12 人間に逆らわない
中目黒の駅を降りると、横断歩道を挟んだ向かいにツタヤがある。スターバックスと提携しているようで、コーヒーも飲める。
ソイラテを頼んで、外に設けられた席に座りながら考えごとをしていた。涼しい秋の風。
待ち合わせをしている。あと1時間以上も時間がある。自然と考えごともゆっくり、しだいに深くなる。
仕事のこと。特定の仕事ではなく、人生の一部である仕事全体のこと。
仕事がしたい。自分の力を磨きつつ、それが誰かのためになるのなら、進んでそういうことをしたいと思う。
でも、何が出来るんだろう。自分の得意なこと、苦手なことを考えていた。
苦手なこと。誰かに何かを強いられて、根性を鍛えるということが、僕の人生にはなかった。基本的にだらんとして生きてきた。
そんなことを考えていたら、ふと昔のことを思い出した。サラリーマンをしていた時の上司の言葉。
「人間は忘れるように出来てるんだから、曖昧な記憶に頼って仕事するなよ」
IT系の会社だったので常にパソコンを使っていた。自分のパソコンを開くと、エクセルに自分の担当する案件すべての情報が書かれている。忘れないようにすべて。これは、その上司から教わったやり方だ。
人間は忘れるように出来てるんだから……。人間の能力を過信するな。僕にはそういう風に聞こえた。
人間の(僕の)ダメな所なんてたくさんある。忘れる。楽を選ぶ。面倒臭がる。でも、そのままでも大丈夫なように仕組みを作ってしまえば良い。
忘れても思い出せるように、楽を選んでもまっとう出来るように、面倒臭いことを簡単に済むように。
上から下へ水が流れるイメージが浮かぶ。そこへいくら怒鳴っても、水が重力に逆らって坂を上っていくことはない。
だけど、水が流れる、それ自体には既に力があるのだから、その力をうまく利用してやれば良い。水が低きに流れることを怒る人は誰もいない。人間だって同じで良いはず。
無理をせず、今ある力が一番発揮されるような仕組みを作ればいい。思い出に励まされながら、そんなことを思った。
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