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江戸川

松戸の境には江戸川が流れている。広々とゆったりとした川の流れ。ウォーキングやサイクリング、釣りなど思い思いの時間を過ごせる。個人的には夕暮れの時間、街の景色が緩やかにオレンジ色に染まっていく時間に水門のちょっと高くなった場所から景色を見渡すのが好きです。スカイツリーも見え、新しい橋、振り返れば松戸の街並。ぐるりと見渡して、鼻歌でも歌いながらあてどなく歩く時間がお気に入りです。

今回は江戸川で行った2つの活動を紹介します。まずはひとつめ。

4月のこととなりますが、ノルウェーから「OPEN STRING DEPARTMENT」というブルーグラスのバンドが松戸に滞在しました。彼らは日本ツアーの合間のひと時ですが松戸に滞在し、松戸の街を使ったミュージックビデオを一緒に制作してくれる事になりました。

今回、僕と友人とで撮影をし、編集まで行ったのですが、たくさんいい映像が収録出来たので3つのバージョンを作りました。

その1
15秒のバージョン。忙しい方のために、ギュッと魅力を凝縮したジングルのようなものです。

その2
曲を変えて。メイキングのようなラフな感じです。パラダイスエア周辺で歩きながらパフォーマンスを行ったり、旧・原田米店でも演奏したシーンを加え、ちょっと街歩きのような感覚で。

その3
一曲のフルバージョン。こちらは江戸川のさまざまな箇所で撮影しました。どことなく江戸川が外国のような雰囲気もあるなぁ、と感じます。こちらは少し松戸の要素は抑えめです。なぜかというと、いままで彼らのビデオはあまりきちんと作り込まれたものがなかったので、せっかくならばそれもつくって見たらよいのではないかな、と思い彼らの演奏をメインにこれからの活動でも使えるように構成しています。

松戸の江戸川一帯はまだまだ可能性があると思っています。なかなか絵になる。色んな季節でぜひまたチャレンジしたいです。

ふたつめの活動。

江戸川にかかる「源内橋」という小さな橋が松戸にはあります。正確に言うと江戸川の本流ではなく、並行して流れる「ふれあい松戸川」という小さな川に木製の橋が掛けられている。それが源内橋です。

この時期は青々とした緑の景色の中にぽっかりと浮かんでいるような橋で、その橋から見える景色を切り取ると、少し違った場所に来たような、のびのびとした感覚になります。

今では、そんな憩いの橋ですが、実は江戸時代非常に重要な「中継地点」だったそう。

江戸時代、人口が増え続ける江戸の街は鮮魚の需要が増加していきました。近海の供給が追いつかなくなり、幕府は江戸から近い漁場として銚子沖に目を付けました。銚子で取れた魚を江戸に運ぶまでのルートの中継地、それこそが源内橋です。

銚子を出発し、船で利根川を進み、我孫子あたりで魚を積み替え、この源内橋までは陸路で運んだそうです。その陸路は「下総鮮魚街道」と呼ばれています。そして、またこの場所から船で出発しそのまま江戸川を進み、日本橋まで運んでいたという歴史が残っています。

7月に滞在したアーティスト、フローレンス・ラムはそんな「源内橋」を松戸で制作した作品の中で登場させています。
カナダ生まれ、香港育ち、そして現在はアイスランドに住むフローレンス。10日間滞在した松戸や現在拠点とするアイスランドの写真、そして源内橋でのバルーンを使ったパフォーマンスとビデオ作品を発表しました。

Photo|Hajime KATO

大学では彫刻を専攻していたというフローレンス。でもそこでは、従来の重量感のある木や石などを使った彫刻だけではなく、もっと自由に空間を用いて彫刻ということを学んでいたそうです。彫刻という概念も従来のものから近年では広がって、空間や場所を用いる事も非常に重要となってきています。今回もパラダイスエアの建物の様々な部屋を「フローレンスの部屋」とし、それぞれの部屋のイメージに合わせた展示を行いました。

その他にも少し個人的な感想で思った事があったので、それを書いておこうと思います。

カナダ、香港、イギリス、アイスランド…さまざまな場所で生活をした彼女。いまその経由地として松戸に降り立った彼女が見つけたものたち。これまでのいくつかの場面をつないだような今回の展示の構成は、まるでかつての中継地としての役目を担った源内橋に通ずるものを感じました。彼女が松戸にやってきて、とても気に入った場所だという源内橋。昔もきっと誰かをつないでいただろうこの場所で、今回やってきたフローレンスが興味を持ったということが(偶然だけれども)これまでの歴史と彼女を結んでいるようでした。

もちろん、その偶然を彼女は狙っていた訳ではないし、あくまで個人的な印象だけれども「現象」を見るような今回の彼女の作品たち(電熱器の立ち上がる熱の影を見るものや、バルーンが浮かぶ空間を見る作品、ラジオから流れるエピソードを聞いて、その”場所”や”人”を想像するような作品)を通して、目には見えない、感じる距離はその人次第だけれども、でも確実につないでいる何かが見えるようでした。僕は、そこに松戸の歴史もすこしつなげてみることが出来る可能性もあるように感じました。

今回、パラダイスエアの空間に合わせて自身の作品を設置し、場所とともに作品を感じる機会を作ってくれました。きっと彼女の作品に関わらなければ、その場所についてリサーチする事もなかったでしょうし、源内橋も青々とした木々に囲まれたひっそり佇む趣のある橋だという印象だけだったでしょう。僕の知らなかった松戸の歴史と可能性を、また一つアーティストを通して教わったような気がします。

フローレンスの写した、現在住むアイスランドの風景写真は日本とはまた違う光の緑の色、荒々しい火山の土の色が広がっていました。そして、彼女の撮影した松戸や江戸川の写真。夏の松戸を経由して、また違う場所へ。

春と夏、2つの江戸川の思い出でした。

Photo|Florence Lam




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