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佐伯沙弥香は滅茶苦茶ウインナーコーヒーが好き

前回は『やがて君になる』とHIPHOPの関係性について説明した。
今回は自分が作中で最もリスペクトしている人間、佐伯沙弥香についてだ。

佐伯沙弥香を知らない人もいるだろう。佐伯沙弥香について語るとき、もどかしいのがわざわざ地球上の言語を用いらなければならないということだ。何故なら地球上の言語は感情を出力するのに最適な器官とは言えないからだ。
ただ自分に言えることは、佐伯沙弥香を知る全ての人間が佐伯沙弥香をリスペクトし、純粋に彼女の幸せを祈っているということだけだ。
彼女だけスピンオフ作品があることからもそれは明らかだ。

だが、今回このnote上で語るのは佐伯沙弥香についてではない。そもそも佐伯沙弥香という主語はあまりにも大きすぎる。
目の前に「宇宙について語ります」というやつがいたら誰もが正気を疑うだろう。宇宙はお前が3分で語れるほど矮小なものじゃない。
故に自分が今回語るのは『やがて君になる』7巻に収録されている36話「いつかの明日」の扉絵に描かれている佐伯沙弥香についてだ。
自分は『やがて君になる』につい先週ハマったばかりなので(執筆当時)『やがて君になる』ファンにどういう人がいるのかは知らない。
だが佐伯沙弥香が大勢の人間からリスペクトされているのと、36話が佐伯沙弥香のエピソードとして人気が高いということだけはわかる。これは確信だ。
そんな回の扉絵が最高の佐伯沙弥香の一つであることについて議論の必要はないはずだ(何故なら佐伯沙弥香はいつも最高だからだ)

そんな扉絵佐伯沙弥香からある一つのことがわかる。
佐伯沙弥香はウインナーコーヒーが滅茶苦茶好きということだ。

これが実際の扉絵佐伯沙弥香だ。
この扉絵佐伯沙弥香からいくつかのことがわかる。
まず、季節は冬。そして佐伯沙弥香がいる場所は佐伯沙弥香の自室である。これは原作ファンには言うまでもないだろう。滅茶苦茶リラックスできそうな椅子からもそれは明らかだ。
そして冒頭で読みかけの本が一冊。恐らく評論。個包装されたチョコらしきものが3つ。
佐伯沙弥香は眼鏡をかけており、膝に毛布を乗せウインナーコーヒーに口をつけている。

ここで少し話は変わるが、『やがて君になる』の好きなところの一つは仲谷鳰先生の絵だ。やがて君になるの絵はめっちゃ好き。デザインとかも好きだしキャラクターの表情(とくに佐伯沙弥香の呆けたような横顔)とかもめっちゃ好き。
でも特に好きなのが絵に三次元的な情報があるところだ。
やがて君になるの絵は情報が内在化されているように思える。
具体的に言うとキャラクターの絵を見るとその内側に骨があり肉があることがわかる。その上に服を着ているのがよく伝わってくる。
触れるとどんな肌触りなのか視覚だけでわかる。質感があるのだ。
繊細な心情表現とあるが、そういったものは肉体の実在性が高ければ高いほど伝導率は高く、そういったものが読者の感情移入。あるいは共感に繋がるのだ。
キャラクターがキャラクターが触れるとき、どういった肌触りなのか理解できるが故に触れたキャラクターの心情が純度高く理解でき、そしてキャラクターが触れようとしても触れられない間というのも理解できる。
こういった情報伝達の術は物語から現実への拡張と言ってもいいかもしれない。
簡単に言えば情報がめっちゃ内側にあって共感力もめっちゃやばいという話である。
まあ正直絵は素人なので技術的なことはわからないし、完全に素人考えなので仲谷鳰先生がどういう意図で絵を描いているのかは不明だ。
少なくとも受け手側からすれば明らかに『やがて君になる』の絵は情報が内在化されているのである。

そのことを含めて改めて36話の扉絵を見てみよう。
その絵には情報がある。佐伯沙弥香はウインナーコーヒーを飲んでいる。常に物語がドライブしているやがて君になるにおいて扉絵というのは見落としがちな存在であり、多くの読者は「佐伯沙弥香が自室でウインナーコーヒー」を飲んでいるという印象しか受けないだろう。
しかし佐伯沙弥香が好きな人はこうわかる。「佐伯沙弥香はウインナーコーヒーが滅茶苦茶好き」だと。
まずウインナーコーヒーがどういうものか考えてみよう。
コーヒーの上にホイップクリーム。本格的な店なら生クリームが乗っている飲料だ。
今回佐伯沙弥香が飲んでいるものはホットであるのは言うまでもないだろう。季節は明らかに冬だし、コーヒーカップを使用している。
さて、そこで考えて欲しい。
ウインナーコーヒーは家で作る人はいるだろうか?
当然いるだろう。自分も自宅でチーズティーを作ったりする。岩塩と胡椒をまぶすとめっちゃ美味い。だが自分が自宅でチーズティーを作るのは紅茶が滅茶苦茶好きだからだ。
そこでもう一度佐伯沙弥香のウインナーコーヒーに目を向けて欲しい。大き目のコーヒーカップの上にホイップクリームないし生クリームがきれいに盛り付けてられており、その上にクラッシュナッツが乗っている。
滅茶苦茶本格的なウインナーコーヒーだ。
佐伯沙弥香は滅茶苦茶本格的なウインナーコーヒーを自宅で再現しているのだ。
普通、ウインナーコーヒーを作ろうとしてもクリームが崩れてしまったりするし、ナッツとかひと手間加えるのを忘れる人も多いだろう。
だが佐伯沙弥香のウインナーコーヒーはお店のように整ったクリームが乗っいるし、クラッシュナッツが適量まぶしてある。
完全にウインナーコーヒーを日常的に作っているクオリティだ。自宅でお店のウインナーコーヒーを完全再現してしまっているのだ。完全にオタクだ。
だがこれだけでは佐伯沙弥香が滅茶苦茶ウインナーコーヒーを好きだという説得力に欠けるだろう。何故なら家族が作ったものという可能性があるからだ。
しかし、それもまたこの扉絵の状況によって否定できる。
扉絵の佐伯沙弥香はゆったりした服装に眼鏡をかけており、ひざ掛けをひざに乗せている。
座り心地の良さそうな椅子の傍には台座があり、そこには読みかけの本と個包装のチョコレートがある。
このことから扉絵の佐伯沙弥香はかなり計画的なリラックス状態にあると言える。
冒頭で読みかけの本はこの日のために新しく購入しておいたことが容易に想像できる。本の置かれた台座は今までの部屋の描写からこのためにわざわざ移動させたことがわかる。
全てが計画的リラックス状態であることを示している。そのことからも手元のウインナーコーヒーもこの日のためだけに用意したのは明らかだ。
少なくとも佐伯沙弥香が自身のリラックスタイムのために「おかん、リラックスしたいねんけど、ウインナーコーヒー作ってくれへん?」と言うタイプではないのはご存じの通りだ。佐伯沙弥香は自分のリラックスタイムの時は自分でウインナーコーヒーを淹れる。それは間違いない。
これでこのウインナーコーヒーを佐伯沙弥香が淹れたことが証明された。
佐伯沙弥香はかなり用意周到な計画的リラックスタイムに、わざわざ生クリームを購入(生クリームは消費期限が短いので明確な用途を以て購入)し本格的なウインナーコーヒーを淹れるのだ。
それは佐伯沙弥香が滅茶苦茶ウインナーコーヒーが好きだという証明外ならない。
恐らく前々から天気を確認し、気になっていた本を購入し、ゆったりとした服装でゆったりとした椅子に座り、ウインナーコーヒーを飲む。それが佐伯沙弥香の最高にリラックスした過ごし方なのだ。

実際、仲谷鳰先生がどれくらい意図してこの絵を描いたかは不明だ(少なくとも計画的リラックスタイムはかなり意図的だと思う)。
もしかしたら軽い気持ちで本格的なウインナーコーヒーを描いたのかもしれないし、佐伯沙弥香はウインナーコーヒーが滅茶苦茶好きだと食い気味に描いたのかもしれない。
仲谷鳰先生曰く「やが君世界がどこかに存在し、自分はそれを受信しているだけ」という感覚があるという。
無論、やがて君になるは仲谷鳰先生が創出した物語である。
しかし先述したように『やがて君になる』の絵は情報が内在化された絵であり、その内側を覗こうとすると一種の集団幻覚じみた情報が共有されるようになる(今回でいう佐伯沙弥香はウインナーコーヒーが滅茶苦茶好き)。それは言ってしまえばかなり宗教的なので、まあ一種の世界の創出と伝播と言ってしまっても差し支えないと思う。
そうやって世界は拡張されているのだと思う。

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