見出し画像

「後ろでボール回していてもお客さんは増えないよ」。安間貴義監督に学んだ、机上の理論に縛られない発想力。

 僕が好きなものとか「面白いな」と惹かれるものって、その根底にあるのは、だいたい「発想力」なんですよ。

例えば、松本人志の笑いの何が好きかというと、やはり松っちゃんのボケの発想が好きですし、記念すべきクラブ創立20周年となるシーズンに、なぜか宇宙に目を向けてJAXA(宇宙航空研究開発機構)や超人気漫画「宇宙兄弟」とコラボした企画を打ち上げてしまう川崎フロンターレというサッカークラブの発想も好きですね(笑)。

サッカーの試合でも同じで、プレーの発想が面白い選手が好きですし、面白い発想でチームを作る指導者も好きです。

教科書に則したセオリーはもちろん大事です。でも、「こうしたほうが面白くない?」という発想で、セオリーから外れるアイディアにどんどんトライしちゃう人は僕にとっては魅力的なんですね。

サッカーの現場で取材していて「頭の中が面白いなー」と思った指導者がいます。一人が、このメルマガでも過去に紹介した大木武監督です。

普通、戦力的に劣るチームを指揮する時は、「弱いから守る」という弱者の発想でチームを強くしていくんですけど、「ウチは引いても守れないんだから、攻めるしかないだろ」という逆転の発想でヴァンフォーレ甲府を初のJ1昇格に導いた話は、以前、このメルマガで書いた通りです。

 そしてもう一人が、今回紹介する安間貴義監督です。
大木武監督の甲府退任後、その後を継いだのがコーチだった彼でした。当時の僕はサッカー専門新聞エルゴラッソで甲府担当の番記者で、2008年と2009年の2シーズンたっぷり取材させてもらいました。

大木さんが親分肌というならば、安間さんは兄貴肌といったタイプで、練習が終われば、選手からイジられることもたびたび。物腰が柔らかくて親しみやすく、取材にも毎回丁寧に応じてくれる方でした。

指導者のキャリアとしては、JFLのHondaFCからスタートし、ヴァンフォーレ甲府の他にはカターレ富山で監督を経験。昨年からはFC東京でトップチームのコーチをしており、今年はJ3リーグに参戦するFC東京U-23の指揮を執るようです。

で、安間さんの何が面白いかというと、やっぱりその発想なんですよね。サッカーの捉え方がとても独特なんです。

彼のぶっ飛んだ発想例の典型をあげますね。

サッカーって11人対11人でプレーするスポーツじゃないですか。

当たり前ですよね。そういうルールですから。

でも、あるときの練習後の囲み取材で、安間さんがこんなことを言い出したんですよ。

「11人でサッカーをしていると決め付けるからよくないのであって、12人で戦っているように相手に見せるにはどうすればいいんだろう?って思うんですよね」

最初、聞いたときは言葉の意味がよくわからなかったです(笑)。

だって世界中の監督というのは、「どうすればピッチにいる11人が効果的に機能するのか」ということで、そのポジションや配置などいろんな戦略を考え、日々頭を悩ませているわけですよ。そこでプロの監督が「サッカーって12人でやれないかな?」と、小学生みたいな願望を大真面目に言い出したわけですから。

当たり前ですけど、12人でサッカーをすることはできません。

でも安間さんが考えていたのは、実際に12人でするのではなく、12人でサッカーをしている「ように」、相手に思わせることでした。

もっと噛み砕いて言えば、ピッチで対戦している相手選手が「あれ?こいつら、ウチより一人多くねぇか?」と数的不利を感じるようなサッカーの戦い方、というわけです。

そして「例えば、運動量をもっと増やして、選手の配置やポジショニングをうまく工夫すれば、相手からは一人多いように見えるかもしれないですよね」と言って、僕の取材ノートにいろんな配置パターンを図で書きながら、具体的な戦術についてもレクチャーしてくれるんです。

そして「こんなことを夜に考えていたら眠れなくなって、気づいたら朝の練習時間になっていたんですよ」と笑ってましたからね。

なお、そこで話してくれた戦術は、実際のJリーグの試合でちょちょい導入してましたからね。なんて◯◯な・・・いや、面白い人だ、と思いましたよ(笑)。


とにかく普通ではない発想をする指導者だと思うんですけど、そういう発想をするようになったルーツをたどっていくと、やはり自身のキャリアにあるそうです。

ここから先は

2,490字

¥ 100

ご覧いただきありがとうございます。いただいたサポートは、継続的な取材活動や、自己投資の費用に使わせてもらいます。