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贅沢なビールと風呂

最近見つけた海沿いの宿の展望風呂について話したい。フロントでルームキーをもらい小さなエレベーターで8階へ上る。扉が開くと吹きさらしの通路で、集合住宅のような廊下に部屋が並んでいる。海沿いの街と低い山の連なりが見えて眺めがいい。
部屋の玄関を入るとトイレと風呂が左右に振り分けで、内扉の先にダイニングキッチン、その奥に8畳の和室、突き当たりはベランダで海と対岸の半島がみえる。数日の生活なら別荘のように必要なものは揃っていて、コンドミニアムというのだろうが、ぼくには懐かしい中百舌鳥団地と云った風情だ。
サーフィンをするビーチは東向きで朝一に到着すると水平線に日の出の光景だが、サーフィンを終え半島を横断してこの宿のビーチに着くと西向きに変わり、水平線に火の玉が沈むようなすごいサンセットが観れる。おまけに富士山まで意外な大きさで水平線に鎮座しているのだ。夕映の海峡に外国航路のタンカーが行き交い、小さな漁港と岬が見える。刻々と太陽が降下して世界の色が変わって行く。ぼくのタイムテーブルは、3時頃に東側を引き上げ西に向かって走り出し、途中スーパーマーケットに寄って買い出しをする。チェックインするのは4時過ぎ、部屋に落ち着いてウエットスーツや荷物を片付け、冷えた缶ビールを開ける。ベランダの向こうの陽は傾き海に光の帯が出来ている。黄昏の迫った海と富士山を眺めながら最高に美味いビールを飲む。この贅沢な時を過ごして、お次は最上階の展望風呂へ移動。先ず全身を洗いさっぱりしたところで、冬の海で冷えた体を湯船に沈める。海側の一面はガラス張りで夕景のパノラマ、大きな太陽はオレンジの小さな玉になってスルスルと沈んで行く。頭に雪を頂いた富士山も岬もビーチも次第にシルエットに変わり、黒とオレンジのコントラストはピークを迎える。すべてが闇に呑み込まれるまでゆっくり風呂で過ごすのだ。何度も泊まってみたがこの時間は誰もいないのである。日没後にぽつぽつ人が入ってきたら、すれ違いに部屋へ戻って電子レンジでおつまみを温め缶ビールをあける。このビールも実に美味い。

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