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SFは絵だねぇ

上田早夕里『華龍の宮』、伊藤計劃『虐殺器官』、冲方丁のマルドゥックシリーズ。わたしは日本語のSFが好きだ。

現実にない風景を想像するには、言葉を尽くしてイメージを描く必要がある。そのディテール描写がうまい作家の作品は、何度読んでも没入して浸る幸福を、味わえる。

飛浩隆『グラン・ヴァカンス』もお気に入りの作品で、きょう2周目を読了した。タイトルに挙げたフレーズは下記記事からの引用だ。

これ普通のSFだと思って読んだらわりとホラーだったので、残酷描写ニガテな方は要注意だけど(その筋を知っていて2周目を読むのはいい加減倒錯したMだと思いつつ)、飛さんの文体は本当にいい具合にビビッドだと思う。

以下は中盤のランゴーニの描写。

堂々たる体躯は異常にうつくしかった。寝台に大きな羽根枕をいくつも積み上げて凭れかかったその姿は、白鳥が首をのばす姿に似て、優雅でさえあった。古代の像のように身体のすみずみに均整と統制がゆきわたっている。のびやかな腕や脚は理想的な筋肉をまとい力がみなぎりわたっているが、とても静かだ。(中略)独裁者が夢見たような彫りふかい英雄的な風貌は、しかし頽嬰に曇って、その貌をふちどる豪華な金髪のかがやきを抑えている。

メタファーの選択と配置、リズム、漢字とかなのバランス。ディテール。真似したい…と思って真似できるものでもないけれど、note毎日更新のねらいのひとつは「ディテール描写力」の向上だ。読み手にどう、自分が見た風景とその心象を、ことばで伝えることができるのか。

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好きな文体ということでいうと、昔からよしもとばなな文体が好きだった(ISIS編集学校のお題で、三島由紀夫/野坂昭如/よしもとばななから一人選んで文体を真似るというのがあり、それ以来)。今でも、とくに初期作品(キッチンとかTSUGUMI)はすごく共感して読んじゃうのだけれど、基礎文体として真似できるような感じではなかったので、ちがう指針を探しているところ。で「SF的描写」はひとつのヒントになるのではと思っている。

沢木耕太郎のルポも、北方謙三の歴史ハードボイルドも好き。読み返したい作品は無数にある。研究は続く。

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