第二話 深呼吸地獄
呼吸が苦しくなり、ついに救急車を呼んだ。
救急隊員が到着したその時、私はその苦しみから解放されるかに思えた。
しかしコロナの地獄は、ここからがピークなのであった。
まず、問答無用で病院に連れて行ってくれるかと思っていた私はいきなり保険証の提示を求められた。
当然そこまで頭が回っていなかったため、隊員の人たちと部屋まで取りに引き返した。
そしてその流れで、私は病院ではなく部屋で処置を受ける運びとなったのだった。
処置と言っても体温を測ったり、聴診器を当てたりと言ったごくごく簡単な検査にとどまった。
胸周りのしびれを訴えていたため心電図も一応取ってくれたが、問題は見つからなかった。
薬も何もなく、出された指示は一つだけ。
深呼吸をすること。
深呼吸さえ徹底できれば、手足のしびれも困難な呼吸も全てよくなる。むしろ今は深呼吸以外の処置はない、と。
言われたまま深く長い呼吸を意識した私だったが、症状の悪化こそないものの、改善も全く起こらない。
そのまま10分ほど経ってからだろうか、救急隊員の人たちは消防署に戻ることにしたようだった。
確かに私が自分自身で深呼吸をするほかに対処法がないのだから、彼らには何のやることもない。
しかし、いくら呼吸を深く遅く行っても何の改善もない中で、部屋に一人取り残されてしまうとなればその不安と孤独感は尋常ではない。
こうしてただひたすらに深呼吸を繰り返すだけの戦いが始まった。
結論から言うとこの戦いは2時間以上に及んだ。
このときの私の両手は完全に閉じきっており、硬直のために全く開く気配はなかった。加えて手と腕全体に攣っているような痛みもあったため、呼吸を浅くしないという意識を常に持たなくてはならなかった。
痛みと39度の熱に耐えながら、ベッドに座ってただ呼吸をするだけ。
筋肉が攣った経験のある人なら、この時の痛みの大きさを理解できるだろう。私の苦しみの大部分は、呼吸よりも、痛みによるものであった。
結局2時間の中で、確かに呼吸はしやすくなった。しかしそれ以外の成果は、右手の親指、人差し指、小指が少しだけ動くようになったことくらいだった。その間痛みとともに、この苦しみは果たして終わらないかもしれないという不安が大きく付き纏った。
状況がほとんど改善しないことを不思議に思った私は、手足が深呼吸で改善するようなしびれを通り越して、ただ攣っているだけなのではないかと考えた。
そしてネットで、攣ることの原因に冷えがあると調べた私は、硬直した腕と手をお湯に当て続けることにした。
すると、2時間開かなかった手が次第に解けていくではないか!
こうして私はようやく地獄から解放されたのであった。
to be continued…
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