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坪内隆彦「岸田総理よ、日米地位協定抜本改定を求めよ」(『維新と興亜』令和5年3月号)

 人体に有害と言われる有機フッ素化合物(PFAS)の一種PFOSが、日本各地の米軍基地周辺で相次いで検出されている。沖縄県環境部環境保全課が二月十五日に公表した土壌調査の結果では、普天間第二小学校で採取した表土から、米軍基地のない糸満の一六・五倍のPFOSが検出された。汚染は沖縄だけではなく横田基地周辺などでも広がっている。
 PFASを摂取した人の腎臓がんのリスクは二倍以上高まることが明らかになっている。国民の生命に関わる重大な問題だ。ただちに、米軍基地内への立ち入り調査を行って原因を究明し、汚染を食い止めるべきだ。ところが、日米地位協定がそれを阻んでいるのだ。
 平成二十七(二〇一五)年には、日米地位協定を補足する国際約束として「環境補足協定」が結ばれたものの、基地内への立ち入りは「米軍から事故の通報があった場合」と「基地の返還前」に限られている。
 嘉手納基地に近い比謝川では、すでに平成二十八(二〇一六)年に高濃度のPFOSが検出され、沖縄県企業局が米軍に立ち入り調査を求めたが、日本にはPFOSについて基準がないことを理由に、米軍は立ち入り調査を拒否した。その後、厚生労働省は令和二年四月に飲料水暫定基準を設定した。そこで企業局は同年五年五月に改めて立ち入り調査を求めたが、米軍は要請を無視したのである。
 こうした中で、 令和二年四月十六日には米軍普天間飛行場からPFOSを含む泡消火剤が大量に流出する事故が発生、環境補足協定に基づく立ち入り調査が実施された。
 また、昨年九月四日に厚木基地で米軍格納庫の泡消火設備から大量のPFOSを含む泡消火薬剤が流出する事故が発生した。これを受けて、厚木基地内への立ち入り調査が昨年十月に実施された。しかし、立ち入りできたのは調整池だけで、格納庫や駐機場は確認できなかった。立ち入りに向けて米側に流出量なども問い合わせていたが、回答はなかったと報じられている。その進め方は米軍の裁量に委ねられており、日本側の希望通りに調査をすることはできないということだ。
 結局、日米地位協定の壁に阻まれて、米軍に不都合な調査はできないということだ。つまり、日米地位協定を抜本改定し、米軍に国内法を適用しない限り、日本人の生命を守ることはできない。
 西ドイツは、一九五九年、国内に駐留する外国軍の地位や基地使用に関する「ボン補足協定」を締結した。当初はこの協定でも米軍にドイツの国内法を適用することができなかった。しかし、一九八〇年代に環境や建築、航空などの国内法を外国軍に適用すべきだとする世論が高まった。そして、米ソ冷戦終結、東西統一を経て、一九九三年にドイツは米軍への国内法適用を強化する大幅な改定を実現したのだ。州や地方自治体が基地内に立ち入る権利が明記された。ドイツにできたことがなぜ日本にできないのか。
 外国軍に国内法を適用できない状況は、国家主権が侵害されているということである。保守派こそ、地位協定の問題を主権侵害の問題としてとらえるべきである。かつて日本の保守政治家たちは在日米軍の存在を主権の問題として重く受け止めていた。例えば、中曽根康弘氏は昭和二十九年に次のように書いていた。
 「七百に及ぶ米国の軍事基地の制圧により、国の防衛と治安が保たれているという情けない被保護国の状態を、速に脱却しなければならないという現状打破の精神が全国的に漲って来た」(『日本の主張』)
 沖縄の本土復帰五十年を迎えた昨年五月、沖縄県議会の赤嶺昇議長らは、日米地位協定の抜本改定などを求める意見書を岸田総理に手渡した。岸田氏は「重く受け止め、しっかり時間をかけて分析し、検討させていただきたい」と答えた。
 岸田総理はいまこそアメリカに対して地位協定抜本改定を求めるべきではないのか。

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