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ドニーさん無許可最新作『アイスマン 宇宙最速の戦士』感想

もしこの映画のプロットが理路整然としたものに感じられたのだとしたらそれは幻覚だ。
今すぐ睡眠をとるか、もしくはクスリを断ったほうがいい。

アイスマン 宇宙最速の戦士(2019/中国・香港)

このポスターのヤケクソ気味を見て既にお察しの人もいるだろう。
『アイスマン 宇宙最速の戦士』の出来は破滅的だ。そこにおおよそ理性や論理といったものは存在せず、脈絡のないエンタメが虚無的に供給される。

断っておくと、自分が宇宙で一番好きな俳優はドニーさんことドニー・イェンだ。何故ならドニーさんは最高だからだ。だがドニーさん好きによるドニーバイアスがかかってもなお本作の出来は破滅的だった。

そもそも『アイスマン 宇宙最速の戦士』は曰く付きの作品だ。
本国ではドニーさんが公開許可を出していないにもかかわらず、製作側が一切のプロモーションをせずに公開。結果興行収入は爆死。それで何を思ったのか製作側は全責任をドニーさんに擦り付ける3つの声明を発表した。
それに対して至極真っ当な怒りを露わにしたドニーさんは20個の反論を徹底的に述べた後、「そもそもお前ら映画のギャラ払ってないじゃん」と締めくくった。
これが『アイスマン 宇宙最速の戦士』公開時の経緯だ。
すでに1ミリも理性を見出せない製作側の胡乱ぶりだが、まだ映画本編の内容について一つも言及していないのでできればついてきて欲しい。

※ちなみにこの記事にはネタバレが含まれているが、ある程度内容を知っておけば支離滅裂な本編の内容を比較的理解しやすくなるので親切心として受け取ってほしい。

前作の簡単なあらすじ

明朝の忠実な錦衣衛だったドニーさんは反逆者に仕立て上げられたあげく、長野のスキー場でスキーをして氷漬けになる。この時、反逆者のドニーさんを追って一緒にスキーしたのが錦衣衛のユー・カンとワン・バオチャンで、彼らもついでに氷漬けになった。ちなみにこの二人とドニーさんは幼馴染だ。
そして時が進み、現代の香港で解凍されたドニーさんはサイモン・ヤム率いる香港警察を屁で撃退しながらヒロインと現代香港を満喫する。
そんでややあってユー・カンとワン・バオチャンと戦ったドニーさんは最終的に川へ飛び込んで行方不明。ヒロインと離れ離れになる。
ちなみにサイモン・ヤムは実はドニーさんの幼馴染の錦衣衛で、ドニーさんが持ってるタイムトラベルができるアイテム、リンガ(シヴァの性器)を狙って色々陰謀を巡らしていたとさ。

今作の簡単なあらすじ

前作で敵だと思っていたサイモン・ヤムだけど実は敵じゃなくて、ユー・カンとも誤解が解けて仲直りした。そんで仲良く明朝の時代に帰ろうとしたけどやっぱりサイモン・ヤムは敵で時間を支配しようと目論んでいた。ちなみにヒロインとはいつの間にか再会していた。あとワン・バオチャンも気が付いたら死んでいた。
ドニーさんはサイモン・ヤムの陰謀を止めるためなのか過去に滅ぼされた故郷を救うためなのかよくわからないけどとにかくヒロインと一緒に過去へ飛ぶぞ。

かんそう

これほど自分に理性があることを感謝した日はない。人は喪われて始めてあるがままがあることに感謝する。『アイスマン 宇宙最速の戦士』に理性といったものは存在しない。そこにあるのは胡乱な製作とストーリーライン。そして理性が蒸発した登場人物たちだけだ。

本作で陰謀を巡らす悪役を演じるのは名優サイモン・ヤムだ。彼はリンガ(シヴァの性器)と呼ばれるタイムトラベルアイテムを手に入れて時間を支配しようと企んでいる。
だが理性や思考といったものを乳母車に置いてきた彼の行動を理解するには、我々もまた思考を放棄しなければならない。

ドニーさんを裏切ってリンガを手に入れたサイモン・ヤムはドニーさんからタイムトラベルするための呪文を聞き出して明朝の時代へと飛ぼうとする。
その際、ほっとけばいいものを何故かドニーさんを射殺しようとするサイモン・ヤム。
だが失敗してうっかりリンガを手放してしまう。
なんでドニーさんを撃とうとしたのかマジで意味不明だし(ほっとけばドニーさん現代香港に取り残されるというのに)そのおかげでドニーさんもタイムトラベルできるし、本当に時間を支配する気があるのかと問いたくなる。あとなんでリンガを手放したのかもよく分からない。

だがサイモン・ヤムのアホっぷりはそれだけに留まらない。
終盤再びタイムトラベルを試みようとしたサイモン・ヤムは何故かドニーさんを誘い出して呪文を聞き出そうとする。だが呪文を言おうとしないドニーさんにしびれを切らしたサイモン・ヤムは何を思ったのか水平二連ショットガンでヒロインを射殺する。
そう、サイモン・ヤムはドニーさんの呪文を覚えてすらいなかったのだ。
本当に時間を支配する気があんのか。メモをしろメモを。

だが、どういうわけかサイモン・ヤムの陰謀はとんとん拍子に進行する。何故ならドニーさんにも理性がないからだ。
本来だったらタイムトラベルした時点でサイモン・ヤムのところへ行ってぶん殴るべきなのだが、どういうわけかドニーさんは生まれ故郷に行ってそこでラブラブ三角関係を満喫する。
故郷の許嫁風幼馴染と現代香港で出会った仲良しヒロイン。そして美しすぎる錦衣衛2019ドニーさん。脈絡なく流れるふんわりバラード。
俺は一体なにを見ているんだ?
こうして村で三角関係を満喫したドニーさんはサイモン・ヤムにまんまと嵌められて(今更嵌める必要があるとは思えないが)反逆者に仕立て上げられる(今更反逆者に仕立て上げる必要があるとは思えないが)
そして倉田保昭率いるサムライっぽい何かによって故郷はあっさり虐殺される。女子供からドニーさんのオカンを含めて全部だ。何故そんなことをする必要があるかはよくわからないがとにかく虐殺される。
当然許嫁風幼馴染も殺される。ついでにワン・バオチャン(過去)も殺される。そんで最終的にヒロインも殺される。
恐らく、その方が脚本的にエモーショナルになると思ったからみんな殺されたんだろう。
でも破滅的な脚本に冒頭から置いてけぼりを食らっている我々としては「ウワッ、ヒロインが死んだ」くらいにしか思えない。
もう言うまでもないだろうが、それくらい宇宙最速の戦士は破滅的な映画だった。

良かった点

こんな破滅的な映画にも素晴らしい点はある。あんまり悪いところばっか言ってもアレなので、ちゃんと良いところも紹介する。

脈絡なくエンタメが供給される
一見悪い点に感じるかもしれない。まあ悪い点ではあるのだが、他が破滅的すぎると脈絡のないエンタメは良い点に映る。
特に最高だったのが過去に飛んだドニーさんとヒロインが脈絡なく大戦中の日本軍をボコって中国を救うシーンだ。
本当に脈絡なく日本軍をボコるので最高だ。そのときのドニーさんとヒロインのアクションもエンタメ性があって良い。

ドニーさんのドニードニーランド
そう言ったのはドニーさんフリークとしても有名な飯星景子さんだ。

まさしく、この映画は重度なドニーさんオタクが堪能できるドニーさん映画だ。三角関係に揺れ動く(言うほど揺れてないけど)ドニー王子を堪能しよう。ドニーさんは最高だ。

ドニーさんの中指
一応タイムトラベルものなので一応ふんわり哲学が語られたり語られなかったりする本作。
その極めつけがサイモン・ヤムとドニーさんの会話。
「お前は未来の香港で何を学んだんだ!」とキレるサイモン・ヤムに対して、「俺が香港で学んだのはこれだ!」と中指を立てる。
最高だった。

VS倉田保昭戦が最高
これは本当に誉めさせて貰う。和製ドラゴンこと倉田保昭のアクションはマジで最高だった。
ドニーさんと共演する機会はあったものの、戦ったこと自体はなかった倉田先生。そんな二人による初めてのガチンコバトルをこの映画で拝めることができる。
もうそれだけでこの映画を見て良かったと思える。他が破滅的すぎるのでよりそう思える。マジ最高。
アクション監督はドニーさん組のイム・ワー。高速剣劇の応酬が脳に効く。

まとめ

いやー酷かった酷かった。酷いなりに楽しみはしたけど本当に悲惨な映画だった。
ちなみに映画は最終的にドニーさんが概念的宇宙最強に目覚めて終わる。
何を言っているのか分からないかもしれないけど、本当にそういう終わりを唐突に迎えるのでそうとしか言いようがない。信じて。
もしクスリをやっている人がいたらどうかこの映画を見て欲しい。そして正常な人ですらどこまで破滅的になれるかを知ってクスリをキッパリやめて欲しい。
そうすればこの映画にも生まれた意味があったというものだ。

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