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【特別対談】深田萌絵×稲村公望「米中台のグローバリストに挟撃される日本」(『維新と興亜』第9号、令和3年10月)

米中結託の「G2」構想


── バイデン政権の対中政策の行方を考える上で、米中の橋渡し役を演じているグローバリストの動向に注目する必要があります。本日は、米中が結託して世界覇権を二分割しようという「G2」構想に警鐘を鳴らしてきた稲村さんと、グローバリストと連携して動いている浙江財閥に注目してきた深田さんに対談していただきます。稲村さんは、米中間で暗躍する人達を「国際拝金主義勢力」と呼んで警戒してきました。
稲村 奇跡的な戦後復興を遂げたわが国は、一九八〇年代までは国際社会の主要プレーヤーとして認められていました。ところが、一九九〇年代になると「日本の代わりに中国を国際社会の主要プレーヤーとして位置づける」という発想が、アメリカの政策決定者の一部に芽生え始めたのです。
 そうした「G2」論的な考え方は、一九九五年の大阪APEC(アジア太平洋経済協力)の頃には日本に伝えられていたように思います。環太平洋構想を唱えるなど国際社会で影響力を持っていた大来佐武郎氏は一九九三年二月に急逝しましたが、大来氏は「G2」構想の代表的論者と知られるフレッド・バーグステンと電話で話をしている最中に意識を失い、その後亡くなりました。私は、大来氏がバーグステンから「今後、アジアの代表選手は日本ではなく中国だ」と告げられてショックを受け、憤死されたと考えています。
 バーグステンは二〇〇五年に、「中国は日本を抜いて間もなく米国に次ぐ世界第二位の経済大国になる。両国は二つの経済大国であり、二つの貿易大国である」と語っていました。
 この時期、国務副長官を務めていたロバート・ゼーリックも、中国を「責任あるステーク・ホルダー(利害共有者)」と位置づけようとしました。二〇〇七年に世界銀行総裁に就いたゼーリックは、「世界の経済問題の解決には米中両国の先導的な協力こそが不可欠であり、強力なG2なしにはG20も失望に終わるだろう」と主張するに至ります。この年から夏季ダボス会議がスタートし、天津と大連で交互に開催されることになりました。
 ダボス会議は、スイスの経済学者クラウス・シュワブが一九七一年に設立した世界経済フォーラム(WEF)が毎年スイスのダボスで開催している年次総会です。ダボス会議を仕切るグローバリスト、「国際拝金主義勢力」が、自分たちに都合のいいように各国の政権を操ろうとする意図が透けて見えます。
 中国の台頭に伴い、日米欧三極委員会も変化していきました。二〇〇九年四月に開催された「三極委員会」東京会合には、インドの参加者とともに、中国社会科学院教授の張蘊嶺氏が参加しています。これに伴い日米欧三極委員会の名称から「日米欧」が外れ、単に三極委員会と呼ばれるようになったのです。
 一方、欧米白人中心のビルダーバーグ会議にも、中国人が参加するようになっています。二〇一一年にスイス・サンモリッツで開催された会議に、当時外務次官だった傅瑩が参加していたのです。一九五四年に発足したビルダーバーグ会議は、毎年一回、欧米の有力政治家、外交官、財界人、マスコミ幹部らが集まり、世界のあり方について議論する秘密会合とされています。G2推進派のゼーリックも、二〇〇九年にギリシャで開催されたビルダーバーグ会議に参加していたようです。

グローバリストと連携する浙江財閥の末裔たち


深田 ダボス会議に参加している華僑系の大企業の経営者たちが、浙江財閥の流れを汲んでいる人たちであることに注目すべきです。この浙江財閥の末裔たちが連携してきたグローバリストのビジネス戦略と中国の世界支配戦略は一致していたのです。
 浙江財閥は、一九世紀末から二〇世紀初頭にかけて中国大陸で大きな影響力を持っていた、上海を本拠にする金融資本の総称です。浙江省や江蘇省出身者が中心だったことから浙江財閥と呼ばれています。
 浙江財閥は戦前から米民主党政権と緊密な関係を持っていたとされています。浙江財閥の一人、宋嘉澍(チャーリー宋)はメソジスト派の宣教師で、三人娘を米国に留学させています。長女・靄齢は財閥の御曹司、次女・慶齢は孫文、そして三女・美齢は蒋介石に、それぞれ嫁いでいます。
 そして、浙江財閥の背後にいるのが「青幇」です。「幇」とは中国で昔からある相互扶助会のことで、青幇はもともと大運河の漕運労働者の自衛団体でした。その後、彼らはユダヤ系のサッスーン財閥と連携し、アヘン密売で暗躍していました。
 台湾の半導体産業、そして中国のビッグテック(大手IT企業)も、青幇の末裔やその関係者たちによって創設されました。この事実を理解しないと、中台関係の実態は見えません。
 例えば、台湾メモリ大手のウィンボンドは、青幇のボス杜月笙の右腕だった焦廷標の息子・焦佑鈞が創業した会社です。半導体受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、焦延標の力を借りて張忠諜が創業しました。そして、今回解放された、ファーウェイ最高財務責任者(CFO)の孟晩舟は、杜月笙と周恩来の共通の部下である孟東波の孫です。ウィンボンド、TSMC、ファーウェイの三社は支え合いながら成長してきたのです。また、アリババ共同創業者の蔡崇信の祖父も、杜月笙の弁護士として活動していました。
── 日本政府は、TSMCの工場誘致に前向きの姿勢を示しています。
深田 いまTSMCは、ソニーグループと協力して熊本県に工場を建設しようとしています。投資額は八千億円に上ると見られており、日本政府がその半分の四千億円を負担すると報道されています。この動きについては、『日経中文網』も否定的に報じていて、外資の誘致に数千億円の助成金を出すのは異例であり、そこに血税が注がれることには批判が出ると伝えています。また、TSMCは過去に合弁事業という形で半導体工場を建設したことはないとも報じています。
 四千億円もの資金が出せるなら、なぜもっと早くルネサスを救い、日本の半導体産業を守らなかったのでしょうか。日本は自力で半導体産業を再建することができるのですから、TSMCの誘致に巨額の血税を注ぎ込むようなことはやめるべきです。
 私は、TSMCをはじめとするファーウェイ周辺の台湾半導体産業は、日本とアメリカの半導体産業を潰して、世界の半導体産業を牛耳ろうとしているのではないかと警戒しています。また、日本人は台湾半導体企業経由で情報が中国に盗まれる危険性をもっと認識し、スパイ防止法を制定すべきです。

中国を利する持続可能な開発目標(SDGs)


── ダボス会議では、グローバル企業に都合のいい方針が示されると言われています。
深田 現在、日本のメディアが盛んに喧伝している持続可能な開発目標(SDGs)は、もともとダボス会議から出てきたものです。実は、脱炭素化の流れの強まりを歓迎しているのは中国なのです。世界の炭素排出量の四分の一を占めている中国はお咎めなしで、他の先進国では脱炭素化の取り組みが進行しているからです。
 つまり、SDGsは中国以外に工場を持たせないためのプロパガンダなのです。すでに二十年程前から、「中国に工場を移転してファブレスで儲けよう」というプロパガンダが出て来ていました。先進国の金融機関やファンドが「製造業には投資しない」という方針を示し、工場を持たないファブレスに投資するようになったのです。その結果、各国の製造業は工場を閉鎖し、工場を中国に移転するという流れができたのです。
 トランプ政権以降、中国に対する技術流出が問題になり、さらにコロナによって中国から工場を引き上げようという動きが出ていたにもかかわらず、脱炭素の動きに対応して再び中国に工場を移転しようという流れが出てきているのです。
稲村 今や国連機関もグローバル企業の利益を代弁するようになっています。こうした中で警戒すべきは、中国共産党がさまざまな手段で国連に対して浸透工作を行なっていることです。
 国連には一五の専門機関がありますが、そのうち、国際連合食糧農業機関(FAO)など四つの機関のトップが中国人となっています。そのほか、世界銀行など国際組織の重要ポストも中国共産党高官が占めるようになっています。

ナショナリズムを重視するグローバル企業


── バイデン政権の対中外交はどう展開されるのでしょうか。
稲村 バイデン政権が親中路線に傾斜する可能性もあります。例えば、バイデン政権の「インド太平洋調整官」に任命されたカート・キャンベルは、もともと親中派だと見られています。彼は中国政府とつながりのある米中友好団体「米中強財団」の副会長をかつて務め、同財団の創設者の一員だったとも報じられています。
 最近も、トランプ政権で大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンが、バイデン政権の対中政策は弱くなり、危険な状態になったと警告しています。また、バイデン大統領は九月に行った国連総会で、「私たちと中国の共同の未来においては、新型コロナウイルス、気候変動、貿易、サイバーテロ、国際テロ防止などが課題になる」と語り、米中間の協力分野を強調しています。
 バイデン政権における、グローバリストの影響力にも注目すべきです。例えば、カマラ・ハリス副大統領はグローバリズムに賛同しているように見えます。
深田 バイデン政権は、世界を送電網でつなぐグローバルスーパーグリッド構想では、中国と協力している節があります。ただし、バイデン政権の対中政策はまだらで、中国に対して強硬な部分とそうでない部分とがあります。バイデン政権では、ローカル経済を守りたい中小企業と、グローバルビジネスでメリットを享受する大企業が綱引きをしている状況だと思います。
 ただし、アメリカではナショナリズムに合致した姿勢をとるグローバル企業も出てきています。例えば、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)のうちアップル以外は、かなり台湾半導体企業に対して反発を強めているのです。
 三月には、グーグル元CEOであるエリック・シュミットが委員長を務める「人工知能に関する国家安全保障委員会」が、「AIにおけるアメリカの優位性を確保するためのロードマップ」を推奨する包括的な最終報告書を発表しました。この報告書では、過度な台湾製半導体依存の危険性を警告し、米国内に半導体を設計して生産できる「柔軟な基地」を建設すべきと主張しています。
 一方、インテルでは、株主が、半導体製造をTSMCへの委託を推進していたボブ・スワン前CEOを二月に退任させ、パット・ゲルシンガーをCEOに招きました。ゲルシンガーはインテルで最初の最高技術責任者(CTO)を務めた人物であり、インテルの半導体製造を立て直す方向に舵を切ろうとしています。

大手IT企業の力を抑える習近平


── 中国共産党と中国のビッグテックの関係はどうなっていくのでしょうか。
深田 注目されるのは、習近平が「共同富裕」というスローガンを打ち出したことです。貧富の差をなくして、すべての人を豊かにするという路線です。
 昨年、李克強首相が「中国では六億人の月収が千元(約一万五千円)前後だ」と発言し、波紋を呼んでいましたが、習近平は自ら「共同富裕」を唱え、平等な富の分配に舵を切ったということです。その結果、習近平政権はアリババやテンセントなどのビッグテックに対する優遇をやめようとしています。
 中国でも、コロナによってビッグテックが潤う一方、ローカル・ビジネスが衰退しています。日本と同じように、中国でも大企業で働いているのは国民の一部であり、圧倒的多数は中小企業で働いています。ビッグテックだけが巨大化していく状況を放置すれば、社会情勢が不安定化します。そこで、習近平は大きくなり過ぎたビッグテックの幹だけは残し、枝葉を切って、中小企業を守る方向に動いているということです。
 習近平は、これまでグローバリストの力を借りて権力を拡大してきましたが、強くなりすぎた大企業を抑えて、国民の大多数の支持を得ようとしています。戦略としては優れていると思います。ただし、ファーウェイ優遇はやめていませんが。(笑)
稲村 習近平が本当にそうした政策に取り組むのであれば、私は賛成したいと思います。中国の経済政策の大きな転換になる可能性もあります。
 振り返れば、中国に市場経済を導入し経済発展に導いたのは、鄧小平です。彼は一九七八年に中国の指導者としては戦後初となる正式訪日を行い、八日間の滞在中、新日鉄、日産、松下の三社を見学しました。また、新幹線で東京から関西方面に移動し、日本の近代化を実感したといいます。ところが、鄧小平は一九八〇年にミルトン・フリードマンを中国に招待し、幹部官僚や大学教授など数百人を集めて、市場原理主義理論について講演させ、グローパリズムに傾斜していきました。
 中国が急速に格差社会に向かったのに対して、日本は「一億総中流」と言われたように、貧富の格差が少ない平等な社会でした。私は一九七〇年代に中国やソ連の外交官に会って、「あなたの国と日本とではどちらが社会主義的ですか」と尋ねると、彼らはまともに答えられませんでした。ところが、「国際拝金主義勢力」に操られるように、小泉政権が新自由主義路線を強めてから、格差が急速に拡大してしまいました。菅前政権は、銀行法を改正し、中小企業淘汰策を進めました。わが国も習近平を見習い、グローバリストの力を抑える必要があります。所得倍増を掲げて登場した池田勇人政権の流れを組む宏池会の岸田氏が総理に就任したが、米国が弱体化した今こそ、自立自存の日本を追求すべきです。
深田 岸田政権となり、「新自由主義路線の転換」が提唱されました。利権の代弁者だった竹中平蔵、デビッド・アトキンソン、三浦瑠璃などが排除された点は、評価できます。ただし、新しい経産大臣が外資に5000億円もの助成金を出し、国内産業の窮乏化を推進しているのを止めないという点は減点対象と言えるでしょう。
 大事なのは、国内企業を支援し、国民が豊かになることではないでしょうか。

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