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【EVENT】国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙を開拓する継続的フロンティア精神

2024年2月19日から21日にかけて、東京島江東区の東京ビッグサイトにて日刊工業新聞社主催の「2024国際宇宙産業展ISIEX」が開催された。
本記事では出展者の一つである国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の展示内容や現在の宇宙産業のあり方を探っていく。


月面探査への乾坤一擲から湧き出す機運

 2024年1月20日、日本の宇宙事業界隈を大きく揺るがす大躍進が成功した。
日本の国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の打ち上げたH-ⅡAロケットに搭載されたSLIM(Smart Lander for Investigating Moon:小型月着陸実証機)が月面へと到達。
搭載されたLEV-1とLEV-2が到達後、月面で倒立している状態のSLIMの写真をLEV-2が撮影し、LEV-1を経由して地球へと転送。
日本初の月面軟着陸と史上初のピンポイント着陸に成功した事が実証された。
月面への到達は世界で5番目に入るという高い技術力を見せつけ、その上幸運にも1月31日に休眠したSLIMが2月25日に通信を再開したというのである。


SLIMの2分の1模型

 2月17日には日本のロケットであるH3ロケットの試験機2号機が無事に種子島宇宙センターから打ち上げられ、2機の衛星をリリース。
2月23日には米国民間企業インテュイティブ・マシーンズの手掛ける無人月着陸船「NOVA-C」が初の月着陸に成功している。
月面に対する大きなミッションが次々と成果を挙げるこの状況下で、今一度月の状況や宇宙探査機に求められる物を振り返ってみる事にしよう。

※こちらは株式会社タカラトミーのSORA-Qについての記事※
【EVENT】株式会社タカラトミー 月面に踏み出す子供の夢の軌跡
https://note.com/irvisions/n/n0f2acc7a2675

過酷な宇宙環境を生き抜くために

 月面には地球と違い大気がほとんど存在しない。その為地球では日照後にじわじわと気温が上がっていくが、月面では一瞬で高温に達する。
月面の赤道付近では昼は摂氏110度、夜は摂氏マイナス170度と極端極まりない寒暖差となっている。
元々SLIMにはこれを耐え抜くのが困難であるとされているが、それには探査機の特徴である黄金色の外装について語らねばならない。


 探査機であれば誰もが思い浮かべる内容として、アンテナと太陽光パネルに加えて光り輝く様な外装が挙げられる。
この外装はポリイミドのフィルムがベースとして使われており、銀やアルミニウム等の金属を蒸着した上であの色と光沢が出来上がっているというのである。
技術や材質は現在普遍化しているものであり、ポリイミド以外のベースで色合いや光沢も変化するとの事であった。

 ポリイミドをベースとしたこのフィルムであるが、宇宙空間での太陽熱を防ぐ「サーマルブランケット」として利用されている。
これはMLI:Multi Layer Insulation(多層断熱材)と呼ばれているもので、金属蒸着フィルムとメッシュを多層にし縫合したものである。
性能は一種類だけのものではなく、その厚さや積層数、材料の選定などでシャットアウトの度合いや耐久性、重さといったものが変化していく。
そして月面や宇宙空間に投入する探査機は、ロケットで打ち上げる都合上その重量に限りがある。
その為オペレーションに際し、どの面が熱を受けやすく、またどの面が受けにくいかという点を考慮してフィルムの性能や割合の配分を決めていくというのである。
限られた重量と予算の配分の中から探査機の運用や設計を決めていくのは、さながらパズルゲームの様だと担当者は語る。

必要なのは民間企業の活力

 JAXAは2024国際宇宙産業展ISIEX内にて、多くの企業が合同で出展するブースを取りまとめている。
今回の月面探査機の着陸成功ならびに再起動に関しては非常に喜ばしい話として、会場を訪れた参加者が次々に足を止め関連企業に話をしていたとの事である。
その上で重要なのが、民間企業の参入である。

 現状頻繁な勢いでロケットを打ち上げているスペースXことスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(Space Exploration Technologies Corp.)は他の事業が主力であるため例外的ではあるが、多くの団体・事業者はそこまで頻繁にロケットを打ち上げられる訳では無い。
これはひとえに資金面の問題がどの団体にとっても頭を悩ませる問題であり、現状宇宙開発事業においてビジネスとして展開できるフィールドがまだまだ狭い事が挙げられる。

 衛星や探査機を送り込んだ後の展開として、宇宙空間を利用した独自の製薬、あるいは高熱を扱えるテクノロジー開発が進んだ先の精錬、宇宙往還機や滞在型のステーションといったものや月面における住環境整備といった様々な内容が今後展開される可能性は大いにある。
こういったファクターに対して、民間企業がどれだけ参入し投資がどれだけ行われていくのかという点は大いに議論されるべきであり、それ次第で前にも後ろにも進まない事には宇宙開拓の道を開くのは困難である。

 現在実現可能なルートとしては、地球上で利用出来るハイスペックな素材や製品を宇宙用途に転用する事で質を示す戦略が行いやすいとの事だ。
わざわざ宇宙事業向けに新規素材の開発を行って探査機などを宇宙に投入するのではなく、あくまで地球上での用途に加えて宇宙空間や月面といった過酷な特殊環境でも耐えられるだけの製品を手掛けているというベクトルでのアプローチとなる。
今のところ探査機向けの各種素材についても、地球上で用いられている既存の素材の機能を絞って投入するワンオフ向けという状況となっている。
現状大量生産品のような数が捌ける業界ではないため、その様相はさながらF1レースのマシンに似ていると言ってもいい。

探査機はやぶさ2のスケールモデル
搭載されたミネルバⅡ

 とはいえ今回SLIMが成し遂げた功績は大きく、小惑星イトカワからのサンプルリターンに成功した探査機はやぶさ、小惑星リュウグウからのサンプルリターンを完遂したはやぶさ2に続く非常に大きな一歩と言えるだろう。
ぜひとも奮って民間企業の積極的な参入を期待したい所である。

 広大無辺の宇宙空間の中で、地球に一番近い天体である月の表面への到達。
今後の宇宙開拓の橋頭堡を築く為の後押しとして、これからも語り継がれていくのではないだろうか。

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