だから野球が好きなんだ

イチローが、あの努力もちゃんとできる稀代の天才イチローが引退した。

久々のマリナーズのウェアをきて、ココ数年全くもってピーク時の調子ではなかったけれど、でもきちんと現役だったイチローが<東京で>辞めた。
最後の試合の、<どこにでも好きな場所に落とせるとしか思えなかった>あのイチローの、あのどうしようもない凡ヒットから一塁までの全力疾走が結果の全てだ。
でもあれこそが野球であったよ。
とにかく打って、懸命に走る。
野球ってひたすらそれの繰り返しだ。それで勝ったり負けたりする。
久々に打ったヒットはどうしようもない凡打だが、イチローのいつだって懸命で楽しそうな野球はあれに尽きた、と思った。
(とはいえ、昨日の記者会見をみるかぎり、楽しいばかりじゃない時期も長いのだけど)

野球は不思議なスポーツだ。
なんだかしらないが多くの日本人が何人でやるスポーツか知っている。ルールを知っている。試合運びも難しくないし、究極をいえば、ピッチャーとバッターの毎回一騎打ちだ。試合展開はサッカーに比べれば断然ゆっくりしていて、見逃すこともあまりない。クロスプレイも少ない。6回までみてなくても途中ビールでもいい。
野球は個人競技でありチームプレイなのもなんだかいい。
最終的にどんな努力も最終回の一本のヒットで終わる時もあるあのせつなさがいい。
サッカーにはエースストライカーが一人(できれば二人)居れば、連続して点をとる可能性もあるが、いいバッターであろうとも打席が回ってこない限り点がとれないってシステムだから一人だけで得点できるわけでもないのもいい。
ピッチャーがわざと打たせて取ったり、盗塁したり、盗塁されそうって浮き足立ってボールになっちゃったりするのもいい。
シーズンがはじまると必ずどこかの局で野球がやっていて、ドラマを潰されたり興味がなかったりする人には不愉快極まるスポーツだろうが、だけども興味のない人まで皆が「ああ野球シーズンがはじまったな」と知っている。
地方出身者なら、地元にチームがあったりキャンプ地があったりする。
特定のファンはなぜかめっちゃ熱くなるが、フーリガンはそんなにいない(広島と阪神はあれはちょっと別格だw)。
視聴者がある一定の年代になると、高校野球から育ったプロ野球選手が引退してコーチになるのを見られたりするので、ちょっとした親戚のおばさん気分にもなる。
わりと皆国内リーグで活躍するので、その動向は大体網羅できる。
大リーグに行った選手は留学したいとこの子供みたいな気分だ。
そんなアットホームなスポーツそうはない。

イチローはそんな選手だった。
(私にとってはイチローはちょっと年下なだけなので、いとこの子供ではないけれどw)
野茂はグラウンドでもオフでも表情を崩さない、哲学のある素浪人の傭兵めいていたが、イチローはチームメイトといるとき、いつも楽しそうだった。
でも練習と体調管理、勿論試合にはとことんストイックで、この歳まで現役を続け、記録をぬりかえて、それでも飄々と「あ、はい」といったマスコミ対応は崩さず、昨日の引退会見ですら「じゃあそろそろ遅いから」とあっさりと切り上げた。
イチローらしいとしか言いようがないが、あの一生懸命やらないチームメイトに怒ってたこともあるイチローなので、本当の思いはどこかにあるに違いない。
が、それを表現するかといわれたらそりゃ別なのだろう。

で、代わりに言った言葉が「人より頑張ることはできないが、今の自分より少し頑張ることはできる。遠回りすることでしか本当の自分に出会えない気がする」であり「野球に限らず熱中できることを見つけて突き詰めたほうがいい」だった。
「今日の球場の雰囲気を味わったら引退に後悔があるなんてとても言えない」であり、「結果を残して最後をむかえたかった。でもファンが球場に残ってくれて、死んでもいいっていうのはこんな気持ちなんだろうなと思った」だった。
個人としての結果を残しつづけたが(チームとしての)勝利にはなかなか恵まれず、それでもクサらず、白球をフィールドでずっと追い続けていたイチローが、本人の弁のごとく、野球のすきなただのあんちゃんとして、草野球のフィールドに戻って来て欲しい。
(草野球レベルで彼に戻ってこられたら、そりゃ対戦相手が圧倒的に困るとは思うが)

野球は楽しい。
もし走れなくても打てれば点が取れる。打てなくても守備が上手ければチームに貢献できる。速球が無理でもコントロールがうまければピッチャーになれる。どうやってでも塁に出て、足がはやければ盗塁できる。
でもそれだけじゃチームは勝てない。
個人競技であり、チームプレイ。とにかく打って、懸命に走る。
そんな野球が私は好きなんだ。
偉大な選手が一人やめて、菊池や大谷が活躍する。
日本の野球シーズンももうすぐ始まる。私は今やたいした巨人ファンではないけれど、どこのチームの野球も好きだ。
6回までみなくても、途中ビールでも、結果だけおいかけていても、それでも野球はいつだって真剣でいつだって一騎打ちでチームプレイ。
そんな比類なき野球シーズンが来週からまた始まります。

延長されて次の録画がー!ってなる気持ちも十分わかるが、長島がいうように、ひと試合ひと試合が全部ちがった<メイクドラマ>なのだよ野球は。
よければたまにはみてやってください。

イチローは本当に後にも先にもあんな人居ないレベルの偉大な選手だった。
まるで置くように(どこにでも飛ばせる)完全に相手の守備の穴をついた<ふりきらない>ヒット、それでいて自分は穴など作る気がない広大な守備範囲、的確な脳といい目で走者を塁で刺すレーザービームのような返球、どうやっても塁にでてあたりまえのようにやる盗塁。
すべてが比類なきプレイヤーだった。一人いるだけで試合が、チームが、リーグが華やいだよ。

でも私は昨日の、全然とばない凡ヒットと必死に走った一塁までも、立派に野球だし、あれが全てだと思うんだ。
とにかく打って、懸命に走る。それのくりかえし。
それで勝ったり負けたりする。

だから野球が好きなんだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?