『蜩ノ記』

『蜩ノ記』。『雨あがる』『博士の愛した数式』小泉堯史監督の完成度は毎度ながらすごいなと思うんですが、ことさらに感銘を受けた部分をあげてみます。
・えーと家族の描き方がですね、「武士の家」ですからがっつり家父長制なんですが、だからといってリラックスがあり、ユーモアがあり、意見の率直な交換があり、突然なたとえですけど、これなら、たとえば夫婦別姓や婚外子の扱いなど、めぐる法律などについて、プロの人もコンの人も、つまり、「伝統的な家族」が好きな人も、「伝統的家族なんて作られたもの派」の人も、「こういう家族なら」と思える、まさに理想的な形がある。岡田准一と堀北真希の演じる次世代の恋の実らせ方もとても美しい。こうした家族の具現化って、なかなかできないことです。
・役所広司演じる主人公・秋谷はなぜ死を受容するのか。汚名を晴らそうとしないのか。それが唯々諾々と追い詰められたゆえの死でなく、あらゆる可能性の中からそれがベター中のベターなのだと選択した結果であること。そして、自分の裁量がまだ使える部分ーー「生」の部分のクオリティを最大限に高めることによって、「最後、いかに死ぬか」はおまけのトッピング程度にすぎないのだ、という生き方を貫いていること。村上春樹は「生は死の対極でなくその一部である」とノルウェイの森の中に記したが、秋谷の生き方に限ってはそうではない。
・お侍さんですから武力権を持っているのですが、このお侍は結局、誰も殺さない。かといって全部「話し合いによって解決」派でもありません。彼の使った「武力」は、ネタバレなので書きませんが、「人はその下に熱いものが流れているということが伝わる武力」とでも言うべきでしょうか。それを見て育っていく息子まで同じ手を使う!(この息子が宣伝ではまったくフィーチャーされてなく、子役の名前すらわからないのですが、物語の中でも重要な役目だし、めちゃくちゃすばらしいのです。ついでに息子の友達の農民のげんきちも)。

とにかくキャストが一部の隙もなくいいし(全員のりきっている俳優さんばかりですね)、小泉演出の心遣いの細かさには毎度頭が下がるし、日本の自然の美しさを描かせたらなんといっても東宝映画だし、最初っから泣かせられるツボばかりで、かな~り強く押しちゃいます。


公式サイト http://higurashinoki.jp/

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