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2019年春、「nagi」を開業します。

2019年が明けた。
今年は、自分にとって忘れられない年になるんだと思う。

思えば、大学3年生の時に「カフェを開きたい」と決めてから13年あまり。新卒で入ったオプトの採用面接時にも「自分は30代でカフェを開きます」と話してたし、最近になって自分が面接した後輩たちに「羽田さんはわたしの面接の時にも"カフェやりたい"って言ってたんですよ。オプトにも変わった人がいるんだなぁと思いました笑」という話をよくされる。

なぜカフェなのか?

そんな質問もよくされるが、実のところ「カフェという業態そのもの」にこれといったこだわりはない。飲食店をやりたかったわけでも、カフェが特別好きだったわけでもない。作りたかったのは「場そのもの」なのだ。

もっというと、「自分が表現する箱」を作りたかったのだ。好きなものに囲まれた生きていきたい、自分が好きなものが好きな人と日々を過ごしたい、それがカフェをやりたい一番の理由だった。なぜか自分のセンスみたいなものを信じていたし、社会人になって会社という誰かに作られた組織の中で働くうちにその思いはどんどん強固になっていった。

広島県尾道市向島町立花。

観光スポットとしても国内外から多くの人が訪れる尾道市街から渡船で数分、広島県側からのしまなみ街道ひとつ目の島が向島だ。渡船で渡っただけでは一見島とは思えない風景が広がっているが、西から南へとぐるりと島を回ると向島が島であることが実感できる。そして島の南方に位置するのが「立花」と呼ばれる地区で、私の住む「中花」はその地区でも真南に位置する。

ここからの景色は、向島イチと思っているし瀬戸内海イチとも思っている。海沿いはビーチになっているのだが、地元の方に聞いたところによるとここのビーチは瀬戸内海で唯一の天然のビーチだそうだ。

たまたま瀬戸内海旅行で立ち寄った向島。そしてなんとなくサイクリングでたどり着いた立花、中花。その美しい景色と出会った住民の方々の優しさに心奪われた。一瞬で「ここに住もう」「ここで店をやろう」と当時の彼女であり今の妻と思い、約1年かけて空き家を探し、今に至る。

カフェをやりたいと思った時は、場所はどこでも良かった。むしろ前述したような自己満足的な考えであったから「できるだけ人が来やすい場所」であるに越したことはなかったと思う。東京育ちで社会人になってからもずっと東京で働いていたから、都内で店を開けば仲間が訪れてくれるに違いない。自己満足を満たす上でも、結果を早く出すためことを考えても、都内もしくは都内近郊(鎌倉とか)で店をやるのが無難だったのだろう。とりわけ東京が嫌だったわけではないのだから。

けれどもそんな選択肢は、この地を訪ねた瞬間に頭から1mmもなくなっていた。

ご近所の方からは「こんなところでお店やるなんて変わってるねぇ」「本気か?」と心配されている。

昨年の10月末に移住して約2ヶ月。確かに近隣に住民の人以外が歩いている姿はほとんど見たことがない。動物の気配の方が多く感じる日だってある。日が暮れればあたりは真っ暗になるし、人の気配は一層消える。そのかわり、その日見た人の数の何倍もの星が、広い広い空にびっしりと散りばめられる。

店の名前は「nagi」と決めた。

移住前から夫婦で決めていた名前があったのだけれど、この地に住み、実際に暮らしてみたことで改めて感じた「この地の魅力」というものをそのまま表現できるこの名前にすることにした。

nagiは「凪」「和ぎ」が由来で、風がやみ、波が穏やかな様を意味する。この言葉自体は都内のラーメン屋の名前、ということしか知らなかったのだけれど、twitter友達のカナエナカさんのnoteを読んで意味を知った。

この地に惚れ込んで住む人は、この言葉を聞くと「夕凪」を思い浮かぶらしい。店の営業も日没と共に終えるつもりだったからちょうどいい。それに、立地的にも車通りのある海岸沿いから一歩入った高台にあるから、一層「和ぎ」を感じやすいそうだ。外からの移住者として、この地を知る人がしっくりくる名前にしたかったからとても気に入っている(この言葉に巡り合わせてくれたカナエナカさんに感謝しています)。この記事の写真も、そんな和ぎを感じるお気に入りのものを散りばめている。

使いどころはあまりないのだけれど、店のマークも作った。ここには2つの意味を持たせている。

ひとつは、「和ぎ」そのもの。穏やかな波の様を表現している。

もうひとつは、海があって、山があって、生き物がいる、という循環を表現している。

nagiの目の前には瀬戸内海が広がり、背後には国立公園にもなっている高見山が佇む。都会の喧騒の中にいると忘れがちな、けれどもすごく大事で普遍的なこの循環をダイレクトに感じる日々から着想を得たマークだ。

これは自身のキャリアにも通じる部分でもある。3年前から.HYAKKEIというアウトドアウェブメディアの編集長として日本全国の山や自然を取材して回っている中で「地球は人間のものではない」「人は間違いなく自然に生かされている」ということを強く感じるようになった。そんなバックボーンもマークに反映している。

この家が、春にはnagiとして生まれ変わる。オープンは5月〜6月目標。実は工務店探しが難航していて既にスケジュール遅延が否めないのだけれど、あまり無理せず焦らず、なりで行ければと思う。

当初は自己満足な考えしかなかったけれど、この地に出会って、この地で暮らしはじめて、考えが変わった。住民にとっては「この地の素晴らしさを再認識する場」として、この地を訪ねた人にとっては少しでも「自分にとって大切な何かを気づける場」になれることを夢見ている。自分自身がこの地を訪ねてそうであったように。そのために、自身の力を磨いていきたいと思う。

最後になりましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

10年先、20年先、未来の住民のために木を植えます。