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杉田庄一物語その27 第三部「ミッドウェイ海戦」 第二次ソロモン海戦

 八月中旬、米軍は空母「エンタープライズ」、「サラトガ」、「ワスプ」を主力とする第六十一任務部隊をガダルカナル島方面に出撃させる。ガダルカナル島攻略を重要と考えた連合艦隊も、近藤信竹中将の第二艦隊と南雲忠一中将の第三艦隊をトラック島に派遣した。

 日本軍は駆逐艦による「鼠(ねずみ)輸送」と木造の輸送船艇(通称大発)による「蟻(あり)輸送」で川口清健少将率いる川口支隊(第三五旅団司令部及び歩兵第一二四連隊基幹)約四千名の輸送を始めた。しかし、八月二十日に敵機動部隊が接近という報を受け上陸は一時中止となり、近藤信竹中将率いる第二艦隊(戦艦「陸奥」、重巡洋艦「愛宕」、「高雄」、「摩耶(まや)」、「妙高」、「羽黒」等)と南雲忠一中将率いる第三艦隊(空母「翔鶴」、「瑞鶴」、「龍驤」、戦艦「比叡」、「霧島」、重巡洋艦「鈴谷」、「熊野」、「利根」、「筑摩」等)に出撃命令が出される。第三艦隊は本格的な機動部隊であったが、航空戦をほとんど知らない近藤中将が先任ということで統一指揮官となる。さらにその前に出されていた「空母を中心とした作戦要領」が全軍に説明されないままでの出動になり、各艦長の意識はいまだ「艦隊決戦」のままであった。

 輸送には本来は輸送船が使われるべきところであるが、制空権や制海権を確保していないため沈められる危険が多く、高速の駆逐艦を主として用いることになった。夜間になってから走り回るので「鼠輸送」の名前がつけられた。米軍はTokyoExpressと呼んでいた。

 八月二十三日から二十五日にかけて両軍機動部隊が交戦する。第二次ソロモン海戦である。せっかくレーダーを備えた「翔鶴」が敵をとらえていたにもかかわらず、その報告が大声で命令が飛び交っている司令部の喧騒(けんそう)の中で埋もれてしまった。海戦の結果は、日本軍側が空母「龍驤(りゅうじょう)」を失い、空母「翔鶴」が大破した。また、母艦航空隊の零戦三十機、艦爆二十三機、艦攻六機が失われ、百名近い搭乗員が戦死した。米軍側は、空母「ホーネット」撃沈、空母「エンタープライズ」大破となった。飛行機の損害は二十機である。

 米機動部隊は一時的に無力化し大きな危機に陥ったが、米軍はヘンダーソン基地の航空勢力で急場をしのぐことができた。日本軍側は、航空機の大量消耗と陸軍との連絡不徹底でこの好機に打って出ることができなかった。

 ガダルカナル島の一木支隊は八月二十五日には海岸線まで押し戻され壊滅する。残存兵は百二十六名であった。前述のように一木支隊では戦闘開始時に「総員背嚢遺棄」が命じられたため、残存兵はすさまじい飢餓に悩まされる。ここでもまた、補給を軽視する日本軍の悪い癖が出た。「武士は食わねど・・・」という精神論でなんとかしのげという思想だ。ガダルカナル島には食べるものがなく、木の根、草の根、水苔まで食べたが餓死や衰弱死、自死が続出した。のちに「餓島の戦い」と言われる所以である。

 少し戻るが、米軍は日本軍からうばった飛行場を整備しヘンダーソン飛行場と名付けた。二十日には米海兵隊所属のF4F戦闘機十九機とSBDドーントレス艦上爆撃機十二機が進出し、その後陸軍航空部隊のP400エアラコブラ戦闘機十四機が配置され、以後続々と陸海軍の航空機が搬入されていた。

 ラバウルからは台南空及び二空の零戦が連日のようにガダルカナル上陸部隊の支援を行った。それだけではない、ニューギニアやポートモレスビー方面からも連合国軍の航空兵力が押し寄せていて二方面作戦を強いられることになった。この時点で台南空と二空の零戦は合わせて約三十機、陸攻も約三十機しかなく、交代予定の六空の準備が急がれた。

 繰り返しになるが、零戦隊の南西方面への攻撃は、片道四時間近く千キロメートルを飛んでいき十五分程度ガダルカナル島上空で戦い、再び疲れきった状態でラバウルに戻るという過酷なものだった。対して米軍機は、ヘンダーソン飛行場から即飛び立てるという有利な状況にあり、その差は大きかった。零戦搭乗員は長距離飛行と厳しい空中戦とを繰り返し、急速に消耗していく。

 そこで、「翔鶴」「瑞鶴」の残存航空隊の零戦二十九機と艦攻三機が、急遽造成されたブカ飛行場に進出することになった。飛行隊長は「翔鶴」の新郷英城大尉である。ブカはラバウルから南東百六十浬で、ラバウルからガダルカナルへの途中に位置する。まもなく内地から到着する六空もブカに入る予定であった。

<参考>

グラマンF4F

note:グラマンF4Fワイルドキャット(1939)

SBDドーントレス

note:SBDドーントレス

P-400 エアラコブラ

note: エアラコブラ


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