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12月の等々力で観た景色を忘れない。 (リーグ第34節・大宮アルディージャ戦:5-0)

 等々力競技場での大宮アルディージャ戦は5-0で勝利。

優勝の決まるラストプレーは、長谷川竜也がカウンターで持ち込んで決めたゴールシーンでした。そのセレブレーションの間に、スタンドからベンチに鹿島のドローが伝えられると、一斉に喜びが爆発。ピッチ上の選手たちにも歓喜の瞬間が訪れました。

 サポーターの、言葉にならないような喜びの声が漏れる等々力。

 大逆転での優勝です。それもリーグのチャンピオン。すぐには信じられないけど、やっぱり夢じゃない。だって、目の前には次々とサポーターの思いのこもった青覇テープが舞っているのだから。僕はこの光景を一生忘れないと思います。

 優勝が決まったインタビューでキャプテンの小林悠が言います。

「個人の成績よりもタイトルが嬉しい。元日から始まってACLの負けもルヴァンの負けも、この優勝のためにあったと思う」

 一年間を通して戦い、1チームだけが祝福されて、そしてすべてが報われる。それがリーグチャンピオンになるということです。

 今シーズンは、53試合もの公式戦を戦いました(元日の天皇杯決勝はのぞく)。

 文章にすれば、ほんの一行ですが、53試合は一度にこなせません。

2月にACLの水原三星戦で開幕して、大宮アルディージャ戦でJリーグが開幕して・・・と、1試合1試合を大事に大事に戦って、鬼木フロンターレはチームとしての幹を太くしてきました。ACLでは浦和レッズに大逆転負けをしたり、ルヴァンカップ決勝でタイトルを逃すなど、本当に悔しい思いも噛み締めながら、最後まであきらめずに進んできました。

 特にルヴァンカップ決勝からのラスト3試合は、引き分けすら許されず、3連勝するしかない状況。ガンバ大阪戦と浦和レッズ戦と薄氷を踏むような思いで1-0で勝ち切って迎えた最終節。そんな一戦に向けて、中村憲剛は過去の歴史との決別を口にしていました。

「2009年は一回負けたし、残り3試合で(鹿島に)ひっくり返された。今回はずっと負けていない。でも、それは随分前の話なので。その時のメンバーもいないし、あまり過去に引っ張られる必要はないと思います。今年に関しては、自分たちで新しいものを切り開いてきた。そこは自信を持っていいと思います。ここまできたら頑張らない選手いないし、そういう見えない連帯感もある。それは試合に出ている選手だけではなく、出ていない選手にもある。みんなで積み上げてきた勝ち点だと思う」

 そして優勝が決まった瞬間、ピッチに目を移すと、このバンディエラは、その場に泣き崩れて、しばらくうずくまっていました。このときの自分の表情を映像で見た本人は、「酷い顔だった。俺もあんな顔をしてるとは・・・」と照れて笑ってましたが、本当に嬉しくて泣いてしまう瞬間、人ってこんな顔になるんでしょうね。川崎フロンターレというクラブで、15年間、ずっと特別な思いを背負って来た彼の全てが報われた瞬間でした。

 それに、初優勝の舞台を等々力競技場にしてくれるなんて、サッカーの神様も粋ですよね。

 思えば、優勝が決まる可能性があった2008年も2009年も、最終節はアウェイでのゲームでした。2008年は味の素スタジアムで東京ヴェルディ、2009年は日立台サッカー場で柏レイソル。今年の元日の天皇杯決勝も、11月のルヴァンカップ、過去のナビスコカップ決勝も、当然ながら、舞台は等々力ではなかったわけです。

 優勝の可能性があった去年の1stステージ最終節は、対戦相手が大宮アルディージャ、鹿島アントラーズの結果待ちという、今回とまったく同じシチュエーションでした。でもあのときは朗報が届きませんでした。サッカーの神様が「まだだな」と言っていたのかもしれません。中村憲剛が言います。

「どのタイトルも価値はあるし、どれも嬉しかったと思う。でも等々力で優勝できたのがうれしい。アウェイで優勝できても、きっとうれしかったんだろうけど、等々力で決められたのが格別だった」

 やっぱり、すべてはつながっているのだと思います。

では、今回のレビューです。ラインナップはこちら。

1.「嬉しいというよりもほっとしている。あれだけでかいことを言いましたし(笑)」。電光石火の先制弾を決めた阿部浩之。タイトル獲得の重要なピースになった彼が、この試合でゴールを決めること以上に意識していたこととは?

2.「正直、あの1点で慌てる必要がないと思ったし、少しのんびりでも良いかなと思っていた。ただ監督は2点目、3点目を狙うことを言っていました」(大島僚太)、「1点取ったことで心理的にも落ち着いてしまった。それは仕方がないのかなと思いながら、失点せずに進めることにしていました」(谷口彰悟)。攻めるのか、守るのか。予想外に膠着した前半の原因を検証する。

3.「絶対に守りたかった」(チョン・ソンリョン)。勝敗が決していても、最後までクリーンシートにこだわった守護神。そして彼が日本のクラブでチャレンジした理由とは?

4.「勝ち数とか勝ち点とか得点、失点を見てもギリギリの戦いだった。だいぶ神経をすり減らしながらやっていた」(奈良竜樹)。張り詰めた戦いの中で、クラブ史上最少失点を記録した守備陣たちが探し続けた最適解。

5.「(3点目は)信じて(クロスを)出しました。(中は)見ていなかったけど、ユウが見てくれていた」(家長昭博)、「アキくんが『ユウならば絶対にそこにいると思った』と話してくれた。アキくんに感謝したいですね」(小林悠)。リーグ最終盤に見せた、家長昭博と小林悠による阿吽の呼吸。

6.「やることはやったよ」。スコアレスドローに持ち込んだ前節鹿島戦後、リオ五輪の盟友・中村航輔から大島僚太に届いたメッセージとは?

7.「最悪のスタートで最高の終わり方だった」(田坂祐介)、「別の意味で看板選手になった」(登里享平)、「2007年から青いテープを投げ入れる光景を待ちわびていた。ただただ嬉しいですよ。その一言に尽きます」(井川祐輔)。タサ、ノボリ、イガ。古参たちが語った初タイトルの味。

8.「自分がいなくなったあとに、あっさりと優勝してしまうのかなと思った。自分がいる間に優勝できたのはすごくうれしかった」(中村憲剛)。フロンターレの象徴であるがゆえの苦しみ。そんなバンディエラが、逃げず、立ち向かい、そして乗り越えてきたもの。

 以上、8つのポイントで全部でなんと15000文字です。1500じゃないですよ、15000文字です。もちろん、過去最高のボリュームです。何も言いません・・・買って読んでください!

なお、プレビューはこちらです。➡️試合をディープに観戦するためのワンポイントプレビュー(リーグ第34節・大宮アルディージャ戦)

では、スタート!


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