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田母神俊雄「核武装は発言力の強化に直結する 国益を損なうアメリカ依存」(『維新と興亜』第5号、令和3年2月)

尖閣でアメリカが参戦する可能性は極めて低い


── バイデン政権が中国に対して融和的な政策を進めることを懸念する声もあります。
田母神 未だ不透明な部分もありますが、そうした可能性は十分に踏まえておく必要があると思っています。
 バイデン氏はオバマ政権の副大統領として対中融和政策を進めた人です。しかも、バイデン氏の息子さんも中国から支援を受けていたと報じられています。バイデン氏が中国に弱みを握られて脅され、中国に対して毅然とした態度がとれなくなるという不安もあります。ただ、トランプ政権誕生以降、状況は大きく変化したため、バイデン政権が対中政策を転換することは非常に困難でしょう。
── アメリカでは新政権が発足する度に、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用対象であることを確認してきました。今回、バイデン政権のサリバン大統領補佐官もこれまで同様に、それを確認しました。
田母神 NATO条約のような共同防衛条約には自動参戦条項が入っていますが、日米安保条約は自動参戦を保障するものではありません。第5条には「自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する」としか書かれていません。
 例えば、尖閣諸島で戦闘が始まったとき、アメリカ大統領が米軍に対して「戦争に参加して尖閣諸島を守れ」と命令しなければ、米軍は行動できません。果たして、アメリカ大統領にその決断ができるでしょうか。一般的なアメリカ国民は、尖閣の名前すら知りません。尖閣を知っているのは、在日米軍で勤務したアメリカの軍人だけでしょう。アメリカ国民が名前すら知らない島を守るために、アメリカの軍人が血を流す危険を冒してまで、それを決断することは極めて難しいと思います。
 仮に大統領が命令を出してくれたとしても、その有効期間は二カ月しかありません。二カ月以内に議会が同意してくれなければ、米軍は撤退しなければなりません。大統領が決断したとしても、議会がそれに同意する可能性は極めて低いでしょう。
 そこで中国は、一撃を与え、米軍が参戦するのを確認した場合には一旦撤退し、二カ月待った上で、再び手を出してくるかもしれません。その時には、アメリカはもう手出しできません。
 つまり、一旦尖閣で戦闘が起こった場合には、アメリカは頼りにできないということです。日米安保条約は、あくまでも抑止のためのものです。万が一、抑止が破綻して、日中間で現実の戦闘が起きれば、日本は自力で対処せざるを得なくなる可能性が高いでしょう。
 日本政府は、その現実を直視することなく、アメリカの大統領が代わる度に「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象である」と確認してもらい、それを日本のマスコミに報道させて、日本国民を安心させているのです。これは、国民を欺くことになると思います。日本政府は、尖閣諸島は自衛隊が守るという覚悟を固めるべきです。

「尖閣防衛法」を制定せよ


── 二月一日に、中国海警局の武器使用権限を明記した「海警法」が施行されました。
田母神 私は、中国は「海警法」施行によって、バイデン政権と菅政権に、尖閣諸島を守る意思が、どの程度あるのかを試しているのだと思います。海警局は日本の海上保安庁に相当する組織と言われてきましたが、二〇一八年に軍の最高指導機関である共産党中央軍事委員会の指揮下に入りました。実態は第二海軍です。
 自衛隊の強化が急務です。そのためには、早く憲法を改正し、自衛隊を国軍として位置づけなければなりません。そうすれば、自衛隊は国際法に基づいて軍として行動できるようになります。
 しかし、残念ながら憲法改正には時間がかかります。自民党には本気で憲法改正をやる気がありません。やるふりをしているだけなのです。こうした状況で、尖閣防衛を強化するためには、「尖閣防衛法」というような法律の制定を急ぐべきだと思います。尖閣諸島の防衛に限定して、自衛隊が平時から尖閣の防衛を固めることができるようにするための法整備です。いま手を打たなければ、中国はどんどん出てきます。
── 防衛費の増額が必要です。
田母神 緊縮財政が続く中で、防衛予算の増額には制約があると言われています。最近、MMT(現代貨幣理論)などの理論が唱えられるようになっていますが、私は、緊縮財政は間違っていると思います。防衛費を拡大することは景気回復にも結びつくと思います。
 安倍政権は防衛費を増やしたと言われていますが、微々たるものです。現在、日本の防衛費は五兆三〇〇〇億円で、中国はその約三倍の一五兆円を超えています。現在の状況をあと十年間放置したら、圧倒的に中国の軍事力が優位になります。すでに韓国の防衛費も四兆七〇〇〇億円に達しており、早晩韓国にも抜かれかねません。
 「安全保障の強化には、軍事力だけではなく情報力など総合的な力が必要だ」という議論がありますが、軍事力の均衡がなければ、それ以外の力がいくらあっても安全保障は維持できません。

核武装は発言力の強化に直結する

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