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杉田庄一ノート97 「最後の紫電改パイロット 不屈の空の男の空戦記録」(笠井智一)に書かれた杉田庄一②編隊飛行訓練

 杉田の編隊に組み入れられた笠井らは猛烈な訓練を受けた。初対面のときに恐ろしい顔で現れた杉田に「ぶん殴られるかも」と恐れていた笠井ら列機の三人であるが、逆に「俺の愛する列機こーい!」と酒盛りの歓待を受ける。しかし、訓練が始まってからさらに驚愕することになる。これまでの訓練とは違う、緊張感の走る桁はずれに難易度の高いものだったのだ。笠井は次のように記している。

 「文字通り百戦錬磨の杉田兵曹は、操縦も射擊もとてもうまい人だった。グアムでは、 内地でほとんどできなかった操縦訓練を杉田兵曹から存分に教わった。単機訓練では、杉田一番機がする同じ格好、つまり直角に曲がったら同じように曲がるというふうに、真後ろについて航跡をなぞって飛ぶ追躡運動(ついじょううんどう)を通して、空戦に使える難しい空中運動を教わった。「捻り込み」(ひねりこみ)とよばれた、斜め宙返りの頂点で操縦桿とフットバーを操作し、捻りを入れることによって宙返りの半径を極限に小さくする方法などは、言葉では絶対に教育できない操作だ。こんなことも杉田兵曹からグアムでみっちり仕込まれた。なお、追躡運動は編隊を組むための訓練にもなった。

 編隊行動では列機はみな、一番機がやることをつねに見ておかなくてはならない。 一番機が気流で震えるようなことがあれば、同じく震わせる、そのくらい一番機を見ておかなくてはならない。動作がまばたき一瞬遅れただけで、編隊は大きく崩れてしまうからだ。編隊では機と機の距離の取り方がなかなか難しいが、そのためのスロットルの加減の秘訣のようなこともすベて具体的に杉田兵曹に教わった。」

 この編隊飛行は、現在でもブルーインパルスのアクロバット飛行や映画「トップガン」などで知ることができるが、一挙手一投足を日頃から合わせるような訓練で仕上げていく。戦闘機同士の戦いが一対一で「ひらりひらり」と舞うように飛んで相手の後ろについて撃墜する時代から、スピード重視で相手を追い火力を集中して一撃離脱の時代に変化したことに伴って生まれた新しい空戦技法である。編隊を組むことで複数機が火力を集中することができ攻撃力が増す、また複数機が守りあえることも利点となる。複葉機の時代から飛行機の進歩と共に進化してきてたどりついた最終的な空戦技法ともいえる。



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