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34.「魔法」はイメージの世界だ

 私は、彼が投資家に説明している様子を記録したビデオテープをディズニーからもらって何度も観ている。
「人よりワニの方が多い」といわれていた湿地帯に、「こんなテーマパークをつくるのだ」と模造紙を木のポインターで指しながら説明するウォルト・ディズニーを、投資家が「お前、気はたしかか」といった表情で冷ややかに見ている。それでも話し続ける彼の姿に、私は胸を打たれた。
 しかし、結局、お金が集まらず、彼は失意のうちにこの世を去ってしまう。
 その後、事業を引き継いだウォルトの兄、ロイ・O・ディズニー(1893~1971)が、テキサスの石油王バス兄弟の出資を受け、ついに1971年にディズニーワールドは開業する。

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 僕はこの話がけっこう好きです。ウォルト・ディズニー自身は成しえなかったとしても、彼にはきっと明確なイメージがあったのだと思います。そうでなければ、別の人間がその意志を引き継ぎ、成就させるなんて出来ないはずです。大きな言葉ばかり用いてイメージが曖昧であったなら、ディズニーワールドの開業には至らなかったでしょう。

 最近アニメがヒットした『葬送のフリーレン』で「魔法はイメージの世界だ」というセリフがあります。とてもいい言葉だなと感じます。作中では多くの魔法使いが戦うのだけれど、そこで用いられる魔法はいかにしっかりとイメージ出来るかが大事です。例えば水を操る魔法を使えて、人間の体の多くが水で出来ているとしても、そこに具体的なイメージが無ければ人間の水を操作することは出来ないという具合です。逆に言えば、イメージさえ出来ていれば困難なことも行えるということです。

「ディズニー」や「フリーレン」に比べるとかなり卑近な話になっちゃうけれど、仕事も同じことだと感じます。事前にイメージ出来ていれば大抵のことは出来るし、逆にイメージがおぼつかないと失敗のリスクは跳ね上がります。このイメージには濃淡があります。大規模かつ複雑な仕事となれば、全ての作業に対して完璧なイメージを持つことは不可能でしょう。けれど「技術的に可能である」とか「〇〇さんに任せれば大丈夫」といったイメージを持つことが出来ればリスクは軽減されます。

 こうしたイメージを持つことは一朝一夕にはかないません。人生における様々な経験、情報の蓄積。人間関係の構築。勉強。計画。色んなものの積み重ねがイメージを確固たるものにします。そしてそれらの結晶として現れるのが「魔法」なのです。


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