大きなねこは

我が家には大中小の猫がいて、一番身体の大きい子をわたしは「大きなねこ」と呼んでいる。体重は8キロ近くあり、立ち上がると子どもと身長は変わらない。「ごましお」が本名だけど、家庭内で勝手なあだ名をつけるのがたのしい。家庭内にしかいない猫だけれど。

この大きなねこが、わたしの人生を変えたのだ。

大きなねこは、中くらいの猫(3キロ)と共に保護団体から我が家に来て、もうすぐ6年経つ。生後3ヶ月で我が家に来た二匹。先日、普段二匹が食べているご飯に「アダルトキャット(1〜5歳)」と書いてあることに気づいて、うちの子たちってもうすぐシニアなのか、と少ししょんぼりした。その前に飼っていた三毛猫は4歳のとき心臓発作で死んだ。
猫が年をとるのが、わたしは怖い。

大きなねこは、わたしのことが大好きだ。
昼寝しているとき以外どこにでもついてきて、抱っこをせがむ。わたしだけに、だ。抱き上げると嬉しそうにわたしの顔を舐めて、すきあらば噛む。本人は甘噛みのつもりだけど、小さく並んだギザギザの前歯はちょこっと噛まれるだけでもぴりりと痛い。あごも鼻も噛まれると痛いけど、一番痛いのは唇だ。電撃が走る。いたい!と怒るとしょんぼりして目をそらす。うっとりして愛が溢れてぺろぺろ舐めてるうちに噛んでしまう様子だったから、最近はもう怒るのはやめて噛まれないように避けている。なんせ、このねこ、わたしが大好きなのだ。
そういえば先日、脱衣所ですっぽんぽんになったタイミングで大きなねこがすり寄って来たので抱っこしてみると、ふわふわのお腹の毛が素肌に心地よい。そのまま鏡に向かって見れば、大きなねこはわたしの上半身しっかり隠すほど大きいのだった。ふかふかでかわいい、わたしの大きなねこ。しかし、素肌にねこを抱けば、やはり毛だらけになった。

大きなねこは、バーで押すタイプのドアを開けられる。
わたしが子どもを寝かしつけていると寝室にがちゃがちゃっとバーを押して入ってくる。そして、子どもたちが寝付く直前に足にすり寄ってきて高い声で鳴く。かまってくれるかな、という期待が垣間見える。しかしタイミングが悪いものだから当然子どもが起きる。だからまた寝かしつける。わたしのことを大好きなねこのおかげで、大変なことが増える。
けれども、寝かしつけを終えて自分のベッドにうつれば、大きなねこがついてきてすぐ隣で寝そべる。場合によってはわたしの肩と首元にどでんと身体をのせて、わたしの顔に自分の顔を寄せる。重たくて暑くて、長いひげが頬をなででかゆくって。
どうしてこんなにかわいい生き物がわたしを大好きなんだろうと思う。

大きなねこは、この3日ほど夜中に鳴いてわたしを起こす。
昨夜は4回起こされた。風で閉まったドアを開けてほしかったり、ご飯が食べたかったり、単に構ってほしかったりして起こす。すっかり寝不足だ。構ってほしくて鳴いたとき、カーテンの外側がぐるりと一周白く縁取られていて、ああもう朝なの、と思うと鈍く頭痛がした。甲高い声で鳴き続ける猫が煩わしく、がしがしと頭と背中をなでる。
そのうちまた、眠りについていた。

大きなねこは、わたしが大好きだけれど、わたしより先に死んでしまう。こんなに誰かの死が怖いわたしなんて知らなかった。
これほど愛してくれるねこにはもう会えないだろう、と思うときが週に何度もあって、自宅で仕事中でも構わず寝室に向かい、ベッドに転がる大きなねこのお腹に頬を寄せに行く。ずっとずっとずっと長生きしてほしい。死んじゃうとわかってる。わかってるの。わかってるから、ずっとずっとずっと長生きしてほしい。
わたしの人生をこれ以上変えないで。
このままで、ずっといさせて。

大きなねこは、今日も鳴く。だいすき、と言って今日も鳴く。

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