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世界のアーティスト・イン・レジデンスから| 台湾編 1

台湾にあるアーティスト・イン・レジデンス"Bamboo Curtain Studio"(以下BCS)は活動開始から今年で25年を迎える。5年おきにアニバーサリーとしてこれまでの活動を包括するようなイベントを開催しており、今回ゲストスピーカーとして日本からPARADISE AIRが選ばれ、台湾でプレゼンテーションとワークショップを行ってきました。2回に分けて今回の滞在の報告をします。25年を迎えたBCSと7年目を迎えるPARADISE AIR。今回はBCSの紹介とともに、彼らの活動から見えてくる「文化をつなぐこと」への視点ご紹介します。

【 Imagine A Cultural Organization For Next Generation 
- BCS 25 Anniversary Series #4 】
日時|2020/2/15-16  13:30-15:00
Day 1: Keynote Speech /  Day 2: Workshop
会場|華山1914文化創意產業園區
登壇者|Isao Kanemaki/PARADISE AIR (JP), Ginggi S Hasyim/JaF (IND),
Peggy JU/Or Book Store (TW), Ying-Chieh LIN & Ken-Yao CHANG/Zit-Dim Art Space (TW)

Bamboo Curtain Studioとは?

http://bambooculture.com/en
台湾・台北にあるアーティスト・イン・レジデンス。非営利組織として1995年より活動開始。今年で25周年を迎え、台湾の中でも歴史あるアーティスト・イン・レジデンス&クリエイティブ・スペース。台北中心部からMRTで40分ほどの立地。都心と松戸に近いような距離感。淡水河という大きな川の直ぐ側にある。近くには自然保護区もありながら、駅近くには高層アパートや、昔ながらの建物もあり、ノスタルジックな街の雰囲気。その点、中心街とは違い人々の生活の中にあるレジデンスだと感じた。駅から徒歩10分程で交通の便も良い。"Local Action"と"Global Connection"をミッションに掲げ、台湾のアートシーンの活動支援から、国際的なネットワークの構築まで多岐に渡った活動を行っている。施設の概要はこちらから。

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郊外の雰囲気で向こう側は川沿いの雑木林(自然豊かというにはちょっとワイルドな風景)。このエリアはメトロの線路に分断され、反対側は真新しい高層アパート(中には歴史を感じさせるものも)と山々。スタジオ内外には滞在アーティストによる壁画や作品の数々が並ぶ。建物は25年という歴史を感じさせ、こじんまりと並んでいた。

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竹圍工作室平面圖_2017renew1F-EN

さっそくスタッフに案内してもらい、レジデンスの施設内へ。レジデンス施設は平屋2階建てのようなスタジオ2つ(ピンクと緑色の部分)。その他陶芸のスタジオや小屋の中に展示施設がいくつか。また、工作室やSun Son Theatreというパフォーマンスのグループのエリアもあり、時折にぎやかな音楽が鳴り響いていた。中庭には老犬と猫が二匹、(たまにTシャツを着た謎な犬も合流)ほのぼのとした時間の流れを感じるスタジオだ。

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このレジデンスはマーガレットという御年70歳の女性によって設立された施設ということを後に知った。マーガレットはもともと香港生まれ。夫が台湾生まれあり、結婚し台湾に移住。昔は環境や自然学を専攻し、かなり本格的に研究者としてその道に進んでいたそう。だがある時、この研究に未来を見出すことが難しくなり、ぱったりとその道に進むことを止めたらしい。その後、もともとやっていた陶芸を行うため一番初めにこの地に陶芸のスタジオを構え、そこから更に拡大してスタジオを作り、現在のようなアーティスト・イン・レジデンスとスタジオの形になっていった、と今回僕らを呼んでくれたスタッフのフィオナから聞いた。マーガレット本人から聞いたわけではないので、随分とその歴史は省略されているとは思うが、大まかにはそのような成り立ちだった。

IN ART WE TRUST, WE TRUST IN ART
過去をきちんと振り返ること、そして次のミッションをつくる

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そもそも今回のようなカンファレンスはなぜ行っているのか。
BCSは5年ごとにカンファレンス開いて、活動を振り返る。掲げたテーマを再考すべく、一度立ち止まってアーカイブを作り、それがどういうものだったのかを検証している。その後、次の数年の活動テーマを決め、実行していくというスタイルだそうだ。私達が参加したカンファレンスも25周年のアニバーサリーイヤーの一環で、年間を通じて異なるテーマでこういったプログラムをいくつも開催しているという。フォーマルなカンファレンスから、今回のようなより気軽に参加できるワークショップ形式のものなど、そのスタイルも様々だ。国内外から登壇者を招き、講演やワークショップを行い、活動を多角的に検証している。その点が彼らの取り組みの層の厚さと活動の歴史を物語っているともいえる。

いつかは終わる、でも続く。

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しかし、残念ながらあと2,3年で現在の場所が開発されてなくなるという問題に彼らは直面している。そのために場所を持たないでレジデンスは可能か?ということについて議論をしているとスタッフから聞いた。今回のカンファレンスでは国内外でユニークな活動をしている団体をゲストで呼んでいた。台湾からはブックショップとギャラリーを運営している方や、20代のアーティストが運営しているまだ1年目の若手アーティスト・イン・レジデンス。海外からはインドネシアと私達PARADISE AIR。カンファレンスのテーマ自体が ”Imagine A Cultural Organization For Next Generation” ということもあり、BCS が今後を考える上で参考にしていくヒントを見つけようとしているようなメンバーでもあった。カンファレンスの詳細は次回の記事に続きます。

次の世代へ

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カンファレンス後のディナーでの話。マーガレット(写真左から二番目)と台湾のアートスペースの若い子たちが話し込んでいる。自分のスペースのこと、活動の悩み、あらゆる話をしている。
色んな相談に乗っててすごいね、とマーガレットに言ったら「若い子たちのアイデアは面白い。時代も変わっていくんだから、どんどん若い子につないでいかなきゃね」と言って彼女は笑った。とってもパワフルでチャーミングな彼女を尊敬。BCSも、スタッフを数年に一度入れ替えて現場を若い世代に中心としたり(現状BCSのレジデンスのメインスタッフは20代半ば)、マーガレット交えてミーティングを行ったりと、次世代につなぐ運営を常に考えているという。

パラダイスはどこにある?

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今回のカンファレンスのテーマは「パラダイスはどこにある?」にした。PARADISE AIRの”PARADISE”ではなく、みんなが考える理想の楽園とは何なのか?ということだ。

全体のテーマが「次世代の文化組織を想像する」と聞いて、文化や国を超えた上で、次の世代につなぐアイデアを考えたい、と感じていた。実はこれは台湾に行く前に考えていたもので、前段に書いたBCSのこれからは知る由もなく、全くの偶然だった。

PARADISE AIRのディレクター、森は「いつでもやめられるように」ということをよく言っている。もちろんそれにはさまざまな意味が込められている。助成金をベースとした活動である以上、助成額の減額や打ち切りという事態が起これば一発で私達の活動は困難に直面する。最悪は終了する。例えそれが続けたくても、なのだ。そんな綱渡りのようなことを何年も続けている。続けていくことは、ここ日本では非常に難しい。いや、世界中どこでもそうだろう。皆、知恵を振り絞っているのだ。これはレジデンスに限らずどの分野の文化事業でも残念ながら共通している話題であろう。いつそうなってもいいように、コレクティブメンバーでPARADISE AIRを運営しているというのも上記の理由の一つとしてある。それは収入としてレジデンスの仕事に依存しないことが、私達のリスクを減らすことにもつながる。状況が良くも悪くも、終わりはいつかやってくるのだ。

ただ、なぜやめることを常に考えないといけないのか、と個人的にはいつも疑問ではあった。現場にずっといるとなかなかそこまで意識が回らない。とにかく今を、という考えになってしまう。

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BCSのスタッフと話をして、それらの意味が自分の中でやっと腑に落ちたような気がした。終わることは、全てがネガティブではないということが彼らの活動からわかったのだ。場所がなくなろうとも、こうやって若い世代に繋がれて、新しいアイデアを持って新陳代謝を起こしている。事実、何か交換プログラムをやろう、とPARADISE AIRに話を持ちかけてきたのは20代の現場のスタッフだった。カンファレンスの参加者の面々も日本の似たような催しとは違い、とにかく若いメンバーが多かった。

All Is Not Lost

何かがだめなら、やり方を変えればいい。活動というのは時代や背景によって変わっていく。それは従来のスタイルに囚われずに、今後何が必要なのかを見極めていく必要がある。場所がなくなる、でも人がいるなら何かまた違った形ができるだろう、と。それこそがチャレンジなのだ。不安があるかもしれないが、この先を非常にポジティブに捉えていると会話の節々から感じた。しかも現場のスタッフは若い。彼らなりの創造の仕方やアイデアもあるだろう。それをマーガレットや運営や管理に回る上の世代のメンバーと議論しながらこの先を見つめているという組織の頼もしさ。基本的なことかもしれないが、それはとても未来があると思った。でなければ25年も続けてこれなかったであろう。

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始まりには終りがある。困難も長く続けていくとある。けれども彼らの活動を通して、それだけが全てではないということを教えてもらったような気がする。何かがなくなっても、私達がいなくなっても、やってきたことを次につなぐ。きっと彼らの視線は目の前ではなく、細く、永く長いものを見ているのだろうとも。始まって、いつかは終わって、終わりからまた始まる。そんな繰り返し。長く続く彼らの活動からそんなことを感じた。25年もこの活動を行っている彼らの次の展開を応援していきたい。


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