世の中の水準を引き上げる仕事

馬場康夫『新装版「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た日』

僕の読書の喜びの1つは、突然、今自分が壁にぶつかっている正体が言葉にされて目に見えるようになる時です。

電通で小谷正一さんの部下だった岡田芳郎さんがこう言う。

「だって、今という時代は、広告でもイベントでも何でも形が完成してしまっていて、行き詰まっているでしょう。小谷さんみたいに、時代の過渡期に、まっ白なキャンバスに思い通り絵が描けたら、ほんとうに楽しそうじゃないですか。うらやましくてしかたありませんよ」
小谷はまっすぐ岡田の目を見て、こう答えたという。
「岡田くん、いつだって時代は過渡期だし、キャンパスは真っ白なんだよ」

いつの時代だって苦労があるはずなのに、今自分が生きている時代は「先人がもう全部やり尽くしちゃって、自分がやれることが何も残っていない」という気持ちになることがあります。だけどそんな嘆きは何の足しにもならない、ということに立ち返ります。

小谷正一さんは電通で働いていた伝説のプロデューサーで、ディズニーランドの日本招致に成功したのは、小谷さんのプレゼンがあったからだそうです。

本著はディズニーランド誕生秘話のエピソードが詰まっていて、その中で浦安の土地を高橋政知さんがどうやって手に入れてオリエンタルランドが事業をはじめられたのかという話しは面白かったです。半年間の間に2000人の漁師と酒を飲んで、飲み勝って土地を入れたそうです。高橋さんはその後オリエンタルランドの社長になります。

もう1つ事業主として揺さぶられるのは、ディズニーが日本のサービス水準を一変させた、という話しです。その中のエピソードにディズニーワールドの水飲み場の飲水栓が対面になっているのはなぜか?という話し。ウォルト・ディズニーが「水飲み場まできて水を飲む人は、喉がカラカラなはず。そんな時に水を飲んだ人の顔は必ず輝き、家族の顔を対面で見れることは最高のエンターテイメントじゃないか」という逸話。そんなディズニーのサービス精神が息づいて守られていることが、日本のディズニーランドを見ると分かります。

日本のディズニーランドの歴史を知れる1冊です。

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