12星座の話-その12:山羊座

射手座の次にくるのが、山羊座です。

射手座は、旅する星座です。
真理を求めて、どんな遠くにでも自由に出かけていくことができます。
射手座の家は、船です。地面に縛り付けられてはいません。

でも。

遠く出かけて手に入れた真理は、いったい、何の役に立つでしょうか。
冒険で素晴らしい宝物を手に入れたら、そのあと、どうすればいいのでしょうか。
ディズニーランドの「カリブの海賊」というアトラクションのなかに、金貨の山の上に座るガイコツがあります。
金貨は、洞窟の中に入れたままでは、たんなる物質でしかありません。ガイコツ同様、「死んだ」状態です。

射手座が遠く冒険して見つけてきた宝物、それを運んでいく先が、山羊座です。
山羊座の占いを見るとしばしば「現実的」「マジメ」「努力家」等と書かれています。
山羊座生まれの人々はそれを見て「当たってない」と思うことも多いようです(これは12星座全てに言えることでもありますが。。)
「私はそんなに努力家でもマジメでもない」というご意見を、当の山羊座生まれの皆様から、しばしば頂いたことがあります。
「努力家、マジメ」というのは、星占いにわくわくする乙女にとっては、甚だ味気ない属性です。従って、山羊座であるということは「ハズレ」みたいな感覚で受け取られることもあるようです。

ですが実際の山羊座生まれの方を見ると、「マジメで努力家」という陰気なムードの人は、あまりいません。
むしろ、行動的でシャープ、明るくて、だれをも楽しませる「十八番」を持っているような、パワー感の強い方が多いようです。

山羊座は、物事の価値を知る世界です。
価値とは「人間のなかにうまれる思い」です。
人間が心地よいと思う、人間が美しいと感じる、人間が喜ぶ、人間が満足する、人間が欲望する。
それが「価値」です。
射手座が遠くジャングルに旅して手に入れた「真理」を、山羊座は家に持って帰って、家族のためにちゃんと使いこなすことができます。
金貨の山をガイコツになって守り続ける、などということは、山羊座の世界では絶対にあり得ません。(もとい、大地の星座であり時間の星座でもある山羊座に、「金貨」と「骸骨」は、大変につかわしい「シンボル」ではあるのですが!)

「宝くじが当たった人のためのマニュアル」というのがあるそうですが、それを作れるのが山羊座の才能です。
山羊座が「現実的」と言われるのは、決して無味乾燥なことではありません。
金貨の山の上でガイコツになるのが、「空想的」な人です。
金貨の山を切り崩して、自分や周囲の人の喜びが生まれるところまで行動するのが「現実的」な態度です。山羊座の「現実」は、幸福です。

山羊座の世界には、もうひとつの重要な課題があります。
というのも、「自分さえ幸せならいい」では、山羊座はおさまらないのです。
12星座、ここまでのプロセスを考えるとそれがイメージできます。

牡羊座からスタートしたとき、人は「自分1人」でした。そこから蟹座までは、あくまで「自分」が核となって物事が動いていきます。そして、獅子座から蠍座までのあいだでは「他者」が問題になってきます。「自分以外の誰かと、自分」という構図が生まれます。そして、射手座の段階になると「多くの人々」「社会」が見えてくるのです。

山羊座は、「お城」あるいは「城下町」です。
城には王家のご家族の他に、たくさんの関係者が住みます。そこにひとつのコミュニティ、社会ができあがります。さらには城を中心として町があり、国ができています。「たくさんの人が人間として幸福になる」。
これが、山羊座のテーマなのです。

山羊座の管轄には、「組織」「古いもの」「建築」「伝統」「権威」「土地」などが入っています。一見、重くて暗い感じがしますが、実はこれらはすべて「多くの人の居場所」を支えるものです。
多くの人を生かすようなものは、一朝一夕には作れません。
さらには、今日できて明日ダメになってしまうような、ヤワなものではいけないのです。

人は、安定した生活を望みます。日々、生活を生産し再生産するための「場」を必要とするのです。それこそが山羊座のテーマです。

「人間は社会的動物である」と、よく言われます。
自分一人で生きていると思っても、実際は非常に多くの人の手を借り、また、手を貸して生きています。他者と関係することで、人間は生活を手に入れます。
山羊座の管轄はインフラだけではありません。
「他者と関わり、みんなで幸せに暮らす」こと、その内容自体に関わっているのです。
インフラは山羊座にとって、目標ではなく単なる手段です。テントで幸せならテントでいいのです。ただし、そこでは一族郎党が相当に幸せでなければならない、という条件が付いているのです。

山羊座は地の星座ですので、五感が優れた人が多いようです。従って、アーティストもたくさんいます。「マジメで努力家」とは、芸術家のイメージとは少しずれていますが、実際にはそういう性質が一番必要なのが、アートの世界なのかもしれません。

マジメさや努力も、山羊座にとっては「手段」です。山羊座がもとめているのはあくまで、充足や安全、幸福、感動など、実質的な「価値」です。

星占いに山羊座の「性格」が書かれるとき、そこには外から見てわかりやすい「手段」ばかりが書かれているように思えます。
でも、山羊座が見つめているのはあくまで「目標・成果・結果」であって、手段は手段でしかありません。もし、努力など一切しないでも結果を出せる方法があれば、山羊座の人々は迷わずその簡単な方法を採用し、努力などほうりだしてしまうはずです。

山羊座は、感覚の世界です。
ゆえに、山羊座の星の元に生まれた人には、「頭でっかち」が少ないように思われます。
「教科書を読むより、体当たりで飛び込んでみたほうが早い」と感じる人が多いのです。
体験、実感を重んじるため、その仕事や作品、成果は、とても「実」に富んで、濃密です。「実用的」というのは、それを用いたときに快さが最大になる、ということです。

社会的なパワーも、人の安定や幸福を支えるので、見た目を気にする山羊座も少なくないことは事実です。
ただ、目指しているのはあくまでも「幸福」なのです。

山羊座はとても優しい星座です。
みんなが本気で幸せにならないとダメだ! そのためには具体的に動かないとダメだ! と、真剣に考えているのです。

山羊座は、「祈っておしまい」ということがありません。なにかしないと、気が済まないのです。ですから山羊座の人は、頼りになります。相手がほんとに幸福になるかどうかを、シビアに考えるからです。

現実の中で、その人が幸せにならなければ意味がない。
山羊座の「まじめさ」とは、そういうことなんだろうと思います。これは、まじめさというよりも、優しさや愛という言葉に近いものだと私は思います。

大きな会社組織を評するとき、しばしば「歯車」という言葉が出てきます。「それ単体ではとても単純で意味を成さないけれど、そこになくては困るもの」「でも、いくらでもあってとりかえがきくもの」という意味で使われます。
山羊座の世界の倫理をつきつめていくと、個人のユニークな欲求や、人と自分の違いを強調することなどは、回避されなければならなくなります。
国を守るために、政略結婚で恋を踏みにじられるお姫様も、ときに、生まれてしまいます。
山羊座的な愛や優しさは時々「こうでなければならない」という縛りを生み出します。
本来、みんなの幸福のために作られたルールが、逆に誰かの不幸を産んでしまうことがある。山羊座の人自身が、それに苦しむことも多いようです。

誰かを幸せにしたくて決めたことが、自分の首を絞めてしまう。何かを大事にして尽くしたあまり、自分の望みを見失ってしまう。
「やさしくてまじめな人ほど鬱になりやすい」と言われますが、山羊座の世界を歩み続け、自分に厳しくしすぎると、そんな面があらわれます。
さらには、優しさやまじめさに行動力と馬力がついて回るので、ケガも大きくなりやすい、と言えるかもしれません。

時々、おかしいほどに「自分はイイカゲンだ」と言う山羊座の人もいます。これは、周囲にそう思わせ、自分でもそう思いこむことで、自分を縛り上げてしまうことを防止しようとしているように思えます。「自分くらいちゃらんぽらんな人間はいない」と言いまくり、自分を説得しておくのです。これは、自分を縛らないようにする警戒であると同時に、「現実的な結果を出さなければならない」という強烈すぎる意識から自由になりたいという思いのあらわれなのかもしれません。「結果を出さなければならない」という山羊座的な目的意識は、闘争心ではなく、恐怖心に近いものであるようです。

みんなの安定した幸福のために、ヒエラルキーを作り、しっかりした城を作ってそこに住む。人は集まって暮らした方が安全ですし、基本的には、豊かになります。広い畑を手分けして耕し、山ほど生産して、思い切り食べることができます。これはすべて「人々を守る」「自分を守る」発想から生まれます。厳しい冬の気候から、人々の生活を守るには、やらなければならないことがたくさんあります。山羊座の発想の源は「防衛」なのです。

「個人を守る」ための人間集団、守る為の組織。この組織を大事にしていくと、どこかで、最初は「個人のための組織」だったものが、いつのまにか「組織のための個人」に変わってしまいます。人のためのルールが、時間が経つと、ルールのための個人を生むのです。

ここで、水瓶座への飛躍が起こります。


(「筋トレ」メールマガジン(2007/2/28号)から改稿)