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月の国にいる君へ

ある日突然、胸にぽっかりと空いた穴から血が流れ続けている。時間が経てば塞がっていくと思っていた穴は、今も変わらず空いたまま、血は流れ続けたままだ。1年が経って気付いたことは、穴が塞がることはこの先もないだろうということ。
 
君を知ったのは君の親友からであったが、グループでのパフォーマンスを見て私が一番に惹かれたのは君だった。君のダンスは長い手足と筋肉を全く無駄もなく活かしてダイナミックで、それでいてしなやかで繊細さも持っていた。表情は隙もなくどの瞬間も観客に意識を向けていて、美しく輝いていた。以前君は自分の声があまり好きではないと言っていたが、君の特徴のある少しハスキーで甘い声を私は愛している。ASTROの曲は君の歌で始まることが多かったから、新曲を聴くのがいつも楽しみだった。

君の好きなところの話をしよう。
 
君のステージに対して、真面目で誠実でこだわりが強いところが好きだ。「完璧主義」と自分でも言っていたが、それに相応しく私たちの前に立つ君はいつもとても素敵なアイドルだった。君の魅せてくれる新しい姿は毎回私を楽しませてくれていて、映像を何度も何度も繰り返し見返したものだった。

君のたくさん食べる姿が好きだ。大口を開けてもぐもぐと美味しそうに食べる姿をいつも好ましく見ていた。いつかの配信で大きな弁当を食べ終わったと思ったらその下から同じ弁当が出てきて、それを食べ始めたときは笑ってしまった。ここ数年は流石にそこまで食べられないと嘆いていたが、私からすれば変わらず気持ちが良いくらいの食べっぷりだった。

君の素直で優しいところが好きだ。仕事には厳しい人だったが、普段は素直すぎて少し抜けているような、特に親しい人にはちょっと自由で猫っぽい気ままな部分もあったと思う。君の紡ぐ言葉は優しさと気遣いに溢れていて、私は多くの元気と勇気を貰っていた。
 
ファンを愛していた君が好きだ。君の「ロハ~」と呼ぶ声は弾んでいて優しい響きで、とても愛らしかった。君に「ロハ」と呼ばれることが好きだった。「ロハ、運動しよう!」「ロハ、ご飯は食べましたか?」「ロハ、幸せでいてね」…君の言葉を思い出す。いつもファン一人ひとりをしっかりと見つめる目が好きだった。本当に愛おしいものを見るようなあの眼差しを、忘れることはないだろう。
 
メンバーを深く愛している君が好きだ。年上なのにミョンさんのことはぬいぐるみみたいに抱えて遊んだり少し意地悪をしていたなとか。ジヌさんのことは頼りにしつつ、小さいからかやっぱりちょっとからかう部分もあったなとか。ウヌとは同級生で気安い間柄だったけど、彼には色々甘い部分もあったなとか。ラキは一番事務所にいる時間が長かったから、二人にしかない空気感があったなとか。サナはビニが一番厳しく接していたからか最初は怖がられていたよね、でもユニット活動を通じて良いコンビになっていったよねとか。たくさん、本当にたくさん思い出す。活動休止した際にインスタで君は「僕のすべて」という言葉と共に、グループの写真を投稿していた。それが文字通り「君のすべて」だったのだろう。
 
君の笑顔が一番に好きだ。君を想う時に頭に浮かぶのは、あの笑顔ばかりだ。
 
通知の来ないSNS。更新されないプロフィール。ふとした瞬間に、もう君はこの世におらず、私は過去の君にしか会うことはできないのだと思い出してやるせなくなる。君が最期何を思ったのか知る術はない。あの日去った君の痛みを勝手に考えては、幾度となく泣いてしまう。でも、ようやく君は何も縛られず追われることもなくゆっくりと眠ることができるのか、とも思ってしまった。君が十分すぎるほど努力していたことは伝わっていたから。
 
もっと君がステージに立つ姿を見たかった。ドームに立つ姿を見たかった。君の違う髪色を見たかった。兵役へ行く君を見送って、戻ってきた時にはまた筋肉増えたねって笑って言いたかった。君と一緒に歳を重ねて祝いたかった。願いは多くあるが、これも君にとっては重荷だったのだろうか。私は幾度となく君に救われていたのに、結局は何もできなかった。寂しがり屋の君を一人で逝かしてしまったこと、ただのファンが何もできなかったことは理解していても、罪悪感と後悔は尽きない。
 
君の代わりはいない。君の穴を埋めるものは存在しない。前を向くことは難しい。私はこれからも君を失った痛みを抱えて生きるしかない。
 
君を責めるつもりは全くない。お疲れ様だと素敵な姿を見せてくれてありがとう、と伝えたい。ただ、君に会えず寂しいと言うことだけは、許してはもらえないだろうか。君がこの世界にいた日々は、何にも代えがたい幸福そのものだったのだから。
 
そして月の国で会えたら、またあの笑顔を見せて欲しい。それまで私は、君のより良い姿を思い出しながら生きていようと思う。ずっと愛しているよ。

また君の歌声が聴くことができるとは思っていなかった。君の遺してくれたものを、これからも大切にしていくね。

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