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スラムダンクの新装再編版を語る〜第10巻:常勝チーム・海南は、勝つべくして勝ち続ける。そして湘北の未来が垣間見れた5対5のゲーム。

新装再編版「スラムダンク」を語る。今回は第10巻のレビューです。

タイトルは 海南大付属VS.陵南
#134 ボーズ頭の逆襲 から #148  オヤジ までの15話の収録です。

 インターハイ予選・決勝リーグの第2戦。1勝同士で迎えた海南大付属と陵南の対戦を描いています。

 まずは表紙の考察から。

 上半身裸でゴール下のシュート練習をしている桜木花道です。

帯コメントは「まだ明日まで時間はある。特訓あるのみ!!」

武里戦当日の朝に、ゴール下のシュート練習の200本の自主特訓を行って遅刻しましたが、そのときの一コマですかね。ただ本編の85ページの扉ページと比較してみると、この表紙イラストはこのときの公園とは違う場所っぽい印象も受けますが。

 では本編を。
この10巻は、スラムダンクの中では、ちょっと異質と言えるかもしれません。というのも、主人公チームである湘北高校ではなく、海南大付属高校対陵南高校という敵側のチーム同士の対戦がメインで描かれている巻だからです。

 井上雄彦先生が、水島新司先生の「ドカベン」の大ファンで、マンガ家を志すきっかけになったのもドカベンだったというのは有名な話です。「影響というか、血ですね。血が流れている」(「漫画がはじまる」より)というほどです。ドカベンでもあった敵側のチーム同士の対戦を描いてみたかったと、何かのインタビューで語っていた記憶があります(記憶曖昧)。

 たいていの漫画ならば敵対敵の対戦は2〜3回ぐらいで決着をつけてしまうものですが、この海南大付属対陵南は9回に渡って描かれています。つまり、少年ジャンプの連載で言えば、2ヶ月以上に渡って掲載されていたことになります。しかも、そのうちの一回は巻頭カラーですからね(#139 陵南の挑戦)。人気連載だからこそ成せたとはいえ、週刊連載で主人公の活躍しない試合をこれだけ長く描くのは珍しいですね(丸コマで花道も文句を言ってますが・笑)。

 とはいえ、その影響で湘北のメインキャラクターたちが脇役に徹しているところもありますし、ちょっと違う日常が垣間見れたります。

 例えば、試合に向けて疲れを残さないためにと行った1年生対2・3年生チーム5対5のゲーム。このゲームで花道の課題が三井によってあぶり出されて、ゴール下のシュート特訓につながるわけですけど、この1年生対2・3年生のゲームの光景が、ちょっと興味深いんですね。

 というのも、花道と流川以外の桑田、石井、佐々岡という1年生トリオのプレーもコートにいてプレーに絡むわけですが、そこから未来(2年後)の湘北がちょっと垣間見れる感じがあります。

 例えば流川と花道は、プレーエリアがかぶってもどちらも我を出して決して譲らない・・・3年生になっても、試合中はそういう関係だろうなと思ったり・笑。ポイントガードの桑田がゲームメークに迷っているときには、石井が積極的に声を出す木暮くん的な役割になっています(あとで花道に殴られてますが)。

 こういう関係性を想像するとなかなか面白いです。なおこのゲームでも、佐々岡だけはまったく絡んでこないので、この影の薄さは切ないものがあります。

(※読者プレゼントのテレホンカード。貴重な1年生だけのイラストです)

 そしてサラッと描かれる湘北の武里戦。
この試合は負傷明けのゴリを早々に下げて温存し、さらに桜木は寝坊で不在。

 三井、宮城、流川の3人が中心に戦いつつ、試合終了後のベンチ前では角田と安田がユニフォーム姿で喜んでいるので、タイムアップの時には彼らがコートに立っていたものと思われます。

 花道が到着してゴリに怒られている時、ベンチにはユニフォーム姿の8番も確認できるので、塩崎も出ていたようですね。あとこのコマでは佐々岡もタオルを肩にかけていたので、もしかしたら短い時間出場したのかもしれません。

 さてメインとなる海南対陵南戦ですが、この試合では陵南の秘密兵器・福田吉兆が出場し、得点源として活躍します。顔のモデルは、ミュージシャンの槇原敬之ですね。神宗一郎から「フッキー」と呼ばれているので、マッキーこと槇原敬之をイメージしているのは間違いないと思います・笑。

 試合の焦点は、牧紳一対仙道彰による神奈川ナンバーワンプレイヤー争いとも言えます。周りの持ち味を出すことでチームを機能させていく仙道と、自らが強引に仕掛けることがチームの戦術になる牧。プレースタイルの対局的な両者が、激しい主導権争いをしていきます。

 漫画的なことを言えば、物語序盤から登場していた陵南の仙道彰を、インターハイ予選の最終戦でよりラスボスとしての存在にして湘北と対戦させたかったのだと思います。試合は海南が競り勝ちますが、「このとき、牧は仙道が自分の地位まで昇ってきたことを確信した」というナレーションを入れることで、仙道を神奈川ナンバーワンの牧と同格レベルに引き上げることに成功してますね。

 なによりこの試合を通じて興味深かったのは、チームとしての経験値の差です。

 常に挑まれる立場である海南は、過去に様々な奇策や奇襲を受けてきたのでしょう。試合開始早々に判明した仙道のポイントガード起用について、海南の高頭監督が言います。

「奇策と言われるあらゆる作戦・・・そのほとんどは、相手のことを考えすぎて、本来の自分たちを見失ったにすぎない」

 ところが。
一見すると奇策に見えた作戦ですが、陵南の田岡監督にとっては、入念に準備していた秘策でした。この戦法が陵南は面白いように機能し、海南を圧倒していくんです。

 しかし海南の高頭監督もさすがで、すぐにこの「仙道のポイントガード起用」の戦法の優秀さを認めて、タイムアウトを取って選手たちに指示を出します。

 ただし、特別な陵南対策は打ち出していません。
そうではなくて、最後は「今日も いつも通り攻めてこい」と言って選手たちを送り出します。多少の劣勢を招いても慌てず、しっかりと立て直す。そして「横綱相撲」を指示できる海南のスタイルを垣間見れる一コマです。

 その後も陵南の勢いは止まらなかったものの、清田信長のダンクで流れが変わると、神奈川の王者・海南が巻き返し。一方で陵南は、事前のプランが試合運びがうまく機能しなくなると、交代も含めて後手に回ってしまうモロさを露呈していき、チームとしての余裕もなくなります。

 例えば、マッチアップしている高砂一馬について、2メートルセンターの魚住純は「こいつ・・・!!パワーも高さも俺が上だが、上手さがある・・・!!」と、やりにくさを口にします。そして魚住の3つめのファウルを見た牧が、「フィニッシャーにつっかけろ」と高砂に指示。4つ目のファウルを誘い、まんまと魚住を退場に追い込みます。

 湘北戦での清田に対する「海南のプレイヤーなら甘ったれたことを言うな」というくだりもそうでしたが、相手の弱点を徹底的に突く海南イズム、ここにありという試合です。

 最後は仙道が孤軍奮闘するも、魚住も含めて接戦での経験不足を露呈してしまい、勝ち方を知っている百戦錬磨の海南の経験値が際立った試合でした。経験値も含めて、やはり常勝チームは、勝つべくして勝ち続けるわけです。

 そして最後にもうひとつ・・・ちょっとゆるい話を。
スラムダンクというのは、登場人物の家庭環境がほとんど明らかにならない作品です。

 メインキャラクターで家族が登場するのは赤木家ぐらいなもので、主人公の花道もライバルの流川も、家族がほとんど出てきません。「ほとんど」と書いたのは、この安西監督が倒れたときに、父親とのエピソードで花道の過去や家庭環境が少しだけ明らかにされるんですね。

 ただこれも、わりとぼやっとしたままで、父親が倒れたときの状況から察するに、母親はすでに亡くなっているのか、あるいは離婚して出て行っているのかもわかりません。もっと言えば、花道の父親が生きているかどうかも明らかにされていません。思い出した花道が涙ぐんでいるのでいろいろと察してしまいますが。

では今回はこのへんで。


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