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奇跡の殺人賛歌『ジョン・ウィック:パラベラム』はハリウッドアクションの最先端だ

世界最強のバイオレンスアクションオペラシリーズ『ジョン・ウィック:パラベラム』をあなたはご覧になっただろうか?
もしまだなら今すぐ金を握りしめて劇場へ向かった方がいい。
なぜならハリウッド最高峰のアクションを目にすることができるからだ。

はっきり言うが『ジョン・ウィック:パラベラム』は滅茶苦茶やばい。今までも十分やばい作品だった『ジョン・ウィック』シリーズだが、今後『パラベラム』を超えるハリウッドアクションを見るにはジョン・ウィック:チャプター4を待つしかない。そのくらいのヤバさだ。

ジョン・ウィックシリーズについて説明は不要だろう。伝説の暗殺者にして復讐者であるジョン・ウィックを演じるキアヌ・リーヴス。そして格闘アクションオタクのチャド・スタエルスキ監督が送る壮大なバイオレンスアクションだ。
近接戦闘と銃撃を組み合わせたガン・フーという革新的なスタイルと無駄な動作が一切ないタクティカルアクションで多くのアクション映画オタクの度肝を抜いた。
齢50にして新たな代表作を生み出したキアヌ・リーヴスはこのジョン・ウィックシリーズを2でさらに洗練させ、本作『パラベラム』でついにハリウッドアクション界の頂点に君臨した。

前々作でロシアンマフィアを壊滅させ、前作でイタリアンマフィアを壊滅させたジョン・ウィックはコンチネンタル・ホテルで殺人を犯し、裏社会を追放され世界中から狙われることになる。
ついにスケールが世界まで拡大した本作は様々なロケーションで場を利用した多彩なアクションを魅せてくれる。

余談だがハリウッドアクションの常として格闘アクションを撮るのがあまり上手くないというものがある。それは香港のようにアクション監督という専門の役職が存在せず、編集も撮影も(編集やカメラについては専門的知識を持っているがアクションにおいては)素人同然のスタッフが行うことで見づらいアクションが完成してしまうのだ。
実際に見てみるとわかりやすいだろう。

トリプルX:再起動

レジェンド・オブ・フィスト

どちらとも同じ俳優(ドニー・イェン)が演じているアクションシーンだが、トリプルX:再起動は明らかにカメラがドニー・イェンのスピードについてこれてないのがわかる。一方、レジェンド・オブ・フィストは武術的なバックグラウンドとアクションに関する専門的な知識を持つカメラマンがドニー・イェンの細かい動きを寄りの画で追っている。それはそれとしてトリプルX:再起動は最高の映画である。

しかし、本作の監督であるチャド・スタエルスキはスタントマン出身だ。幼少の頃より武術を学び、ユエン・ウーピンのアクションに参加し、ブラントン・リーのスタントダブルを務めた男だ。
完全にアクションの撮り方を熟知しており、本作ではを引きの画で全体の動きを見やすくし、効果的な振り付けと編集、カメラワークによって観客に与えるインパクトを絶大なものにしている。

この手法は一見誰にも真似できそうなものだが見やすいと同時に誤魔化しがきかないという欠点がある。
例えば至高のスパイ・アクションシリーズである『ボーン』シリーズも寄りの画と短いカット割りの連続でスピード感はあるが何が起きているかさっぱり分からないアクションになっている(それはそれとしてボーン・スプレマシーは人類最高の映画だ)。
他にも96時間シリーズが手ブレと素早いカット割りで実際にリーアム・ニーソンは大して動いていないのに何かすごくやっているような感じを出している(それはそれとして96時間は真の男の映画だ)。
どちらも武術的なバックグラウンドを持たない俳優(とカメラマン)がテクニカルアクションを撮るために生み出された手法だと言っていい。
無論マット・デイモンもリーアム・ニーソンもプロなのできちんとトレーニングを積んで撮影に臨んでいる。
しかしどんなにトレーニングを積もうとも幼少期の頃より武術を学び、今でも日々鍛錬を続けるドニー・イェンやジェット・リー。『パラベラム』で言えばマーク・ダカスコスやヤヤン・ルヒアンのような俳優の動きには敵わないのだ。本当に強いやつは編集やカメラで誤魔化さなくでも強い。当然の話である。そこに普通の俳優と武術のバックグラウンドがある俳優とで大きな差がある。
無論、類稀なる運動神経と血の滲むような努力でその領域に迫るアンディ・オンのような俳優もいるが、それができるのは香港という格闘アクションが求められる場にいるからだろう。
一方、ハリウッドで活動するマット・デイモンとリーアム・ニーソンは活躍の場がアクション映画だけではないのでそこまですることはできない。彼らに求められるものはアクションだけではないのだ。
さらに言えば彼らの強さの説得力の源は動きではなくその演技力や表現力、そして存在感だ。
たとえば駅のホームでリーアム・ニーソンの見た目をした親父が携帯片手に近づいてきたら何らかの救出ミッションの最中だとすぐに察することだできる。そういう説得力だ。
故に、彼らは血を滲むほどの努力をしてまで武術を修める必要がないのだ。

一方キアヌ・リーヴスもマット・デイモンやリーアム・ニーソンと同様、武術的な背景を持たない俳優だ。
初めて格闘技を始めたのがマトリックスでのユエン・ウーピンとの現場である。
ユエン・ウーピンはキアヌ・リーヴスと対面したとき、まずパンチをさせた。その時のことを振り返ったユエン・ウーピンは「一発で武術経験がないことがわかった」と語っている。
そこでユエン・ウーピンはキアヌ・リーヴスに4か月のトレーニングを課しマトリックスのアクションを実現させた。
キアヌ・リーヴスにおけるアクションのスタート地点はマット・デイモンと大差ないのだ。
しかし『パラベラム』でのキアヌ・リーヴスは引きの画で見せる手法が成立しているどころかかなり効果的に描かれている。
何故それが実現しているのかもはや説明は不要だろう。キアヌ・リーヴスが引きの画でも成立するほどの激しい鍛錬をひたすら積み続けたからに違いない。
キアヌ・リーヴスは映画好きであろうとなかろうと誰もが知る男だ。確かな演技力と独自の存在感を持つスター俳優だ。
そういう俳優がこれほどまでにアクションに情熱をそそぐのははっきり言って異常だ。
何故キアヌがこれほどまでにアクションに情熱を注ぐのか。それは様々な想いがあるのかもしれない。
たった一つだけ確信して言えるのは、キアヌ・リーヴスは超がつくほどのアクションオタクであるということだ。

キアヌ・リーヴスはアクションオタク。それもアジアンアクションオタクであるのは最早言うまでもないだろう。
千葉真一ことサニー千葉を「マエストロ」と呼び、ドニーさんと会ったら「導火線 FLASH POINTマジ最高」と語り、誰に頼まれるわけでもなく韓国最高のアクション「悪女(パラベラムでもオマージュされてる)」を見ているこの男は、間違いなく我々と同じアクションオタク野郎だ。
そんなアクションオタク野郎はついに極まったのか2013年、自分でカンフー映画を撮りだした。それがキアヌ・リーヴス初監督作『ファイティング・タイガー』である。
『ファイティング・タイガー』では自ら悪役を(ノリノリで)務め、アクション監督に敬愛するユエン・ウーピンを呼び、主演にマトリックスで共演した友人のスタントマン、タイガー・チェン(パラベラムにも出演している)を据えた。そうして「ぼくのかんがえたさいきょうカンフー映画」を完成させたのだ。

そんなキアヌ・リーヴスが情熱を注ぎ込み、肉体表現と人を殺せる存在感を一体化したのがジョン・ウィックというキャラクターだ。
そして本作でキアヌのアクションはチャド・スタエルスキのアクション演出と合わさることにより高次元のアクション映像に仕上がっている。
見づらいアクションが一切なく(暗いシーンが見づらいという意見があったがIMAXで見れば問題ない。IMAXで見ろ)無駄なカット割りもない。
多彩なロケーションで行うアクションシーンの数々は殺しのバリエーションが豊か。
インタビューでチャド・スタエルスキ監督が「一年中クールな人の殺し方を考えている」と語っていたが、それはプロモーションでもた度々見かける「本・フー」や「馬・フー」「犬・フー」などのアクションシーンに現れている。
また、ジョン・ウィックを狙う暗殺者も多彩なキャラクターで溢れている。
今までジョン・ウィックに襲い掛かる暗殺者は大して強さを強調されていなかったが、本作でジョン・ウィックを狙うニンジャ暗殺集団”SHINOBI”は中盤でバワリー・キングの地下犯罪組織とジョン・ウィックを輩出した組織をサクッと攻略するシーンを見せて圧倒的な強さを印象付ける。
雨のような照明が降り注ぐ劇場にゆらりと現れる三人の暗殺者のシーンは本作のベストショットの一つだろう。
その暗殺者集団”SHINOBI”を纏めるのがマーク・ダカスコスなのも重要なポイントだ。
日本にもルーツを持つマーク・ダカスコスはその類稀なる格闘センスと表情豊かな演技力で『ジョン・ウィックが大好きなニンジャ暗殺集団”SHINOBI”の頭ゼロ(表の顔は寿司屋)』というトンデモなキャラクターを説得力抜群に演じている。
またゼロの弟子の脇を固めるのがヤヤン・ルヒアンとセセプ・アリフ・ラーマンというのもより強さの説得力を強固なものとしている。
今までにないほどの強敵が出現というシチュエーションが本作のアクションを加速させていたのは言うまでもない。
本当に最初から最後まで凄まじいアクションを見ることができた。

美麗なロケーションで行われるジョン・ウィックのテクニカルで多彩な人殺しと闘いの数々は、チャド・スタエルスキ監督の洗練されたアクション演出で芸術の域に達していた。殺を以て生を為す本作はまさに殺人賛歌と言ってもいいだろう。
これほどの芸術作品が完成したのはまさにキアヌ・リーヴスというスター俳優が高いレベルで実現した肉体表現と存在感。そしてチャド・スタエルスキ監督による発想力と熟練の技術が見事に合致したからだ。そのことが『ジョン・ウィック:パラベラム』をハリウッド最高峰のアクションたらしめている。
こんな凄まじいアクション映画はもう二度と見れないかもしれない。いや、きっと見れる。何故ならジョン・ウィック:チャプター4が来るからだ。
やつらは必ず帰ってくる。ジョン・ウィックの戦いはまだ終わらない。
彼の本当の復讐はこれから始まる。
終わりなき殺人賛歌の果てにジョン・ウィックが何を見るのか、是非劇場で目撃して欲しい。

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