つためという意図があってしているので優しい目で見守ってほしい。
 
 
 
 
 
 
 
 

サポートしてほしくない訳じゃない。サポートしてもらって素直にありがとうございますと言えないダメな人間なのです。