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寺社レポ:京都の奇妙なお寺「釘抜地蔵」血のついた釘と絵馬の壁が作り出す異空間

 京都市は地方都市であるにもかかわらず、実に奇妙なものが多い。土地勘のある市民であっても、訪ねたことのない寺社仏閣が無数に存在する。今回は、疑似体験できるお寺へ行くことにした。


 疑似体験できるお寺とは、仏像が置かれた建物にお参りするだけでなく、こちらが能動的に関わることで、さながら「アトラクション」とも言える体験をさせてくれる場所のこと。

お寺が写っています。見つけられますか?

知らない人はたどり着けない

 釘抜地蔵(石像寺)は京都の玄関口である京都駅から北へ車で約30分、かつては商店街なのだろうが、いまは介護施設が目立つ。交通量の少ない寂しい千本通に面して建っている。
 一見しただけでは、通り過ぎそうな狭い間口。京都市内でよくみかける「うなぎの寝床」スタイルで、奥へ奥へと建物は広がってゆく。

お堂の壁面

 無数に並べられた釘抜と八寸釘の絵馬。神聖にも呪いにもみえる、不気味な壁がお堂をとりまいている。

「千本通」という名前の由来

 平安時代、ここは葬送の地であったらしい。庶民は風葬を行っていたため、酷い有様であったという。それを見た空海は、卒塔婆をたて、水で清めた。
 「千本通」という名前はその卒塔婆の姿からきたという。
 清めの水を確保するため、井戸を掘った。その井戸は今も湧き続けている。

空海が掘ったと伝わる井戸(京都三井の一つ)

 秋らしくなってきたからだろうか、冷たさにおいては、コンビニの冷えた水に引けをとらないだろう。
 さきほどから、車や人の音がしない。
 手を洗わせていただくと、背筋が伸びてスッキリした。なんだか、区切りのついた穏やかな心緒となる。

釘抜地蔵の誕生

 寺の創建は819年と伝わるので、約1200年前に遡る。空海が唐から持ち帰った石で菩薩を彫ったとされる。はじめは「苦抜(くぬき)地蔵」と呼ばれていた。
 それが500年ほど前、「釘抜(くぎぬき)地蔵」に転じた。
 両手に痛みのあった大商人(紀の国屋道林)が霊験あらたかという噂を聞きつけ、願掛けに訪れた。
 満願の夜、「前世で人を恨み、仮の人形を作って両手に釘を打ち、呪った報いだ」と二本の釘を見せられ、
 「釘を抜いてやろう」

釘抜のオブジェ(堂本印象)

 目覚めると、痛みが消えている。寺にお礼にいくと、血のついた二本の八寸釘が置かれていた。これ以降、釘抜地蔵になった。

現在進行系の信仰

 創建から1200年、釘抜になって500年、釘抜と二本の釘の絵馬が取り囲む、奇怪なお堂へと変貌した。
 作法にのっとり、淡々とお参りをされるガチ勢。半時間ほどの間に途切れることなく誰かが手を合わせている。
 だれもが触る部分があるらしく、変色、変形している。新旧が入り乱れ、今も時間をかけて作られてゆくアートを観ているようで、なんとも美しい。

 「御礼」と書かれた絵馬をみれば、風雨にさらされ錆びている。当初とは違う色ではあるけれど、お堂のまわりは「平成」や「令和」のものばかり(中には古く珍しいものがある)。信仰が、生きているのだ。
 かつて予備校などには「東京大学合格」などと実名が貼り出された。あれに近いのだろうか。苦しみを解き、願いを叶えた人たちの絵馬だ。
 わかるようでわからず、複雑なようでひどくシンプルにみえる。そんな掴みどころないアンバランスがこのお寺の異様さを、一層際立たせていた。

■information
釘抜地蔵(石像寺)
住所:〒602-8305 京都市上京区花車町503
アクセス:市バス「千本上立売」から徒歩3分
駐車場:なし
社務所・授与所の受付時間:08:00~16:30
拝観料:無料


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