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無礼な男の礼儀

バンドをやっている人間は、自分がライブをやる前に様々な方法で集中力やテンション、モチベーションを上げる。

何日も前から色々考えてその日に備える人もいれば、その日の感覚を大切にしてステージに持ち込む人もいる。

ツアーなどに出た場合などの身体が疲れきっているときや、仕事後にライブがあるときなどは、モチベーションを上げたり、スイッチを切り替える方法も人によって様々なやり方があるだろう。

ひたすら楽屋で集中力を高める人もいれば、楽器の場合、曲のチェックなどをしながら本番を待つ人もいるだろう。

ここからは俺個人的なライブのときの話をしよう。

リハーサル(サウンドチェック)というものをほとんどやらない俺達のバンドだから、リハーサルをやってモチベーションやテンションを上げることは無い。

開場前にライブハウスに到着し、当日出演するバンド達と酒を飲みながら色んなことを話しているうちに、お客さんが入り始めて開場したことに気付く。

すでに、そのままライブができる服装なので着替える必要もほとんどない。

中には、ステージ衣装に着替えることによってテンションが上がりスイッチの入る人もいるだろう。

実際俺も、編み上げのドクターマーチンブーツの靴のひもを締めるとテンションが上がったり、髪の毛を立てていないときに楽屋で髪の毛を立てると気合いが入るのでその気持ちはよくわかる。

開場しお客さんが入り始めると、ドリンクコーナーやバーコーナーでよく知った顔の人間や友人達と話しているうちにライブがスタートする。

俺にとって自分のライブがある日のライブハウスの雰囲気は非常に大切で、お客さんの様子や他に出演しているバンドは、自分のライブの善し悪しに大きな影響を与える。

別にお客さんが少なかろうが、他のバンドがカッコ悪かろうが、そんなことは問題じゃない。

その場の、その空間にいる人間たちの雰囲気を肌で感じることが、俺がライブをやるときの非常に重要なモチベーションになっている。

大きなフェスなどのイベントのときや、バーで話し込んでしまって観忘れることもあるが、ライブが始まればよほどのことが無い限り、少しでもいいから観に行くことが多い。

その日来ているお客さんの雰囲気というのは、ライブごとに違う物があり、同じバンドの出演だったとしても日によって違うので、会場内の雰囲気を肌で感じることはライブハウスの醍醐味でもあり、自分の演奏面でも重要なポイントだ。

知らないバンドとの対バンで、そのバンドがカッコいいときなどは、あからさまに自分のテンションが上がる。

楽曲的な好みは置いといて、テンションが凄かったり、圧倒されるパワーやステージのバンドは素直にカッコいいと感じるし、観て良かったと心から思う。

初めて観たバンドのお客さんが、始まる前に楽しみにしていた感じなどが蘇ってきて「なるほど!」と思ったりもする。

お客さんが着ているTシャツがどんなものかとか、全く違うジャンルの対バンのときのお客さんを感じるのは非常に面白いし「ヨ〜シ!」と言う気分が段々と盛り上がって来る。

たくさんバンドが出演するライブのときのお客さんの泥酔加減により、俺も泥酔してしまうこともよくあるが…。

出演の順番が遅めの場合は、酒を飲みながらだいたいこんな風に出演前を過ごしている。

要するに、楽屋にはほとんど居ないということだ。

反対に出番が一番目のときなどは、その日の雰囲気を俺達が決めてやるぐらいの気持ちで、ライブハウスに到着する前からテンションが上がっていることも多い。

そういうときでも、開場してお客さんが入場している間、バーにいたり客席の雰囲気を感じたり、お客さんがどんな人達なのかは、変わらず肌で感じるようになっている。

ライブハウスによっては、バーなどもなく客席でバンドを見る意外の方法がないところもある。

そんなときに全てのバンドが素晴らしく、お客さんの雰囲気も最高なことがあったりする。

そういうライブのときは、自分のライブどうこうより、そのイベント自体に感動して非常に良い気分になると共に、ライブ終了後の翌日などから、次回のライブへのモチベーションが上がって来る。

先日行った仙台でのライブが全くそういうライブで、出演したバンド全てとお客さんの素晴らしさに感激した。

あの東日本大震災を経験した人間達の力強い魂は、その場にいる人間の心を奮い立たせ、俺のケツを蹴り上げてくれる。

あの素晴らしさが東北の力なんだと改めて思うと共に、自分の甘さや情けなさも表れ、しっかり受け止め、前に進める力を貰った。

お客さんがこんなにもカッコいいと思うライブなんて、そう滅多にあるもんじゃない。

出演していたバンド達の魂、迫力、パワー、どれをとっても素晴らしく心の底から感激した。

こういうことを体験できる奇跡が、ライブハウスには転がっている。

俺はこれからも、客席で、バーで、ライブそのものを感じ、ステージでそれを表して行きたい。

俺は、それがライブハウスにやって来る、愛する人々への返答だと思っている。

全てはあくまでも俺個人の話なので、各自各々自分なりのやり方で、愛する人々に答えて行こう。

それが愛する人々への最低限の礼儀であると俺は思っている。



Photo by FUKU

アメリカの盟友バンドLONG KNIFEを観る俺。 


30年以上に渡るバンド活動とモヒカンの髪型も今年で35年目。音楽での表現以外に、日本や海外、様々な場所での演奏経験や、10代から社会をドロップアウトした視点の文章を雑誌やWEBで執筆中。興味があれば是非サポートを!