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LONGSTAY Program 2016を終えて

今年度のロングステイ・プログラムがアーティストの帰国をもって無事終了しました。これから、ドキュメントなど活動のまとめの作業もありますが、ひとまず大きな区切りを迎えたような感覚です。写真や映像で記録をしていてやっとクランクアップしたような気分、とでもいいましょうか。

「START」という公募テーマを掲げ、今回一体何がスタートできたのか。テーマを掲げた自分に問います。実際に準備やテーマ出しから数えると昨年の春から動いていたので、いろいろな感情が入り混じります。何がよかったのか、いけなかったのか。次にどう繋がるのか。この106日間をさまざまな観点から言葉にしていかなければなりません。一般的なまとめは今後のドキュメントに記載されると思うので今回置いておいて、雑記のように個人的に思ったことをつらつらと。

今年度は66の国・地域、296名の応募の中からタイ系アメリカ人アーティスト、プリン・パニチュパンが選出されました。彼はインダストリアルデザインや、インタラクティブデザインの分野において数々の実績を残しています。これまでにロングステイ・プログラムで滞在したアーティストとはまた少し違ったバックグラウンドを持ったアーティストです。なぜ、デザイナーからアーティストになろうと思ったのか、そこは滞在前から興味があるポイントでした。

今回プリンはテーマから「地球温暖化」についてプロポーザルを持って松戸にやって来ました。ショートステイのアーティストもそうなのですが、実際松戸に来てみてやりたいことやテーマが変わることはよくありますし、それはむしろポジティブなことです。応募の段階で、僕も松戸でなぜ地球温暖化なのだろう…とかなり引っかかりましたが、結果最後までそこは揺るがず自分のこれと決めた信念を貫いて滞在制作を行ったことは大いに評価すべきところだと感じています。

彼は、デザインシンキングという近年大企業でも注目されている手法を取り入れて作品制作や聖徳大学のみなさんと授業を行いました。アイデアをどんどん膨らませていく。否定はしない。まずは簡単なビジュアルと言葉で思いつくままに出していく。そしてそこから更に膨らまし、また選定し、それを繰り返し、完成へと近づける。物事をよりよくするために、ひらめきから具体へと近づけ「新しい発想」を生み出プロセスは新鮮で、なるほど、の連続でした。

プリンは安定した優秀なデザイナー/アーティストでした。それは彼がプロのデザイナーとしての世界で活躍をしてきたバックグラウンドから来ているものだとも感じます。思考も非常にスマートで、すべてのプロセスが澱みなく明快に進んで行っていたような印象です。ただ、そこは時としてその部分が問題であるなということも、個人的には考えていました。アーティスト本人の考察が若干薄れてしまうという点において作品の芯の強さが保てるか。そこは注意を払っていました。

毎週定例のミーティングで作品のアイデアが変わっていく姿やどんなことを考えているのかを聞く時間というのが楽しみで仕方がありませんでした。こんなことを書いてしまっては関係する方々から怒られてしまうかもしれませんが、私にとっては作品のクオリティや求められる成果というものはあまり重視はしていません。最終選考に残ったアーティストはどの人も一定のレベルはクリアしています。こういったものを求められているのでそれをやって下さい、と言ったら恐らくみんな出来てしまいます。お茶の子さいさいです。一番重要視していたのはアーティスト自身の成長です。

これから人間としても、アーティストとしても面白くなっていく時期に、松戸で過ごしたことが人生にどう影響していくのか。そこが重要でそれはすぐに答えが出ることではありません。それは、ロングステイとショートステイ両方とも今年一番気をつけていたことです。「START」というテーマをギュッと握りしめて何かあったときは心の中でそこにいつでも立ち返っていました。

同じ時代を生きているということ、時間を共有できること。それだけでちょっとした奇跡だったりします。松戸のことを知らない海外のアーティストが3ヶ月もいる。そんなひとがやってくるって考えるだけで少しワクワクしませんか。作品だけが重要な評価ではなく、その人が街にどう影響するのか、されるのか。作品を見る場所である美術館ではなく、アーティスト・イン・レジデンスという特殊な場において、そこが一番見たかったところです。

ただ、実際にそんなに純粋に物事を進められるわけではありません。助成をいただいているからこそ果たさなければいけない役割もあります。ロングステイ・プログラムはパラダイスエアの中でも重要な事業です。渡航費や滞在中の生活費、制作費の補助などプログラムの中ではかなり恵まれています。なので、矛盾するかもしれませんがそれなりの結果は求めます。その力関係は常に変わります。充分に注意をしなければいけないバランスです。また、さまざまな思惑からアーティストを守ることも重要です。

僕が経験する初めてのロングステイ・プログラムで自分以外の一人のアーティストの創作をこんなにも長い期間、間近で見ること、どっぷり浸かることは初めてでした。終わったあとは、ぽかーんとしてしまいました。

最後に、ロングステイ・プログラムを通して僕が変わったことを書いておきましょう。今回プリンの作品で絵文字を使うものがありました。その後意識してiPhoneで絵文字を使うようになりました。絵文字はなんだか恥ずかしくて全然使っていなかったのですが、言葉が得意でない僕にとって、3つの絵文字で何かを表すことは連想ゲームのようで楽しいのと、それこそ言語を超えて意志を伝えられます。

映像の作り方も変わりました。テクニックが、というよりかはより試したいことを優先的にしてみようと。あとはよくプリンがウイスキーを飲んでいたので、ウイスキーが好きになったことでしょうか。

僕は何をやっているか人に説明する時、ビデオグラファーですと言うのですがプリンに「ダンスもやって映像もやってgif動画もつくって、それはモーションデザイナーだよ」ってふいに何かの時に言われました。

全然関係ないですが僕の名前は勲です。動くという漢字とれっかの点が4つ。もちろん元の漢字の成り立ちの意味は違いますが、よくよく考えて妙に納得をしてしまいました。そんな風にも捉えられるな、と。ふいのひと言が自分自身を考える大きなきっかけにもなりました。

そして、名のもとに「動き」をこれからも追求していこうと思います。ささいな動きも、大きな動きも、時代の動きも。

さてさて、106日間の思い出はこんなところにしましょうか。2017年度のことも動き出しています。いつかきっと忘れてしまうかもしれません。でも、次に行きますか。


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