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WINTER ON FIRE を見た/ウクライナの危機を考える

ウクライナ危機のニュースが毎日流れている。以前からウクライナに関心があったのでどうなるんだろうと心配している。かといって何ができるわけではない。ニュースの中で、女子学生が銃の練習をしていて「ひるまず戦うつもり」とインタビューに答えている。この言葉が決してうわついてないことは、ドキュメンタリー映画「WINTER ON FIRE」を観て、そして、ウクライナの歴史を少し勉強するとよくわかる。本気で「自由のために死んでも戦う」という決意がそこにある。自由を得る戦いの歴史の中でウクライナの若者たちは育ってきているのだ。

「WINTER ON FIRE」は2013年12月から2014年2月にかけての「ウクライナ騒乱」と言われる反政府デモのドキュメンタリー映画である。ネットフリックスで「ウクライナ」を検索していて見つけた。現在の「ウクライナ危機」につながる、いや発端ともいえるできごとである。

親露派のヤヌコーヴィチ政権がEUとの協定を見送ったことに対するデモを、政府は内務省の特殊部隊ベルクトを使って鎮圧しようとする。デモはあくまでも平和的に行われていたのに、デモ隊の中に紛れ込ませていたと思われる政府側の人間によって暴力的になっていく。つまり、武力鎮圧のきっかけをつくったわけで、これはその後の「ウクライナ東部(クリミア)紛争」や今の「ウクライナ危機」でも使われている常套手段。平和的な解決ではなく、武力闘争にするための「正義」を作るための工作。戦争は、このような仕掛けで勃発する。日本だって、「盧溝橋事件」を起こしている。同じ構図だ。

ヤヌコーヴィチ政権に対してのデモは2ヶ月も続き、「自由と尊厳」を求める民衆の数は日増しに増えていく。一方、政府は弾圧を厳しくし、ベルクトも過激さを増していき死者を出す。武装部隊員数名が一人を囲んで警棒で打ちのめしていく。この間の経緯をカメラは執拗に追っていく。作られた動画ではないのが異様な緊張感となって見ているものに伝わってくる。ベルクトの攻撃は警棒からゴム弾になり、ゴム弾が実弾になり、最後はビルの屋上からの狙撃になる。死者は増えていく。

一方、民衆のデモはまともな武器をもたない。ヘルメットが禁止されれば、料理用のなべをかぶり、レンガをはがして投げ、タイヤを燃やして燻り出す。僧侶が銃弾の飛び交う中を十字架をもってベルクトに呼びかける姿やウクライナ人の日蓮宗徒が太鼓をたたきながら南無妙法蓮華経を唱えている姿が映る。民衆はベルクトに「家に帰れ」「同じ国民を殺すな」「恥をしれ」と呼びかける。聖職者もデモに加わり、教会は野戦病院となる。数万人に膨らんだデモ隊に容赦なく打ち込まれる実弾。あえて、ケガ人を運び出そうとする者を狙撃していく。次々と運び込まれる重傷者。手を離せば死ぬ患者と新たに運び込まれ手術しなければならない患者のトリアージで悩む女医。カメラが揺れながら追っていく。

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「私たちはヨーロッパの一国です」という主張。「自由と尊厳」を求める民衆の声は、ウクライナの歴史を知るとよくわかる。ロシアとヨーロッパ諸国との境目にあり、言語も民族も複雑に構成されている。他国から攻め入られることも多く、常に独立のために戦い続けてこなければならなかった。ソ連に併合された時代にはホロドモールと呼ばれる人類最悪の人工的な大飢饉を経験している。このとき400万人〜1000万人くらいが餓死したと言われている。その後の第二次世界大戦時には、ナチスドイツによって蹂躙されハリコフ攻防戦などの激戦地となり、やはり800万人〜1400万人の死者を出し、ウクライナ人の5人に1人は死んでいるという(太平洋戦争で亡くなった日本人は軍民合わせて約600万人である)。ヨーロッパで一番豊かな穀倉地帯をかかえているのに現在でも最貧国となっている。

この「ウクライナ騒乱」の結果、ヤヌコーヴィチ大統領はロシアに亡命し、大統領選挙が行われるというところでこのドキュメンタリー映画は終わっている。ベルクトは解体されたがロシア内務省に編入され、クリミヤ紛争での治安部隊となり、現在の「ウクライナ危機」につながってくる。

この映画のあとアマゾンプライムで「バンデラス ウクライナの英雄」と「ソルジャーズ/ヒーロー・ネバー・ダイ」を観た。前者は、親露派の陰謀による村の焼き討ちをテーマに、後者は2014年のドネツク空港での200日以上の戦いを描いている。映画として制作されたものであるから、思い込みを捨ててみなければならないと思うが、それにしても・・・・

キエフが第二次世界大戦のスターリングラードにならないように祈る。ドイツ第六軍は市民の抵抗にあって敗北するが、この戦いで市民が100万人、ドイツ軍兵士が80万人死んでいる。

ウクライナの危機は終わらない。







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