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「ピサロ」 ③_上演開始からのツイートまとめ


迎えた3月20日、ピサロ初日。祝日だったけれど予定を入れる気になれず、子どもたちと家で過ごしていた。13:30の上演開始に向け今頃どんな準備をしているだろうか、会場は、向かわれる幸運な方はどうなっているだろうか、そんなことばかりソワソワ考えていた。共に創り上げてきたウィルさんが帰国してしまい、日を追うごとに感染症の情勢は悪化を辿る、そんな中初日を迎える謙さん氷魚くんをはじめとする出演者の気持ちを考えると、「初日おめでとう」とか「頑張って!」という言葉で表現するのとは少し違う気持ちで20日を過ごした。

SNSに感想が上がり始めると、熱滾るピサロ、輝くアタワルパの姿が一気に頭の中を支配した。誰も巻き込まず、誰のせいにもせず、啓蒙せず、牽制せず、攻撃せず、私は自分の状況と気持ちを整理してベストな選択をするんだと、PARCO劇場に溢れた思いを想像しながら、改めて心に決めた。


幕が上がること自体への批判もたくさんあった。この頃はまだ大規模な感染拡大が地方に広がっていなかったから、地域によるの受け止め方の違いもあっただろう。

それでも、そんな状況の中でも、幕が上がると決まったなら劇中の人物を全力で生き、マスクなんかせず身体全体で台詞を発し、その声で姿で受け取る側の心を動かすのは他でもない壇上の出演者だ。幕が上がることへの責任をどう捉えるかなんて少し前だったら考えずに済んだことだろう。「表現する」ということ以外の部分でどれだけ心を痛め悩み答えの出せないものを抱えていたことだろう。それを想像すると苦しくて、何も出来ない自分だけどせめて応援している気持ちを形に表そうと、ピサロが上演される日の朝ツイートをし続けようと決めた。


この日の夕方、PARCOSTAGEから追加公演の発表があった。娘の学童品を買いに寄ったイトーヨーカドーのエスカレーターの横の椅子で、また泣いた(すぐ泣く)。


3月25日はこれまでストップしていたチケットの発売も再開された。本当に毎日階段を2段飛ばしで下るような状況の悪化具合、確保している4月の公演をただ待っているだけで後悔がないか何度も考え、夫の賛同を得、協力を仰ぎ、保育園と学童の延長申し込みをすませ、そして3月27日(金)のチケットを取った。週末外出自粛要請が出るのでは?という声が現実味を帯び始めるのもこの日あたりからだった。


3月27日(金)。この日の18:30、私はPARCO劇場でその時を共有することができた(その詳細は別に記事にまとめることにします)。


3月30日は午前中に志村けんさんの訃報が日本中に流れた。きっと舞台の準備をしている出演者の方々の耳にも入っていただろう。どんな気持ちでこの訃報を受け止めただろう。演じるなら全力で舞台に立たなければならない、毎日気持ちを奮い立たせても、どれだけ立て直そうとも、気持ちが折れてしまうようなニュースが次から次へと流れてくる現実。居ても立ってもいられず、これ以上苦しまないでという気持ちで仕事中こっそりと半泣きでこのツイートをしたことを覚えている。


この時願った11、12公演目は叶うことがなかった。4月1日、開演2時間前、無念の知らせが届く。

当日になってから、しかも開演2時間前の発表。ピサロの初日3月20日、堂本光一さんの『Endless SHOCK』の、当日を迎えてからの中止発表が衝撃的であったけど、それも一つの選択肢となり得るんだと本当に当日幕が上がるその瞬間まで上演されることが約束される訳ではないんだと、どこかでずっと、そうなったとしても受け止めないといけないんだなという覚悟を持っていたように思う。判断に時間がかかったことに批判が向けられることも見越した上で、ギリギリまでなんとか出来ないものか予測して議論して調整して、でき得る限りの全てのことをたくさんの人がピサロを思って動いた結果だったんだ。


そこからは次々と梯子が外されていくように、状況は悪化の一途、舞台も映画も当たり前のようにそんなことしてる場合じゃない、の「そんなこと」扱いだった。

長い時間をかけ稽古を積み幕が上がるその時のために全てを懸け創り上げてきた、そしてその努力の成果を本来の形で発揮することが叶わず「そんなこと」扱いされた出演者のみなさんが、謝っていた。誰よりも悔しいはずの出演者のみなさんが謝っていた。どうしてこんなことになってしまうんだろう。みんなに平等に降り注いだ理不尽、誰も悪くないのに、批判する人がいて謝る人がいて…これは一体なんなんだろうと、私は状況を飲み込めないまま、いや、簡単に飲み込むもんかとさえ思いながら過ごしていた。



そして、その知らせが届き、それはついに現実のこととなった。

言葉が出なかった。でも、これで出演者の皆さんはもう苦しまずに済むかなという気持ちもあった。

27日のカーテンコールで謙さんが発した「舞台に無観客試合はありません」という言葉。28、29日の自粛期間中に栗原英雄さんが発してくれた「待っている方があれば最善を尽くす」、大鶴佐助さんの「The Show Must Go On」。これらの言葉にすら批判の声があったけど、私にとってはこれ以上ない心の支えとなった。氷魚くんも中止が決まった日、短いながらも気持ちのこもった、静かででも氷魚くんの中の熱を感じさせてくれる発信をしてくれた。

楽しみに待って、素晴らしい予告に期待を膨らませ、予定の変更に惑って、批判の声に傷ついて、関わる人の気持ちを想像して苦しくなって、ただただ無事を祈って。そうして過ごしてきたけど、もう、大丈夫。出演者の方々の芯ある心強い言葉で、いつか必ずやってくる今に勝る熱い思いが溢れるPARCO劇場を想像しながら、一旦思いを整理し蓋をすることが出来たのだった。


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