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SADFRANK『gel』

悲しいけど大丈夫・悲しくても大丈夫


北海道・苫小牧から出てきたNOT WONKというバンドは、私達の普段の会話の際に起きる捻じれや歪みをパンクミュージックの中で自然発生的に起こしている。
2019年にavex傘下のcutting edgeよりリリースされた3rd『Down the Valley』でそれはむき出しになったわけで、続く2021年の4th『dimen』なんかじゃサクスフォンが派手に唸りシューゲイズの薫りがする蜃気楼サウンドにドラムンベースの刹那が駆け巡っている。
でも『dimen』の最終トラック「your name」を聴けば、有機的・肉体を宿したコミュニケーションが彼らの根本に強く根付いてることがよく分かるはずだ。
ライブの際もチケットをプレイガイドをあまり頼らず、すべて自分たちで手書きのフィジカルチケットをオーディエンスに渡す(送る)という手順を踏み、バンドと客の境界線はあれど隔たりを手作業で消していくことを重要視しているように思える。一瞬だけ微かに輝く時間を薄く引き伸ばして永遠にするようなことはせず、確かな視線でそれを指先で摘み取ること。


そんなバンドのフロントマンである加藤修平(ライブの際はロシアンマフを2つ繋げるらしい)の掌で育て上げられたソロプロジェクト、SADFRANKはCMに起用されたHymn To Loveのカバーで産声を上げる。
そして1st Single「Quai」をリリースしSADFRANKは熱を帯びてゆく、冷たい風に凍える子どもの頬を温める親の手の平のよう。

そんなこんなで『gel』ってアルバムがリリースされたんだけど、制作布陣に本村拓磨(ゆうらん船・ex.カネコアヤノバンド)、石若駿(Answer to Remember・CRCK/LCKS・SMTK)に加え岸田繁(くるり)、宮崎良研(the hatch)が参加してる。
この時点でかなりヤバいのは明白だし、なによりこのアルバムで日本語詞を歌う加藤修平をがっつり聴ける。

このSADFRANKで加藤は会話をできる限り解体した詞を歌い上げるんだけど、そこに歪みや捻じれは一切感じないんだよね。
NOT WONKでのスタイルとは相反するような、それでも共通した生暖かさは手で翳さなくてもそこにあるって分かる、いつの日かの私達とそっくり。
そして、このアルバム全9曲のうち3曲はインストゥルメンタル(インタールード扱いではない!)であり、加藤らはコミュニケーションの端っこを、バランスを取りつつするすると渡っている。


煌めきは永続的なものではないけれど、生活は続けなければならない。
赤子の泣き声に眉をひそめる大人が増えた現代で、他者を暖める炎を胸に抱えたまま生き残る方法。
抱き合う遊びは続けたままでいいさ。

風の向きさえも疑う お前もまた臆病な風になって
部屋を吹き抜くとき
ただひとつだけ連れてって
明日を待つ喜びさえ手放しそうな弱さを
走り出した拍子に笑い声が白けて
始まりがきたと気付く

SADFRANK「per se」


止まらない時間の中で立ち止まることを余儀なくされる私とあなた。
私とあなたがここにいたということは忘れ去られていくが、時間が過ぎても時間そのものが無くなるわけではない。
捻じれや歪みは直さずにただそこにあれと願い続ける祈り、証のための会話が続く。

20230418

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